クビから始まるぶっぱ無双〜規格外の魔力を持ちながら自分では使えないゼロの少年は最強欠陥魔道具〈魔砲〉を手にして立ち塞がる全てをぶっとばし、追放された錬金少女と可愛い妹とともに最高の幸せを手に入れる〜
ミオニチ
第1話 ゼロの少年と運命の出会い。
「待てよ、親方! なんで俺が今日でクビなんだよ!」
「へっ! 決まってんだろうが! カノン・バースタ! 新しいやつを雇ったんだよ! 魔力をまったく使えねえできそこないのゼロのくせに、クッッソ生意気なお前よりも何倍も仕事ができる、ちゃ〜んと魔力が使える優秀なやつをな!」
曇り空の下のいつもの仕事場。王都港湾区にある船着場。いつものように他の大人たちが来るずっと前の朝早くから、汗水たらしてせっせと重い荷物を倉庫から船に運んでいた俺。
遅れてきた親方は、そんな俺に開口一番酒くさい息でクビだと言い放った。となりに俺よりも年上だろう軽薄そうな男をつれて。
「ま、そういうことよ。ゼロのパイセン。あ、もうクビになっからパイセンでもねーか。ははは!」
「お前……! くそっ! なら、俺と勝負しろ! 同じ量の荷物を早く運べたほうが勝ちだ! 俺が勝ったらクビは撤回してもらう!」
「はぁ? カノンお前、なにを勝手に……」
「ひゃはは。いいじゃねーっすか、親方。こんなゼロ野郎にオレが負けるわけねーし」
「言ったな……! 後悔させてやる……!」
「バーカ。後悔するのはオマエだよ。――身体強化レベル2」
つぶやきとともに男の体を青い魔力の光がとりまいた。
「はあっ……! はあっ……! く、くそっ……!」
「ははは! 超だせーな、オマエ! 自分からケンカ売っておいて、ボロ負けなんて!」
圧倒的な差だった。魔力による身体強化レベル2を発現させた男は、するすると、軽々と、次々とうず高く積まれた荷物を運んでいく。
一方の俺は、一つ運ぶだけでもヒイヒイ言う始末。俺が頼みにした経験の差なんて、ないも同然だった。
「ったく、面倒かけやがって。ま、これでクビ確定だな」
「ま、待ってくれ、親方……! 今日は妹の誕生日なんだ……! なのに、こんな日に俺が……! せめて、次の仕事が見つかるまで、なんとか……!」
「はぁ? そんなもん、クッソ汚えドブさらいでもなんでも」
「ひゃはは! もっといい方法があるぜ? クッソ情けないお兄ちゃんとしてその妹ちゃんに養ってもらえばいいんだよ! どこぞの成金変態親父に身売り……さ、せ、せ……!?」
「お前……! いまなんて言った……!」
怒りとともに、俺の体から七色に輝く魔力の
「う、あ……!? し、身体強化レベル2ぃっ! なな、なめんなあぁっ!」
「がっ……!?」
――けど、そこまでだった。制御もなしにただ勝手に漏れ出しただけの俺の魔力は、身体強化したクソ男の前にはなんの意味もなさず。
「おらっ! そらあっ! レベル1の身体強化すらできねえっ! ゼロのくせにっ! ちょっとからかったくらいでっ! このオレをっ! 生意気にっ! ビビらせてんじゃ、ねえっ!」
「ぶっ……!? がっ……!? べっ……!? ごっ……!?」
クソ男の気が済むまで、完膚なきまでにボコボコにされた。
「ほらよ、今日までの給金だ。少し色もつけてある。だから、オレさまの職場で暴行を受けたとか他で吹いてまわるんじゃねーぞ!」
「う……、く、そ………」
そうして俺は、痛む体を引きずって、今日最後となった仕事場をあとにした。手の中に、なけなしの銀貨を握りしめて。
――この世界では、魔力がすべてだ。王族や貴族といった身分差もあるけど、魔力の才能のあるなしはその価値を大きく上まわる。
