第3話 ピンチ
「ふふふー、今日こそはー」
少女は自室で微笑んだ。
手に持っているのは、特製のお札。
出来はよく、これまでで最高のものが作れた自信がある。
今度こそこのお札であの怪異を祓うことができるだろう。
ゆえに、ごきげんなのだ。
「よし、今日もがんばるぞー!」
元気よく明るい声を出し、少女は今日も都の闇に身を投じる。
――――――――――
「破っ!!!」
「お、おのれ~~~!!!」
怪異が一体この世を去る。
葬ったのは、当然少女だ。
しくじることもなく、無傷で祓い終えた。
「ふぅ……」
緊張感のある戦闘を終え、ひとまず安心する。
だが、休憩するにはちと早い。
なぜなら、今宵もまたあの怪異が現れるから。
「……?」
いや、現れない。
いつもならそろそろ気さくに話しかけてくる声が降りかかるころなのに。
そんなときだ。
「せぇい!!!」
闇夜を切り裂く野太い声が聞こえた。
鬼気迫る声は、誰かが戦っていることを予感させる。
「行かなきゃ!」
陰陽師の責務を果たすために、少女は駆ける。
――――――――――
近づくにつれ、大きくなるのは刀を振るう音。
そしてなにかを斬る音が生々しく聞こえてきた。
「大丈夫ですか!?」
角を曲がった先、急ぐ少女の目に飛び込んできたのは。
「検非違使さん!」
血まみれになった背中が見えた。
刀を構え、なにかと戦っているようだ。
いったいなにと?
正体を確かめるべく、その先を見遣った少女は息を呑む。
「あの……人は……」
そこには、見知った怪異がいた。
姿形は人間だが、頭から角が生えているあの怪異だ。
だが、彼女からはいつも見せる余裕は感じられない。
体にはいくつかの切り傷が走り、その角は折れてしまっている。
きっと、この検非違使と戦っていたのだ。
「おおっ、陰陽師か! ちょうどよかった! 私一人では相打ちになるところだったのでな!! 手伝ってくれ!」
一瞬こちらを振り返った検非違使は、陰陽師が来たことを確認して助けを求める。
「あ……え……」
検非違使の仕事は、都の平和を守ること。
そして、陰陽師も同じだ。
彼女が検非違使の誘いを断る道理などない。
ないのだが。
「待って……ください」
なぜだかわからないが、声が震えている。
「ええい、なにをしている! このままでは逃がしてしまうぞ!!」
それでも少女は、自分の思いを口にする。
「あなたは怪我をしているので、もう帰っていてください。後は私が片付けておきます」
これは陰陽師として実力をつけた彼女の自信の現れ……だろうか。
それとも、なにか別のものか。
「む、しかし奴はかなりの強敵で……」
「大丈夫です、私強いので!!!」
そう言って、彼女は特製のお札を懐から取り出した。
「そ、そうか……。では、かたじけない!」
検非違使は彼女の真剣な瞳で睨まれると、ややためらいながらもその場を後にした。
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