第5話 明けて空の下、ふたり。

「わあ……! おにいちゃん! とっても素敵な髪飾りありがとうです! ミニカ、すっごく大切につかうです! おにいちゃんに、アルおねえちゃんに、サビー、みんなにいっぱい祝ってもらって、ミニカと〜っても! しあわせ、ですぅ!」


 その後、ミニカとアルケミがつくった料理をみんなでたらふく平らげ、(どれも美味かった)、こっそり俺が用意しておいた誕生日プレゼントの綺麗な青いガラス玉の髪飾り左右2個セットを満面の笑顔のミニカに渡して、誕生日パーティーはお開きになった。


 で、弟分のサビーは帰ったが、夜も遅いしいまから新市街区に帰るにはけっこうあぶないのと、(送るつもりくらいはぜんぜんあったけど)、すっかり懐いたミニカにせがまれて、アルケミは妹の部屋に泊まっていくことになった。



「ん……?」


 まだ薄暗い時間に、ぱちっと目が覚める。


 ――ああ。習慣、だな。荷運びの仕事をクビになった今日からは、もう起きる必要もないってのに。ああ。そういや結局、昨夜はミニカには言いだせなかったな……。


 なんとなく二度寝する気にもなれなくて、俺は自分の部屋から外に出た。


 そのまま入口から出て、ボロくなってきた家の外壁に背中をあずけ、ぼーっとまだ陽が昇りきらない空を見上げる。


 じゃり。


「……朝、早いんだね」


「……習慣、だよ。いつもこれくらいに起きて、他の大人たちより早く仕事場にいってたからな。そうでもしないと魔力で身体強化のできないゼロの俺じゃ、夕食までにノルマが終わらないんだ。……しかたないとはいえ、あんまり長い時間、妹を独りにさせたくないからな」


「ふふ。いいお兄ちゃん、なんだね」


「あんたこそ。あのミニカがすっかり懐いちまって」


 そこで俺は、ようやく声が聞こえてきたほうに顔を向ける。


 アルケミ。予想どおりの相手がそこにいた。優しげな笑みをたたえるアルケミは、いまは上着を外して、上下とも中に着てたラフな格好だけになっている。


 ホットパンツからのびるしなやかな脚とか、袖なしのシャツからのびるやわらかそうな二の腕とか、……大きくてやわらかそうな胸の谷間とか、朝だからかちょっとだけ雰囲気がちがって見える髪や顔とか。


 なんだか気恥ずかしくなってしまった俺は、ふたたび視線を外して正面に向ける。そして、ふう、と息を吐いてから話を続けた。


「にしても、変わったやつだよな、あんた。会ったばかりの男の家に来て、料理して。その妹に懐かれて、泊まって。……魔力を使えないゼロの俺たちのこともぜんぜん気にしてないみたいだし」


 じゃり。


「あはは。でも、あたしに言わせると、カノンのほうが変わってると思うけど?」


「え? それ、どういう――」


 ドックン。俺の心臓が激しく跳ねる。いつのまにか、手を伸ばせばとどくほどすぐ近くにアルケミが来ていた。


 壁に背をあずけた憂いを帯びた横顔。俺よりも頭ひとつ小さい体。思わず頬がかあっと熱くなる。そんな俺を知ってか知らずか、アルケミは前を向いたままひとつうなずくと、顔を俺に向けた。


「……ねえ、カノン。あたしのじじょう、聞いてくれる?」


 ――瞳を潤ませながら、小さく俺を見上げ、そう告げる。


「……ああ。聞かせてくれ」


(お願い……! ねえ、キミ……! あたしの運命共同体パートナーになって……!)


 ――それは、初めてアルケミと出会ったあのとき。ぎゅっと俺の手を握りながら、懇願するようにそう告げたあのときと同じ、切羽詰まったような真剣なまなざしだった。

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