第22話 研究所探し。
「まま、誠に申し訳ありませぇん……! ああ、アルケミ・ペルエクスさまにご紹介できる物件は、とと、当店にはああ、ありませんのでぇ……! しし、失礼しますぅ……!」
「あ、ちょっ……!?」
――これで三件め。しかも、今回はあからさまだった。
なんせ、あいさつもそこそこに席に座らされ、物件情報の書かれた紙を机の上に何枚も広げてニコニコと話をしていたのが、アルケミの名前を告げた途端にこの手のひら返しなのだから。
「行こう。アルケミ」
「カノン……! で、でも……!」
「……ひとつだけ俺に、心あたりがあるんだ」
「え……!?」
驚くアルケミに席を立つようにうながし、俺たちは店をあとにした。
――モストル・レイジーク博士。王都に多大な貢献をしたとかいう高名な錬金魔道技師で、アルケミの元上司。
あんたが性根の腐ったクソ野郎だってことは、よーくわかった。この街で名の通ったあんたから妨害された以上、まともな手段でアルケミが研究所を手に入れるのは、たぶん無理だ。
――なら、まともじゃない手段で、手に入れてやるよ……!
◇◇◇◇
ギシィィィィィ……。
そのひどく軋む古い扉を開けると、昼間にもかかわらず暗幕で閉め切った狭苦しい部屋にランタンの薄明かりだけがぼんやりと灯っていた。
「ん、ん、んあぇ〜?」
ついで机の上に突っ伏して寝息を立てていた女性――長い前髪で完全に両目を隠した、年齢のはっきりしない、見ようによっては少女のようにも見える女店主が顔を上げる。
「んぁ〜、お客さん〜? めっずらし〜。え〜っと、ひいふう……ん〜。一ヶ月ぶりかな〜? あはは〜。ほんと人来なさすぎ〜」
「か、カノン……? こ、ここは……?」
その店とは思えない異様な雰囲気に、あの物怖じしないアルケミがめずらしくわかりやすいくらいにうろたえだす。
「
「い、いわくつき……!? う、裏……!?」
「んあぇ〜? その言いかたはちょっとひどいなぁ〜? お客さん〜。ここは〜、ちゃんと登録してある正規のお店だよ〜?」
「そ、そうなんだ……! よ、よかったぁ……!」
「んふふ〜。取り扱ってるのがいわくつきばかりっていうのは、ほんとだけどね〜?」
「ひぃぃっ……!?」
「さて〜。じゃあ一ヶ月ぶりのお仕事、始めようかなぁ〜? お客さん〜? 今日は何をお探しで〜? ある日突然、住民みんな謎の失踪を遂げた
「し、失踪っ……!? け、血痕……!? おお、檻って……!? ひ、ひぃぃっ……!?」
「……探してるのは、元研究所だ。もしくは、十分な広さのある建物でもいい」
ニタリと口もとに笑みを浮かべながら、おどろおどろしい口調で語りかける女店主。すっかりその雰囲気に飲まれてしまったらしいアルケミのかわりに、俺は手短に用件を突きつける。
「元……研究所〜? ん〜、あ。あったかも〜」
「えっ……!? ほ、本当ですか!? お、教えてください! え、えっと……」
「んあぇ〜? もしかして私の名前〜? トゥルカだよ〜。トゥルカ・シール〜」
「あ、あたし、アルケミ・ペルエクスって言います! こっちはカノン・バースタ! あの、教えてください! トゥルカさん! あたしたち、どうしても研究所が欲しいんです!」
さっきまで場の雰囲気に完全に腰が引けていたはずのアルケミがその強い意思をこめた瞳でまっすぐに女店主トゥルカを見つめ返す。
「んふふ〜。おもしろ〜い。いいよ〜。教えてあげる〜。アルケミちゃ〜ん。ただ〜超問題あり物件だけど〜」
「う……!? だ、だだだいじょうぶです……! 研究所が手に入るなら、ど、どんないわくつきだって、あたし……!」
「んぁ〜? いわくつきとはちょっと違って〜。……
「……え? で、出るって……?」
「んふ………幽霊」
「ひ、ひぃやぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
直後、完全に腰が抜けて床の上に尻もちをついたアルケミの叫びが狭い店内にこだました。
だが――
「お、おお教えてください……! トゥルカさん……! そ、その研究所の場所……! ゆ、ゆゆ幽霊なら、かか、カノンとあたしが、な、なんとかしますから……!」
――涙目でガクガクと震えながらも、その決意と覚悟は微塵もゆらいではいなかった。
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