祓いたいです陰陽師ちゃん! 〜気になるあの子は都の怪異!?〜
砂漠の使徒
第1話 二人の出会い
「きょ、今日こそ決着つけてやるんだから!」
対峙する二人。
片方は真剣な顔で、もう片方はからかうように。
「うふふ、意気込んじゃって。かわいい〜」
「ま、まじめにやれ!」
ギュッとお札を持った右手に力を込めて。
「えーい!」
思いっきり投げる。
しかし、これは(未熟者が作ったにせよ)特別なお札だ。
物理的に勢いよく飛んでいくはずがない。
「あらあら〜」
なんともへんちくりんな軌道を描いてお札は宙を舞う。
「お、おのれ!!! これも怪異の仕業!」
「やつあたりはよくないわよ〜? これはあなたの技術不足でしょ」
「うっ……」
正論を言われ、黙りこむ。
その隙に、相手はヒラリと身を翻したかと思えば煙のように消えてしまった。
「また……祓えなかった……」
残された方はポツリと呟くのだった。
――――――――――
ここは都。
碁盤目状に無数の通路が通り、数々の屋敷が立ち並ぶ。
人の活気に溢れるそこは、まさしく国の中心。
夜になっても賑やかだ。
人ならざる者達によって。
「げへへぇっ! いい女がいるじゃねぇか!」
「きゃーーー!」
闇が都を包むとき。
物の怪が
暗い夜道に現れる。
か弱い人の命を狙って。
「だ、だれかぁ!」
「へへへ、無駄だぜぇ!」
むろん検非違使はいる。
だが、間に合わない。
広い都を守るには、いささか数が足りないようだ。
「ああっ!」
女性がつまずく。
一巻の終わりだ。
彼女はきっと、気まぐれで散歩に出たことを後悔しながら果てることだろう。
「そんじゃあ、いただきまー……」
漆黒の影がうねる。
さながら口を開けるように。
「待てーー!!!」
突如、声が響いた。
次の瞬間、お札が飛んできた。
それはピタリと影に貼り付く。
「なっ! なんだこれは!!」
必死で剥がそうと暴れまわる影。
その眼前に降り立ったのは白い装束に身を包んだ小柄な人影。
「物の怪よ! 立ち去るがいい!!」
「きっ、貴様ぁ! 陰陽師か……!!!」
「破っ!!!」
一際大きく叫ぶとともに右手を前に突き出した。
その瞬間、影は粉々に砕け散る。
後に残るは、宵闇のみ。
「……ふぅ」
一安心といったように、額の汗を拭った。
「もう大丈夫ですよ。気をつけてお帰りください」
「あっ、ありがとうございます!!!」
女性は感謝を述べ、急いで家路につく。
そう。
都の平和はこうして守られる。
陰陽師によって。
これが日常である。
だが、今宵はなにかが違っていた。
「さて、今日のところは……」
「あなた、すごいわねぇ」
「……っ!?」
敵を倒し、完全に油断していたところに何者かが語りかけてきた。
その声は非常にゆったりしており、緊張感など微塵もない。
「な、なにやつ!」
キョロキョロと辺りを見回していると目の前に、スッと虚空からなにかが現れた。
「あたしよ」
「……!?」
物の怪を見慣れている陰陽師でさえ、驚愕の表情を浮かべた。
無理もない。
そこに立っている女には、角が生えていたのだ。
「お、鬼か……!」
「あら、どうかしらね?」
見た目は30代くらいの女性だろうか。
時代にそぐわぬ露出の多い服を着こなしている。
男性が見れば一目で恋に落ちるようなプロポーションのよさだ。
「あたしが何者か知る必要あるの?」
「ある!」
「どうして? 祓うため?」
「そうだ!」
いたって真面目に答えているが、相手は口元を抑えてクスクスと笑っている。
「まだあなたには早いわよ」
「なっ……!」
そんなことない、と反論しかけたときだ。
「でもそれ、男装はとってもかわいいわ」
怪異はほほえみながら、服を指さしてきた。
「えっ……!?」
「また会いましょう、かわいいお嬢さん」
驚きよりも羞恥が勝り顔を紅く染めている間に、フッとその場から消えてしまった。
「どうして……バレちゃったのよ」
これが彼女達の出会いである。
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