第5話 お荷物的存在

「遠藤さん、昨日はお疲れ様でした」


「で、他のメンバーたちとの面接はどうでした?」


「えっ、四人合わせても、わたしより時間が短かったですって?」


「遠藤さん、そんな言い方したら、まるでわたしがいじめたみたいに聞こえちゃうじゃないですか」


「わたしは良かれと思って、業界やメンバーのことをいろいろ教えてあげたのに……」


「えっ、そんな意味で言ったんじゃない? じゃあ、どういう意味なんですか?」


「はあ? 別に意味はなくて、ただ事実を言っただけですって?」


「遠藤さん、もう少し、人の気持ちを考えた方がいいですよ」


「人というものは、言い方ひとつで、気分が良くなったり、悪くなったりするんですから」


「あっ、また、そんな顔して」


「今のは説教じゃなくて、ただ注意しただけなんですから、そんな泣きそうな顔しないでくださいよ」


「それより、他のメンバーは何て言ってました?」


「えっ、さっちゃんがわたしのことを雑魚扱いしてたですって? 遠藤さん、さっきわたしが言ったこと、もう忘れたんですか?」


「たとえそれが事実だとしても、そのまま相手に伝えてどうするんですか。そういうことを人に伝えるときは、ちゃんとオブラートに包まないといけないんですよ」


「まあ、それはもういいです。で、さっちゃんは他にも何か言ってました?」


「あれ? どうしたんですか、急に黙っちゃって。もしかして、さっちゃんは、わたしのことでまた何か言ったんですか?」


「何て言ってたんですか。怒らないから正直に言ってください。ただし、オブラートに包むことを忘れないでくださいね」


「ふむふむ。さっちゃんはわたしのことを、けん玉しかできない無能女って言ってたんですか……って、それ、全然オブラートに包んでないから!」


「ていうか、それ逆に盛ってません? 本当に無能なんて言ったんですか?」


「もう。また、そんな顔して。分かりましたよ。じゃあ、さっちゃんの話はもういいです」


「次はりえぴょんです。彼女は人間ができてるから、メンバーの悪口なんて言わないと思いますけど、一応聞いておきます。りえぴょんはメンバーのことで何か言ってました?」 


「えっ、他のメンバーのことは何も言ってなかったけど、わたしにだけ言ってたですって?」


「もちろんそれ、いいことを言ってたんですよね? だってりえぴょんが悪口なんて言うはずないんだから。で、彼女は何て言ってたんですか?」


「なになに、りえぴょんがわたしのことを、グループのお荷物的存在って言ってたですって?」


「もしそれが事実なら、わたし立ち直れないわ。あの人格者のりえぴょんに、そんな風に思われてたなんて……」


「えっ、他のメンバーより関心を持たれてる証拠だから、気にする必要ないですって?」


「遠藤さん、もしかして、わたしを勇気づけようとしてくれてるんですか?」


「なんか、気を遣わせてしまって、すみません。そうですよね。たとえそう思われていても、関心が無いよりはマシですよね」


「じゃあ次は、ゆいゆいですね。彼女は何か言ってました?」


「ふむふむ。わたしは自分のことしか興味がないって言ってたんですか」


「それはまさに、ゆいゆいの本音ですね」


「彼女はグループ結成当初からソロ願望があって、今でもグループを卒業したがってますからね」


「ゆいゆいがいなくなると、グループがガタガタになるのは目に見えてるので、わたしたち他のメンバーは、必死にそれを食い止めている状態なんですよね」


「じゃあ最後に、セツさんは何か言ってました?」


「えっ、わたしはアイドルに向いてないから、早く辞めた方がいいですって?」


「わたし、セツさんにも、そんな風に思われてたんだ……ていうか、オブラートに包んでくれって、何回言わせるんですか!」


「はあ? これでもオブラートに包んでるですって?」


「じゃあ、もっとひどい言い方をしてるってことじゃないですか。彼女、本当は何て言ったんですか?」


「えっ、立ち直れなくなるから、聞かない方がいいですって?」


「……分かりました。わたしはまだアイドルを続けたいので、聞かないことにします」


「結局のところ、わたしはメンバーからお荷物と思われてるみたいなので、これからより一層頑張らないといけないってことですね」


 


 







 

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