第8話 冒険者になろうよ!
「な、なあ……? 本当に入るのか? しかもその格好で?」
「もっちろん! あたしたちいま無職だし、まずは先立つものがないとなんにもできないからね! 名前も上げたいし! それと、この格好はあたしの決意表明だよ! じゃあ、行くよ! カノン!」
「あ、おい!?」
ギィィ……。
静止の声をかける間もなく、軋みを立てて扉は開いた。同時に、バッと中にいた人間からいっせいに視線が向けられる。どれひとつとっても、一癖も二癖もありそうな、ただものではない雰囲気を漂わせた視線が。
――そう。ここは、王都の冒険者ギルド本部。事の始まりは、今朝。俺がアルケミの
◇◇◇◇
「で、アルケミ? 夢を叶えるったって、具体的にはいったい何をどうするんだ?」
「もっちろん!
「うう……。まさか、おにいちゃんが昨日のミニカの誕生日におしごとクビになってたなんて……。アルおねえちゃん……! おにいちゃんをおねがいです……! アルおねえちゃんだけがたよりです……!」
「うん! まっかせて! ミニカちゃん! ば〜んと稼いだお金で、お土産買って帰るからね!」
「わぁ……! たのもしいですぅ! アルおねえちゃん!」
◇◇◇◇
――この家の大黒柱って俺だよな? 思わずそう言いたくなるような朝食の席でのやりとりを経て、俺とアルケミはこうして冒険者ギルドを訪れていた。
「ふん、ガキの男女二人組か……」
「へひひ。女のほうはなかなか立派なモノをお持ちじゃねえか……!」
「つーかあのコートって、錬金魔道技師じゃね? しかも、うわ! 背中の紋章黒く塗り潰されてるって、追放されてんのかよ!? そんなもん堂々と着てわざわざ見せびらかすって、かわいい顔してどういう神経してんだ、あの女の子……!」
「うふふん。みんな女の子にばかり夢中だけど、男の子のほうも格好は貧相だけど、なかなかかわいい顔してるわよぉん? あの生意気そうなつり上がった赤い目。じゅる……! 思わず屈服させたくなっちゃうわぁん……!」
――顔に大きな切り傷のある強面の鎧の男。いかにも小狡そうに舌なめずりをする盗賊風の男。血気盛んそうな若い剣士風の男。
それから、絶対に本気で目を合わせたくない筋肉モリモリでピッチリしたシャツの胸もとを大きくはだけさせた、さっきからこっちに熱視線を送ってきてる女言葉の角刈りのオッサン……!
ギルド内にいる癖の強い先輩冒険者たちが思い思いにねっとりとした視線を俺たちに送り、品定めをする。
「な、なあ……! アルケミ……! さっさと用事を済ませちまおう……!」
「うん。カノン。あたしも賛成。でも、変なんだよね……? さっきから探してるんだけど、受付にだれもいないみたいで……?」
「おっやぁ? 新人さんかなぁ? キミたちぃ?」
――その瞬間、ざわついていたギルド内の喧騒が一気に静まる。
あまりの居心地の悪さに身の置きどころのない気分になっていた俺たちの前に、その細身の剣士風の男は現れた。連れ立った、おどおどとした雰囲気の眼鏡をしたギルドの制服を着た女性の肩に手を置きながら。
「へぇ……?」
片側だけ流した波がかった長い金髪に、口もとには薄い笑み。切れ長の青い瞳が俺を、それからアルケミを見て、すっと細まる。
「あ、ご、ごめんなさい……! ちょっと諸用で席を外してまして……! 新しく来た方でしたら、まずこちらでご登録を……」
「うん! いい目をしてるねぇ! キミたち! ここでこうして会ったのも何かの縁だ! このボクが先輩としてキミたちの冒険者登録と試験を請け負おうじゃないか!」
「ね、ネイトリーさん……!? で、でも……!」
「ふふん、別にかまわないだろう? 新人冒険者の育成も先輩冒険者としての立派な仕事じゃないか。……ああ、それとも何かい? さっき話した今夜の件、やっぱり気が変わってキミが色良い返事をしてくれるのかな?」
その言葉に、眼鏡のギルド職員の女性がうつむき、ぐっと制服のすそを握りしめた。
「わ、わかり……ました……。このおふたりの件は、ネイトリーさんにおまかせ……します……」
「ハハハ! そうこなくっちゃ! さ、待たせたね! キミたち!」
波がかった片側だけ流した長い金髪をなびかせて、くるりと細身の男が振り返る。
「ボクはネイトリー・カァス! キミたちは運がいい! このギルド若手ナンバーワン! エース冒険者であるこのボクの手ほどきを受けられるのだからね!」
バッと前髪をかき上げて、どこか胡散臭いまでのキラキラとした笑みを見せる男。
「あ、はい! あたしは、アルケミ・ペルエクスです! よろしくお願いします! ネイトリーさん!」
「カノン・バースタ。あー、よろしく」
ペコリと頭を下げるとなりのアルケミにならって、俺も軽く会釈する。
こうして、わけもわからないままに、自信満々で軽薄そうな男、ネイトリーの世話になることが決まった俺とアルケミ。
でも、こいつ……? なんか……ひっ!?
得体の知れない不安と――
「あらぁん……! あの最低男のネイトリーなんかに捕まるなんてかわぁいそうん……。うふふん。そうなるあとぉ、傷心したあの男の子は、たぁっぷりアタシがなぐさめてあげないとねぇん……?」
――それ以上にぞわぞわと、はっきりとした身の危険と悪寒をひしひしと背中に感じながら。
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