第12話 期待の超大型新人。
「こ、こんなに……!? ほ、本当にいいんですか! ギルドマスターさん!」
「ああ。もちろんかまわねえ。これは全部、お前さんたちをはめたあのネイトリーのクソ馬鹿が貯めこんでた金の一部だからな。訓練場の修理の足しにする分とあわせて、逃げられねえように全部きっちり取り立ててやったぜ。ガハハ!」
ごくっ……!
目を輝かせるアルケミと息を飲む俺。そんなふたりの前に豪快に笑うギルドマスターがテーブルに置いたのは、十数枚の金貨と、数えきれないほどのうず高く積まれた銀貨の山。
「っと、そういやまだ名乗ってなかったな。俺はレオルド。レオルド・アームストロングだ。いまさらだが、この王都冒険者ギルドのマスターを務めている。で、この
そう言いながら、グッと片腕をひじから上に曲げて見せるギルドマスターのレオルド。……あいかわらず筋肉の隆起が半端じゃない。
「あ、あたしはアルケミ! アルケミ・ペルエクスです! よろしくお願いします! レオルドさん!」
「か、カノン……! カノン・バースタだ……! えっと、よ、よろしく……! レオルド、さん……!」
あっさりとギルドマスターから名前呼びに変えたアルケミにならい、俺もとなりでぺこりと頭を下げた。
「おう! カノンのボウズに、アルケミの嬢ちゃんだな! しっかりおぼえとくぜ! ……さて、じゃあそろそろ本題だ」
――その途端、レオルドの雰囲気ががらりと変わった。
「お前たちふたりで、いったいどうやってあの強固な巨大訓練場の壁にあんな大穴を開けやがったか、そろそろ教えてもらおうか?」
ごくっ……!
いっさいの嘘もごまかしも許さない、そう雄弁に語る獲物を狙う獰猛な獅子のような瞳。息を飲む俺たちは顔を見合わせてから、こくりと同時にうなずいた。
ゴトリ。
「ん? なんだ、そりゃあ?」
「〈魔砲〉。あたしがつくった錬金魔道具です」
「……なるほど。天才、だな。アルケミの嬢ちゃんは」
必死に身振り手振りを交え、俺たちの境遇と〈魔砲〉の説明をし終えたアルケミに、レオルドはそう言ってニカッとその強面をくずす。
「ガハハ! いやー、いいねぇ! クソ博士の追放に負けず、むしろそれをあえてアピールした上で見返して成り上がろうっていう、その根性! いや若者ってのは、そうじゃなきゃいけねえ! よっし! 俺は応援させてもらうぜ! アルケミの嬢ちゃん!」
「あ、ありがとうございます……! レオルドさん……!」
「ま、それ以上にすげえと思ったのは、お前さんだけどな! カノンのボウズ!」
緊張の糸が切れたように、ホッと笑顔になったアルケミに安堵していた俺に、突然レオルドがそう水を向けてきた。
「え? 俺? いや、俺はゼロでこの〈魔砲〉がなけりゃ何もできないし、たまたまアルケミと会って運がよかっただけで……!」
「だからこそだよ! ゼロ、大いにけっこうじゃねえか! 最底辺から力をしめして成り上がる! これぞまさしく冒険者の夢! 生き様に尽きるってもんだぜ! ガッハッハッハ!」
「俺が冒険者の、夢……?」
体が震える。考えたこともなかったその言葉に。思いもよらないすごい人に認めてもらった、その現実に。
「それに、運だけじゃねえだろ? カノンのボウズ。まず最初になりふりかまわず助けようとして、文字どおり体を張ったお前さんのその姿が見事にこのアルケミの嬢ちゃんの
「ちょっ……!? なっ……!?」
「れれ、レオルドさんっ!? あ、あたしたち、まだそんなんじゃ……!?」
「おう、そうか! ガッハッハ! いやー、悪い悪い! 野暮なことを言っちまったぜ! お、そうだ! せっかくだから、ここは詫びがわりに、ひとつ俺からカノンのボウズに
「ぷ、
「わあ……! すっごくかっこいいよ! カノン! すっごく似合ってる……!」
「ガッハッハ! これで立派に冒険者らしくなったな。俺が現役のとき、まだ若い時分に使ってた装備だ。ガハハ! 思ったとおり、なかなかのもんだな! サイズ調整もお前さんの魔力でピッタリだしよ!」
レオルドに言われるがままに俺が身につけたのは、着た瞬間に俺の魔力を吸ってピッタリ体にフィットした、重厚で、それでいて軽く、しなやかな可動域を残した黒を基調とした装束。
いままでのみすぼらしさとは雲泥の差のその装備に、『似合ってる!』とキラキラとした瞳を向けてくるアルケミに、顔がかあっと熱くなって、俺は思わず目をそらしてしまった。
「な、なあ。レオルドさん。あんた、なんでここまでしてくれるんだ?」
「ん? さっきから言ってんだろ? お前さんたちが気に入ったからだよ。あとは、先行投資でもあるな。カノンにアルケミ。この王都冒険者ギルドが誇る巨大訓練場の壁に大穴を開けるなんて前代未聞の事件を起こしてくれやがった期待の超大型新人のお前さんたちがこれから先何をしでかすのか、大いに期待させてもらうぜ? ガッハッハッハ!」
「はい! あたしたち、がんばりますね! レオルドさん!」
「ああ! 見ててくれ、レオルドさん! これからの俺と、アルケミを!」
「おう! そうか! ガッハッハッハ!」
立ち上がってこぶしを握り、誓いを新たにする俺とアルケミを見て、レオルドは獅子のような目を細め高らかに笑った。
「あ、そうだ! レオルドさん! あとひとつだけ聞いていいですか?」
想像もしていなかった、俺たちとギルドマスターとの突然の面談。それがとてもいい雰囲気に終わりかけたそのとき、アルケミが思いだしたようにポン、と手をたたいた。
「おお、なんだ?」
「あの、このあたりだと
「…………は?」
――挑むには死を以て。そう冒険者のあいだでまことしやかにささやかれる魔物最強種の一角である、竜。
その所在を今日冒険者になったばかりのアルケミは尋ねた。まるで街でおすすめのケーキ屋を聞くかのような気軽さで。
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