第2話 なんなんだよ、この女の子。

「あ、あばばぼべ……!?」


 魔力の光によって裂かれた曇天の隙間から差しこむ陽の光。中央広場の石畳の上、目の前でなにかが倒れる音に、ハッと俺は半身を起こし前を向いた。


 見れば、さっきナイフを向けてきた盗人の男が泡を吹いて、腹を向けた蛙のように無様にぶっ倒れている。


 ――あ、ああ。まあ、そりゃそうだよな。下手すりゃ、俺が撃ったあのとんでもない威力の魔力の光が自分に向かって……。


「う、うわああぁぁっ!? な、なんなんだよ……!? これ……!?」


 ――そこでようやく我に返った俺は、その魔道具を手から放りだした。


 カシャン、と乾いた音を立てて地面に転がるそれに、さっきまでのような迸るまでの凄まじい魔力は感じられない。


「うぅ……! あたっちゃったら、本当にどうしようかと思ったよぅ……! じゃなくて!」


「うわっ!?」


 俺の体の上、半ばしがみつくようにしていた女の子がガバッと起き上がる。ぷるん、とさっきまで俺の体に押しつけられていた大きくてやわらかなものが目の前で激しく揺れた。


「キミ、だいじょうぶ!? 意識ある!? 気持ち悪くなってない!?」


「う、あ……!? ぶ、無事だ……! い、いいから、さっさと俺から離れてくれ……!」


 なにを思ったかそのままの体勢、上からのぞきこむような勢いで、ぺたぺたと俺の顔をはさむように両手でさわりだす女の子。


 ――やばい。めっちゃくちゃ可愛い。しかもなんかいい匂いするし。


 頭の上に妙な意匠デザインの色眼鏡をのっけてるのがちょっと変わってるけど、肩のあたりまでの長さのさらさらの赤みがかった茶色の髪とか、心配そうに見つめてくる大きな翠色の瞳とか、つるんとしてやわらかそうな唇とか。


 ――いや! とにかくこんな至近距離で妹以外の女の子と接したことないから、さっきからドキドキしてしょうがないんだって!


 あと、正直目のやり場にも困ってしょうがない……! その……半分ずれ落ちたコートの下のやわらかそうな二の腕とか、袖なしのシャツのすきまからのぞいてる、さっきから目の前でぷるんぷるん揺れまくってる二つの大きなふくらみの谷間とか。


「そっか……! よかったぁ……! って、あれ……? ……? まさか……!?」


「うおっ!?」


 ほっと安堵の息を吐いて、ようやく俺から離れるかと思った女の子。が、今度は頭にのせていた妙な意匠の色眼鏡をかけると、さっきより顔をさらにずずいと鼻先まで近づけてきた。いやいやいや! だから近いって!?


 ピピピピピー、ボンッ!


「うおおあぁっ!?」


 思わず顔をかぁーっと熱くする俺の前で数秒後起きた、小さな爆発音。と同時に、女の子のかけた妙な意匠の眼鏡から、プスプスと小さな煙が立ち昇る。


「けいそく……ふのう……?」


「お、おい!? あんた、大丈夫か!?」


 ようやく俺から離れ、ぺたんと地面に座りこんだと思ったら、呆然とした様子で意味不明なことをつぶやきだす女の子。大あわてで俺は肩をゆさぶろうとする――と思ったら。


「お願い……! ねえ、キミ……! あたしの運命共同体パートナーになって……!」


 それよりも早く、ぷすぷすと煙を上げる色眼鏡を外すと、女の子がその両の手の指をからませて、しっかと俺の手を握ってきた。


 懇願するように、見上げる瞳をうるうると潤ませながら。



「お、おい……!? な、なんだいまの光……!?」


「と、とんでもない量の魔力を感じたぞ……!? た、たしかあの娘と男のあたりから……!?」


「きゃあっ!? み、見て……! ひ、人が倒れてるわよ……!?」


 にわかに辺りがざわめきだす。どうやら、さっき俺が放ったとんでもない威力の魔力の光の衝撃からようやく立ち直ったらしい。


 と同時に、ハッとした様子で俺の手に両手の指をからませていた女の子があたりを見まわした。


「ここじゃだめ! いっしょに来て!」


「お、おい!?」


 そして、地面に転がった魔道具をひっつかんでカバンに押しこむと、そのまま俺の手を引いてコートをひるがえし走りだした。


「ちょっ、ちょっと待てっ!? 今日は妹の誕生日なんだよ! なんか甘い菓子でも買って、早く帰らないと! 運命共同体パートナーだかなんだか知らないけど、俺にはあんたにつきあってる時間は!」


「うん、わかった! なら、あたしもキミの家でいっしょにお祝いしてあげる!」


「はあっ!? いったいなに言ってんだよ、あんた!? だいたい見ず知らずの男の家にーー」


 俺が言い終わる前に、前を走る女の子がくるりと振り返ってにっこりと笑みを見せる。


「あたし、アルケミ! アルケミ・ペルエクスだよ! キミは?」


「えっ、あっ……!? カ、カノン……! カノン・バースタ……!」


「えへへ! カノン! これであたしたち、もう見ず知らずじゃなくて、お友だちだね! まっかせて! たすけてくれたお礼に、妹さんとカノンにあたしが、とびっきり美味しいお菓子、つくってあげる!」


 ――屈託のない、キラキラとまぶしいまでのその笑顔に俺はうなずかざるを得なかった。


 なんなんだよ、この女の子。と、この突然ふってわいた嵐のような女の子に、どうしようもなく胸をドクンドクンと震わせながら。





◇◇◇◇◇


あとがき的なもの


まずはお読みいただき、ありがとうございます! 作者から、なにとぞお願いいたします!


本作の続きを読みたい! 応援したい! 続きが気になる! と少しでも思った方!

別連載のコミカライズ作「闇属性だけど脚光を」も読んでます!という方!


ぜひフォロー、応援と『★★★』の評価をお願いいたします!


どうか、カクヨムでより多くの方に本作が届くように、作者にみなさまのお力添えを……!


それが何よりも作者のモチベーションになりますので!

どうか『毎日更新』、『両作更新』、あるいはテンション上がって『一日に複数投稿』のためにも、よろしくお願いいたします!



次回「最愛の妹」

それでは、また明日お会いできますように。

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