第24話 魔物合成研究。

 薄暗い店内に独特の抑揚を持った女店主トゥルカの声が響き渡る。


「んふふ〜。御禁制の、え〜っといわゆる地下研究とか言うんだっけ〜? 場所は〜、旧市街区の外れ〜。そこではね〜、魔物の研究が行われてたの〜。魔物の……合成研究。いわゆる合成獣キメラってやつだね〜」


「ま、魔物の……合成……!? な、なんだよ、それ……!? なんだってそんなことを……!?」


「んぁ〜? 軍事利用……しようとしてた、とか〜? くわしいことは、よく知らな〜い」


「おいおい。なんで、そんな曖昧なんだよ……」


「だって、そこあんまり私の仕事に関係ないし〜。それよりも重要なのは〜、そこの元所長が魔物だ〜い好きだったってことかな〜?」


「は? どういうことだ?」


「んふふ〜。つまりね〜? その元所長さんは〜、魔物がだ〜い好きだから、たっくさんたっくさん実験して切り刻んだんだよ〜! 獣、巨虫、水棲、粘体、怪鳥、もっちろん亜人型や小竜なんてのも〜! もっちろん生きたまま〜!」


 話しているうちに興が乗ってきたのか、いつになく興奮した様子で語るトゥルカ。気のせいか、その長い前髪で隠れた奥の瞳が爛々と光ってるような気までしてくる。


「う、うぁうぅ…………!?」


 一方のアルケミは、ついに言葉を返す気力もなくしたのか、床にぺたんと座りこんだまま、ぎゅうっと俺のズボンに幼い子どものようにしがみついていた。……可愛い。


「それでぇ〜、当然廃棄された今となっては、だ〜れも浄化なんてしてないから〜、その恨み骨髄のまま死んじゃった魔物たちの幽霊であふれかえってるってわけ〜。いやぁ〜、見てきたけど、本当にひどいありさまだったよぅ〜! あゃ〜! いくらなんでも多すぎ〜! これ無理〜! って、しかたないから、一つしか手持ちのないとっておきの魔道具で私も建物ごと封印するしかなかったもん〜! んぁ〜、それで、どうするぅ〜?」


 ケラケラとひとしきり笑いころげていた女店主トゥルカ。だが、不意にぴたっと笑いを止めると、その長い前髪の奥に光る瞳を俺と足もとにすがりつくアルケミに向けてくる。


「んぁ〜、今の話を聞いてもまだその元研究所欲しいんならもう止めないけど〜、そのかわり、幽霊魔物たちきっちり全滅させてもらわないと私も困っちゃうんだよね〜、商売上〜。んぁ〜、本当なら封印して10年くらいかけて、ゆっくりじっくり浄化させていくつもりだったんだからさぁ〜。本当にやるぅ〜?」


「ああ。やるよ」


「や、やります……!」


 同時に返した俺とアルケミの答えに、迷いはなかった。

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