第14話 竜退治の勇者たち。
「それにしても、もう中腹なのにホントに魔物どころか、動物すらぜんぜんいないねー? 一応、警戒して市販品をあたしが改良したこれ使ってるけど」
暖かな陽射しが降りそそぐ荒れ山にて。
となりを歩くアルケミがそう言って俺に見せたのは、ランタンに似た形の魔物避けの魔道具。
魔力をこめると獣類の魔物が嫌う臭いを発するもので、アルケミの改造によって効果範囲を倍ほどに広くしているらしい。……入山前に魔力をこめたのは俺だけど。
「ああ。ギルドマスターのレオルドさんが言ってたとおりかもな。その逆鱗に触れることを恐れて、竜の棲家には生半可な魔物は近づかないって」
「って、ことは……いよいよだね! カノン!」
「ああ……!」
ごくり、と喉を鳴らす俺たちの前に、山肌にぽっかりと空いた洞穴が見えてきた。上は大きな空洞。……まちがいない。レオルドに教えてもらったこの荒れ山の中腹に潜む竜の棲家だ。
キイィィィッ……!
「よっし! いまだよ! カノン! そこで
「ああ!」
ガシャッと〈魔砲〉上部に設置されたレバーを上げ、これ以上の魔力供給と放出を遮断。撃ちたいときは、レバーをもどすだけ。プレ・チャージ。これが俺たちが考えた竜退治の必勝法――つまり、出会い頭と同時にぶっぱなす、だ!
なんせ、相手は天下の魔物最強種の一角。新人冒険者の俺たちがまともにやりあって、勝ち目なんてあるわけないからな。
(今夜は祝勝会なのです! さらに立派になったカノンおにいちゃんとアルおねえちゃんのために、もらったお金でミニカは超スペシャル煮込みをつくって、待ってるです!)
かわいい妹のもとに無事に帰るためにも、万が一なんかに賭けるわけにはいかない……!
「じゃあ、入ろっか! カノン! えへへ! これで上手くいけば、あたしたち竜退治の勇者さまだよ!」
「ああ……!」
今朝見送りしてくれたときの、最愛の妹の笑顔を思いだしながら、俺は入念に
「ま、まずいよ!? カノン! 人が!?」
「う、うおあああぁぁっ!」
『ガアアッ! グルオアアッ!』
無我夢中だった。洞穴に入ってすぐに見えてきたその光景。俺はガシャっとレバーを下げ、臨界を迎えさらに激しく光りだした〈魔砲〉を奇声を上げて動きだした竜に向ける。
「くっ……うっ!?」
万が一にも、倒れた人にあてるわけにはいかないと、俺のブレブレの筒先を――
「カノン! しっぽ!」
――アルケミがまっすぐに伸ばした、その指で定める。
カチリ。
次の瞬間、轟音とともに七色の光が放たれた。わずかに外れたその狙いは、だが竜の下半身を丸ごと吹き飛ばし、さらにはその余波で山肌を一部くり抜いて、洞穴の入口をもうひとつ増やした。
「はあっ……! はあっ……! はあっ……!」
「よ、よかったぁ……! まにあったぁ……!」
荒く息をつく俺と、安堵の息をつくアルケミ。こうして、俺たちの初めての竜退治は、行きあたりばったりながらも、どうにかこうにか成ったのだった。
「おい! あんた、大丈夫か!?」
「ああ……。無事だ……。だが、いまの光は、君たちが……?」
もうピクリとも動かなくなった、さっきまでのたうちまわっていた胸から上しかない竜の死体の前。放心したようにぺたんと座りこんだ銀色の長い髪の――俺たちよりだいぶ年上そうで、けど目が醒めるほどに綺麗な女が、その憂いを帯びた青い瞳で見上げてきた。
「はい! あたしがつくったこの〈魔砲〉でカノンがやってくれました!」
「魔……砲……?」
「……それで、まだ試作で、いまはこれひとつしかないし、必要魔力も多すぎてカノンしかまだ使えないんですけど、いずれは改良していろんな
――へえ。夢ってアルケミ、そんなこと考えてたのか。
この機会に俺にも聞かせようと思ったのか、まったく止めようとするそぶりすら見せずに、真剣にじーっと聞いてくれるこの銀髪の女がよっぽど話しやすかったのか、〈魔砲〉の仕組みに俺たちの自己紹介と大まかな事情から、一気に説明したアルケミ。
「ふ、く、あはははは!」
しばしじっと黙って、何かを考えていたように見えた銀髪の女は、やがて
「むー! ひどーい! そんなに笑わなくたっていいじゃないですかー! わかってますよー! 無謀だってことくらいー!でも、いつかは! って思ってるんですー!」
「ぷ、くく……! ああ。いや、誤解させてすまない。いま笑ったのは、君たちにじゃない。……私の知ってるある女について、なんだかずいぶん滑稽に思えてしまって、つい、ね。……私を助けてくれてありがとう。心からの感謝を君たちに。カノンに、アルケミ。新たな竜退治の勇者たち」
ぷくーっと、頬をふくらませて子どもじみた
その
「むー。カノンまでなんか見惚れちゃってるし……」
――それと、拗ねたアルケミが嫉妬するくらいに。
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