第2話 いつも
それからというもの、来る日も来る日も陰陽師の少女の前に角付きの怪異は現れた。
「今日はちょっと苦戦してたじゃな〜い?」
一仕事終えてホッと胸をなでおろすころ、やって来る。
あるときは屋根の上、またあるときは少女の背後に。
「うっ、うるさいです!」
神出鬼没な登場に驚く彼女は、怒るように声を荒げる。
「お札を投げる角度、もうちょっとこうよ?」
ご丁寧に身振り手振り付きでアドバイスまでくれる。
相手は怪異……いわば陰陽師にとって敵なのに。
「……」
少女は不満そうに頬を膨らませて睨むのだった。
――――――――――
「ぐぴぃぃーーー!!!」
「やった!」
今日仕留めたのは大物だ。
廃墟に住まう大蜘蛛をやっつけた。
今までの彼女なら無理だっただろう。
「これも……」
「私のおかげかしら?」
「……ひゃっ!」
何度目だろうか、登場に驚くのは。
いつまで経っても慣れないようだ。
「なかなかセンスがあるわね、あなた」
「……」
予想外の褒め言葉だ。
「教えたらもっと伸びそうだわ」
「だ、誰があなたなんかの!」
と、投げつけた札は珍しく一直線に飛んでいく。
しかし、命中する前にまたしても怪異は消えていた。
後に残されたお札がハラリと地に落ちる。
それを拾いながら少女は無意識に呟いた。
「……おかげ、かも」
――――――――――
「今日もお疲れ様ね〜」
さすがに驚かなくなったころ。
少女も緊張が解けているのか、幾分か軽い調子で話しかけた。
「なんで私に付きまとうのよ」
「ん〜……」
しばし視線を上に向けて考え込む素振りを見せて、口を開く。
「かわいいからに決まってるじゃない」
普段より一層顔をニヤニヤさせるその様子に嘘偽りは感じられない。
「かっ、かわっ……!」
動揺しながらもなんとか言い返そうとしていると、相手が話し始めた。
「でもそれ、やっぱり男装よね? そんなにかわいいのに男物を着るなんてもったいないわ」
「……仕方ないじゃない」
しばらく己の服を眺めるようにうつむいて固まる少女。
その後、絞り出すように呟いた。
「女が陰陽師なんて、誰も認めてくれないんだもん……」
これが初めてだった。
彼女が哀しい顔を見せたのは、本音を誰かに漏らしたのは。
「ふ〜ん……」
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