神に選ばれたとされるごくわずかなやつだけが使える魔術。ほとんどのやつが使える身体強化。そして、そのどちらも使えないのが、俺たちゼロ。社会におけるつまはじきものだ。
なんでゼロが魔力を使えないのか。理由は、二つのうちどちらかだと言われている。生まれ持った魔力の量が少なすぎるか、もしくは、あってもまったく制御できないか――俺の場合は、たぶん後者だ。
「痛て……。くそ、あの野郎。好き放題に殴りやがって」
中央広場。さらさらと流れる大きな噴水の水面に顔を映す。黒い髪に軽いつり目の赤い瞳、それ以外は可もなく不可もなく……と思いたい。
まあとにかく、あれだけボコられたにしては、口の端が切れてる以外は思ったより大丈夫そうだった。わりと昔から体は頑丈なほうだ。
服は住んでる
「だいたいなんで船の荷運びなんだ。身体強化レベル2まで使えるんなら、冒険者になって魔物退治で一攫千金でも目指せってんだよ。俺ならそうするってのに。……それにしても、また勝手に漏れやがったな」
昔っからこうだ。怒ったり、悲しんだり、どうしようもなく感情が
俺以外であんな現象は見たことないから、生まれ持った魔力の量が少なすぎるってことはたぶんない、けど。
「……身体強化レベル1」
昔教わったとおりに体中に魔力を循環させるイメージで集中し唱えてみるも、予想どおりなんの変化もない。結局、俺がかろうじて使える魔力は、さっきのもやで精いっぱい。
せいぜいたまにケンカで相手がビビって逃げだす程度、それも大体はさっきみたいに逆上させて余計にボコボコにされるだけの、ほとんど意味のない代物だ。
「まあ、いまさらないものねだりしても仕方ないよな」
そう首を振って、あたりを見まわす。いま俺がいるのは新市街区のど真ん中、中央広場。
さっき俺がのぞいていた大きな噴水――昔の錬金魔道技師がつくった、言ってみれば魔力で動く巨大な魔道具でもあるそれがランドマークのここは、行き交う人やそれ目あての屋台も多くにぎわっている。
「……クビになったとはいえ、せめて菓子くらいは買って帰るか。せっかくの妹の誕生日なんだし」
そう決めて、甘く香ばしい匂いの漂う屋台に足を向けたその瞬間。
「だれかっ! たすけてぇぇぇぇっ!
つんざくように甲高い、切羽詰まったような悲鳴が俺の耳にとどいた。
「お願いっ! だれか! あの中には、あたしの大事な……!」
さっき俺がのぞいていた中央広場の噴水の近く、たったいま突き飛ばされたと思しき尻もちをついた女の子が叫んでいた。
肩までくらいの赤茶の髪に前を開いたコートの下には軽装の服、たぶん同い年くらいだろうか。
小柄な体で懸命に立ち上がり追おうとするその少し前には、わき目も振らずに駆ける帽子を目深にかぶった小柄な男。そしてその手には、似つかわしくない女物のカバンが。
「う、うぅ……! 身体強化レベル1っ! 返して! 返してよぉっ! あたしには、もうそれしか……! だれかぁっ! たすけてぇぇぇぇっ!」
涙目になりながらも、かすかに光る緑色の魔力をまとい、追いかけ始める女の子。
「身体強化レベル1……! けひひ……! 捕まるかよ……!」
けれど、同じように赤く光る魔力で身体強化をし、さらに人混みを利用して縫うように駆ける盗人の男との距離はいっこうに縮まりそうもない。それに。
「うわっ! あっぶねえなあ……!」
「関係ないのに、巻きこまないでよね……!」
――ああ、くそ! なんでだれも動かないんだよ! お前ら、魔力使えるくせに!
