第6回『セクハラ!?』


「同人誌ってどんな感じなんだろうな」


 教室に入って早々、席にも着かず肇は言い出した。

 既に教室で志島亜衣のライブ映像を垂れ流していた悟は静かに動画を止めて、肇に向き合う。

 そして、


「知らん」


 キッパリと答えた。いつものように。

 ちなみに智明(遅刻魔)は未だ駐車場(学校から徒歩一〇分)である。


「買ったことねェの?」

「あるわけないだろ」

「だよな。寧ろ買ってるヤツのが少ない気ィするわ」

「なんだ、藪から棒に」


 席に着いて「ふゥ」とリラックスしながら、肇は「見たことあんの?」と聞いてみる。


「ないな」

「まじ?」

「逆に聞くがオマエはあるのか?」

「……あるにはある」

「買ったことあるのにどんな感じって聞いてきたのかオマエは」

「そこはノーコメントだ」


 ストップ! 海賊版。

 みんなも気をつけよう!


「おはざーっす」

「お、珍しい」

「今日は遅れなかったか」


 そんな折、背後の扉から颯爽と智明が入室してきた。

「なんの話?」と荷物を置きながら聞いてくる智明に、肇は「同人誌ってどんな感じ? って話っス」と返す。


「そりゃまた抽象的な」

「智明さんは買ったことあるんスか?」

「うん〜〜、実は僕もないんだよね」

「へェ智明さんなら買ったことあるかなと思ってたんスけど、意外っスね」

「同意」

「なにそれ、なんかムカつくなおい」


 眉間に皺を寄せるも、すぐさま智明は表情を柔らかくし、人差し指を天井に向けて言った。


「同人誌と言えば、アニメイトとかでよく見るよね」

「あァ~~まァ見ますけど、買おうと思ったことは何気に一度もないんだよなァ」

「へェ、…………いやじゃあなんで気になってんのさ」

「そこは俺も引っかかってた」


 買いたいのか買いたくないのか、中々煮え切らない肇の言い草に、智昭と悟は呆れたような目を向ける。


「なんつーか収集欲? オタクなら同人誌のひとつやふたつ、持っときたいなァ〜〜と」

「あるあるだね」

「ならなんで渋ってるんだよ。もう答え出てるようなもんだろ」


 買いたいなら素直に買えばいい。そう呟く悟に、肇はほんの少し頬を赤く染め始めた。


「いや、そりゃあ、そーなんだけどよォ」

「どうした急に、気色悪い」

「そういう趣味って勘違いさせる顔つきではあるよね」

「ちげェよ馬鹿!!」


 そそくさと距離を取り始める二人に、肇はバンバンと台パンしながら激昂する。直後、額に手を当てて、困ったように答えた。


「――――俺、実家暮らし。家にそーいうのあったら色々と困るだろうが」

「なんでエロ限定なんだよ」


 同人誌、と聞けば大抵R‐18指定のモノを想像してしまうだろう。事実、売れるのはそういう代物ばかりだ。商業作家よりもエロ同人作家の方が儲けている例も少なくはない。


「え? 同人誌って言ったらやっぱりそういうんだろ?」

「そうなの?」

「うーん、まァそういう印象は強いよね。でも普通に全年齢版のモノもあるよ」

「そう、…………なんだ」

(なんか残念がってる……)

(とんだ助平だな)


 急に肩を落として、しょんぼりとした雰囲気を醸し出す肇の肩に、悟はポンと軽く手を置いた。


「しょーがない。アニメイトくらいには付き合ってやる」

「まァひとつくらいは部屋に置いといてもいいんじゃない? オタクとしては拍がつきそうだよ」

「お前ら…………、いいいいや別に欲しいわけじゃねェから!! やめてくんないそーういうの!!」

「なんだよオマエ」


 その日、悟は偶然にもロビーに居た静華に聞いてみた。


「エロ同人って持ってる?」

「セクハラ!?」

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