第4話 幸せな誕生日。
「ふふん! まあ、ミニカにべったりのおにいちゃんに彼女なんてできるわけないと思ってたです! まったく、いつまでも妹ばなれできないこまったおにいちゃんですっ! ホントにホントに! それで? あなたは何しに来たですか? え? ミニカの誕生日をお祝い? わあ! うれしいですぅ! ……じゃなくて! ふふん! わるいですけど、今日おにいちゃんとお友だちになったばかりの女のひとなんかに祝ってもらうつもりは――え? お、お菓子つくってくれるですか……? し、しかたないです! とくべつにミニカの誕生日パーティーにお呼ばれしてあげるです! 感謝しなさい、ですぅっ!」
――その家の前の出来事からわずか一時間後。
「わあ! なんだかすっごくいい匂いがしてきたです! ね、ね! アルケミさん! つぎはどうするですか?」
「そうだね! ミニカちゃん! 生地はもうオーブンに入れちゃってあとはふくらむのを待つだけだから、次は生地に塗るあま〜いクリームをつくろっか!」
「わぁ〜い! アルケミさん! ミニカ、あま〜いクリームづくり、やってみたいです! ミニカにおしえてください、ですっ!」
「もっちろん! ミニカちゃん! ふたりでとびっきりおいしいお菓子つくって、カノンたち、びっくりさせてあげようね!」
「はいっ! ですっ! アルケミさんっ!」
そう言ってとなり同士に顔を向けあったふたりは、お互いに満面の笑みを見せる。
う、うそだろ……? もうなじんでる……! っていうか、これでもかってくらい懐いてる……!
王都
ひとりはアルケミ。今日俺が偶然に助けた女の子。もうひとりは、ちょこんと台の上に立つ俺の最愛の妹、ミニカ。
(ちょ、ちょっと、は、はなれなさいですぅっっ!?)
半べそをかいて、頬ずりするアルケミをミニカが必死に引きはがそうとしていた出会いのときからは、まだ一時間ちょっとしか経っていない。
やっぱり最初はそれでもぎこちなかったけど、料理が進むたびに、ふたりはどんどん仲よくなっていった。むしろ。
(もー! おにいちゃんは邪魔だからサビーと座って待ってるです! ここは、ミニカとアルケミさんにまかせて!)
って感じで、すっかり蚊帳の外になってしまった俺は、和気あいあいと料理に夢中のふたりをおいて、弟分のサビーのいるリビングへと向かった。
「あ、カノンのアニキ! 料理の手伝いはもういいっすか?」
「ああ。むしろ邪魔だからって追いだされちまったよ」
「あはは! アルケミの姐さんにすっかりミニカちゃん、とられちゃったっすね!」
「なんだよ、姐さんって……。で、お前はいま何してんだ? それ」
「ああ、これっすか? 仕事っすよ! ちょっと修理を頼まれたっす! まあ魔道具じゃなくて、ネジ巻き式の旧式時計なんで、簡単なもんっすよ!」
そう言って、来客用のソファに座ったサビーは真剣な表情でテーブルの上の物体に向かって何やらカチャカチャと道具を持った手を動かし始める。
「……簡単って、ここらでそういうの直せるの、手先が器用なお前くらいだけどな」
ぽつりとそうつぶやきながら、俺は家族用のソファに寝っ転がって天井を見上げた。
――ああ。そういや、アルケミのことがあってすっかり頭から飛んでたけど、俺、荷運びの仕事クビになっちまったんだよな。明日からどうするか……。シャクだけど元親方の言うとおり、やっぱ
(お願い……! ねえ、キミ……! あたしの
――ああ。そういや、そんなこと言ってたっけ。でも、
懇願するあのときのアルケミの言葉を思いだしながら、俺は、ゆっくりと目を閉じた。
「さあ! できたです! メインはミニカ特製スペシャル煮込み! なんと、今日はお野菜に加えていつもよりいっぱいお肉が入ってるですよ! さらに、いつもよりちょっとだけいい小麦で焼いたパン、です!」
「へへ! 煮込み料理はアニキと姐さんが来る前にオイラもちょっとだけ手伝ったっす!」
「そして、誕生日スイーツは、じゃーん!」
「ふふん! ミニカとアルおねえちゃんが腕によりをかけてつくった自信作の、あま〜いクリームをたっぷりぬった手づくりケーキ! なのですぅ!」
作業していた諸々が綺麗さっぱり片づけられたリビングのテーブルの上。自慢げな笑顔を見せる妹のミニカとアルケミの手で次々にできたての料理が並べられていく。
「おお! たしかに美味そう――って、お、おい? ミニカ? あ、アルおねえちゃん……!?」
「もー! おにいちゃん! はやく食べはじめないと冷めちゃうですよ! ね、アルおねえちゃん!」
「そうだよ、カノン! 早く食べよ! ねー、ミニカちゃん!」
こ、こいつ……!? 懐いてるとは思ったけど……こ、この短い時間でミニカとここまで……!?
――なんて、一瞬かわいい妹をとられたみたいに思いそうになったけど。
「はい、です! カノンおにいちゃんへの、ミニカとアルおねえちゃんの愛情たっぷりいりなんですから!」
その幸せそうなミニカの笑顔を見ていたら、どうでもよく――いや、むしろアルケミには感謝しないとな、と心から思った俺だった。
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