「うおああああああああぁぁぁっ!」
「うおっ!? なんだ、てめ、ぐぼおああぁぁっ!?」
無我夢中で、駆ける。そのまま余所見をしていた男に、全体重をかけて俺は体ごとぶつかった。
「ぐあっ!?」
「ぐえっ!?」
勢いあまってしこたま体を打ちつけながら、ごろごろと石畳の上に転がる俺と盗人の男。その一瞬あの女の子のカバンが空中に放りだされ、中から何かが落ちるのが見えた。
「痛て……! へへ、やっ……たっ!? うっ、うわあぁっ!?」
「ガキがっ! 邪魔すんじゃ、ねえっ!」
ほくそ笑み体を起こしかけた俺のすぐ鼻先を鋭い刃がかすめる。ゆらめく赤い魔力の光をまとわせる男の血走った目と俺の目が合った。
う、うそだろ……!? こ、このおっさん、いま本気で……!? あ、あとほんの少しおっさんの
「う、うあっ!? く、来るなあっ! ううああっ!? ……って、えっ!? な、なんだっ!? こ、これっ!?」
恐怖と混乱のあまり、無意識に手探りでめちゃくちゃに地面をかきまわしていたらしい俺の指にコツンとなにかが触れる。そして次の瞬間、急速に光りだした。
俺の中のなにかが否応なしにぶわっと一気に吸い出される。キイィィィッ! とものすごい音とともに、その銀色の細長い筒に垂直に取っ手がついたような物体が、触れた俺の指の先で七色に激しく輝きだした。
「これ、俺の……魔力の色……!? なら、まさか……!? これ……魔道具か……!?」
「うそ……!? あたしの〈魔砲〉が、なんで……!? まさか……!? さっきので
「けひひひひゃ! 魔道具だとぉっ!?」
一瞬聞こえた、息を飲むような女の子の声。だが、それも直後に響いた目の前の男の狂気じみた笑い声にかき消される。
「あの小娘! 確かに後生大事に抱えちゃあいたが、まさかそんなお宝が入っていたとはな! けひひ! オレさまにも運が向いてきたぜぇっ! さあ、ガキィィ! そいつをよこせえぇぇぇっ!」
「う、うおあああぉぁぁぁっ!?」
殺される。ただただ無我夢中で俺はその魔道具を手にとり、ナイフを手に突進してくる男にその筒先を向けた。
「だ、だめえぇぇぇぇぇっ!」
「うああっ!?」
直後、横あいから体ごと飛びこんできた女の子。押し倒された俺の視界が一瞬でぐるりと反転する。
「あうっ!?」
「うあっ!?」
胸に大きくてやわらかい感触、と同時に背中をおもいきり打ちつけ、魔道具をかまえた腕が上を向き――カチリ。
そして次の瞬間。俺は、天を裂いた。
大地を揺るがすような轟音とともに上空へと放たれたのは、一条の光。曇天を裂き、どこまでも高く高く空の彼方へと昇っていくそれは、凝縮された七色の魔力の奔流。
裂かれた隙間にのぞく青空から降りそそぐ七色の光の残滓は、それだけで辺り一帯をキラキラと照らして。
「あ、あ…………!?」
そのあまりにもな光景に、ただただわなわなと震え、大口を開ける。
――この時の俺は、まだ知らない。
「よ、よかったぁ……! まにあったあぁ……!」
この魔道具〈魔砲〉と、そして俺の体にしがみつき安堵の声をあげる、まだ名前も知らないこの女の子との出会い。
それが、俺の運命を――いや世界すべてを巻きこみ変える始まりとなることを。
◇◇◇◇◇
あとがき的なもの
まずは、お読みいただき、ありがとうございます! 作者から、なにとぞお願いいたします!
本作の続きを読みたい! 応援したい! 続きが気になる! と少しでも思った方!
別連載のコミカライズ作「闇属性だけど脚光を」も読んでます!という方!
ぜひフォロー、応援と『★★★』の評価をお願いいたします!
どうか、カクヨムでより多くの方に本作が届くように、作者にみなさまのお力添えを……!
それが何よりも作者のモチベーションになりますので!
どうか『毎日更新』、『両作更新』、あるいはテンション上がって『一日に複数投稿』のためにも、よろしくお願いいたします!
次回「なんなんだよ、この女の子」
それでは、また明日お会いできますように。
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