第23話 研究所跡へ!

「つつ、ついに来たよ……! カノン……! こ、ここが……!」


「ああ……! アルケミ……! 物件屋のトゥルカが言ってた、研究所跡だ……!」


 そこは、かつての災害の爪跡が残る旧市ゼロ街区の外れ。ほとんど人の住んでいない寒々しい場所。


 そこに、その大きな石造りの建物は立っていた。夕暮れの空に溶けこむように厳かに、そしてどこか来るものを拒むかのように、禍々しく。


 ――ごくり。


「ささ、さあ……! い、行くよ……! カノン……! だだ、だいじょうぶだよ……! ここ、この日のために、ばば、ばっちり準備しし、してきたんだから……!」


 いや、あんたが大丈――思わずそう突っ込みたくなったがやめておいた。


 震えて舌が回らない様子のアルケミはどう見てもいっぱいいっぱいだし、それでも俺一人にまかせておくこともできたのに、こうしていっしょにここに来ることを決めたのだから。


 それに確かにこの数日、俺たちはこの日のためにやれることはやってきた。


 腰のベルトにくくりつけた、新たな力を得た〈魔砲〉にそっと触れる。


「ああ。行こう。アルケミ」


 そして俺たちは、そのどこか背筋が寒くなるような雰囲気を漂わせる廃墟へと、足を踏み入れた。



「う、ううう……! まま、真っ暗だよぅ……!」


「だ、大丈夫だ……! アルケミ……! ほら、手持ちの簡易照明魔道具も点けてるだろ……!」


「そそ、そんなこと言ったって、ここ、怖いものは怖いんだもん……!」


 ――くそっ! だめだ……! 早く終わらせてここからでないと、……!


 となりを歩くアルケミとはまったく別の理由で、俺はさっきから緊張しっぱなしだった。……それは。


 ぎゅっ。ぷにゅっ。たゆんっ。


 さっきからぴったりと俺の体に、腕に。半ばしがみつくようにしっかと押しつけられた大きくてやわらかなふくらみとか、あまいにおいとか、あたたかな体温とか――あああ! とにかく、もうドキドキしてしょうがないんだってっ!

 

「う、ううぅ……! カノン……!」


 ――そして、震え。アルケミに触れた先から伝わってくるそれは、やっぱり尋常のものではなくて、俺は少しでも早く目的を達成しようと、暗い研究所の中を歩きながら、あの日トゥルカから聞いた話を思いだしていた。

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