第26話 【神聖砲】。

「く、くるよ! カノン! 今度は、あっち!」


「うおおおおっ! 【神聖砲ホーリー・バレル】!」


 カチリ。


『『オアァァァァォォォッ!?』』


 引き金を引くとともに聖なる黄金の魔力が砲口から迸り、また一組大量の実体のない幽霊魔物たちが消し飛ばされた。

 

 そして、その余波が直撃した建物の壁には――傷一つない。


 【神聖砲ホーリー・バレル】。そう、これが俺たちがこの日のために用意した秘策。


 いままで俺の素の七色の魔力を破壊の力として垂れ流していた〈魔砲〉に、アルケミが開発した外部接続部品アタッチメントをとりつけ聖属性の魔石をはめこむことで、聖なる浄化の力一点に〈魔砲〉の力を集中する。


 これが、俺とアルケミがこの元研究所を無傷で手に入れるための秘策――だったのまではいいんだけど。


「い、いまのうちに、今度は、こっち!」


「くそっ! いくらなんでも多すぎだろっ!」


 手に持つ〈魔砲〉に魔力を吸いとらせ急速に再充填しながら、身体強化レベル1の緑の魔力をまとうアルケミの背を追って走る。


 幽霊魔物たちの包囲に風穴を開け、少しでも手薄なところへと逃げ、


『『オオアァァァァ……!』』


「はあっ! はあっ! くそっ! 次から次へとっ! 【神聖砲ホーリー・バレル】っ!」


 カチリ。


『『オアァァァァォォォッ!?』』


 そして床下から新たにわき出してきた幽霊魔物たちの一部をまた吹き飛ばしては、また全力疾走して次の手薄な場所へ。


 物件屋の女店主トゥルカが施した建物への封印を解除してから、俺たちはずっとこんなあり様だった。


「はあっ! はあっ! くそ……! 早く……! 再装填を……!」


 ――甘く、見ていた。


 竜すら一撃で倒した絶大な威力を誇るアルケミの〈魔砲〉。けど、それは。


 カチリ。


「【神聖砲ホーリー・バレル】っ!」


『『オアァァァァォォォッ!?』』


「カノン! 次は、追いつかれる前に、あの壁際までっ!」


「はあっ……! はあっ……!」


 一発ずつしか、一方向ずつしか撃てないその魔道具は。


『『オオオアァァァァァァ……!』』


 全方位から、無尽蔵かと思うほどにわいて出てくるこの幽霊魔物たちの巣の中では。


「はあっ……! はあっ……! 【神聖砲ホーリー・バレル】っ……!」


『『オアァァァァォォォッ!?』』


「はあっ……! ぜえっ……! はあっ……!」


 多勢に無勢の、ぜんぜん足りない〝力〟でしかないのか……!? いや、そんなはず……!


「カノンっ!」


「……え? うわっ!?」


 壁に寄りかかり、ぜえはあと荒い息を整えていた俺を、近くにいたアルケミが突然ドン、と突き飛ばす。


『オオオアァァァ……!』


「あっ……!? うっ……!? あうううあああっ!?」


「あ、アルケミぃぃぃぃぃっっ!?」


 床の上に倒れ伏す寸前、俺が見たのは、実体のない幽霊魔物の一体の手にアルケミが背中を貫かれる姿だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る