第5話 栗本結(クリモト ユイ)の一日
★4月2日 朝
私は窓から外を眺めている。
入学して初めての一限目は国語。
でも私にとっては退屈そのもの、むしろ退屈で無いものがこの世にあるのだろうか?
親の仕事の都合で新しくこの学園に来た。
附属の為中等部から上がっている学生たちが多く早速学年内でチームが出来ていた。
当然友達もいなければ同じ中等部出身者もいない、かと言って新しく友人を作ろうだなんて意欲的でもない。
ごく普通の陰キャ学生。それが私だ。
前の席に黄色と青の制服を着た子がいる事を除けば。
私は勝手にイエブルさん(イエローとブルー)と名付けた。
「ふふ…」
一人で変な笑いが出た。この制服に赤や緑の絵の具をかけたら何色になるんだろうか?
そんな事を考えている内に1限は終わった。
休憩中
イエブルさんの周りに何人か集まって来た。どうやらこの人はゆきと言うらしい。
一番仲良く話しているのが美奈、がつがつ話していたのが実里って名前。
私は休み時間は携帯をいじるか寝るか本を読んだりしているけど、今日はイエブルさん達の会話が面白くてついつい聞き耳を立ててしまった。
ゆき「もー!!二人共酷い~!!それじゃゆきがドーケシ(道化師)みたいじゃん!!」
美奈「ネリケシ?」
実里「コケシ?」
ゆき「ケシしか合っとらんわ!!」
「ふふ…」
まるでテレビで見るお笑い番組みたい。うつ伏せで携帯をいじりながら笑った。
二限目は英語。
私はイエブルさん達の名前をローマ字で書きながら外を眺めていた。
一学期の体育授業は陸上らしい。走るのが苦手な私は早くも欠席の理由を考える。
そう言えば部活はどうしよう。両親はいつも仕事で遅くなるから出来れば学校に残りたいのが本音。
コミュニケーションは苦手だがしたくない訳ではない。
入学式に渡された部活動パンフレットを見ていたら2限が終わっていた。
昼休み
美奈「ゆき~ご飯買いに行こうー!」
ゆき「買いにってコンビニちょっと遠いじゃん。学食行こうよ」
美奈「そうそう!それを言いたかったんだよね!」
急に周りが明るくなった。
この二人を見ているだけで退屈な予感も少しはましになる。
ゆき「!?美奈…何かみんなすんごい勢いで廊下走ってる…。これはまさか学食争奪戦か!?」
美奈「異世界の力を見せて頂きましょうか笑」
ゆき「ゆきのパーティー制服が伊達じゃ無いってとこ、見ておきなぁ!!!!」
ドドドドドドドドド
二人はすごい勢いで教室を出た、他の学生もこのやり取りが可笑しかったのかケラケラ笑っている。
飲み物を含んでいたら一発アウトだったかも、っと思ったら笑いが込み上げてきた。
「ふふ…」
一応コンビニでパンは買ってあるけど、学食も見てみたいから私も学食に向かう事にした。
~カフェテリア・シフォン~
学園名から取って付けた様な、と言うかまんまのネーミングの学食だ。
流石に一年生が多い。このシフォン学園は学生服に学年毎の腕章を付けるルールになっているから一目瞭然だ。
他の学生達「いやー流石に今年もこの日が一番混むねえ笑」
聞き耳を立ててみると
どうやら入学初日で購買と座席の争奪戦に敗れた新入生は、翌日から弁当持参かコンビニで買って来るようになるとの事。
明日以降が狙い目かなと思い帰ろうとすると、奥のテーブル席にイエブルさんと美奈を発見した。
凄い剣幕で座席を争奪したのかと思うと一人で笑ってしまった。
「ふふ…」
私は自販機でお茶を買って教室に戻った。
二人が戻って来て色々話をするのを期待していたけど、戻って来たのは三限目が始まるギリギリだったので話を聞く事が出来なかった。
聞くって言うより聴く、なのかな?いずれにせよ聞き耳を立てる事に変わりはないのだけど。
三限目は担任の先生が担当している数学
いきなり試験が配られた。が良く見ると先生の自己紹介だった。
自分の事を回答欄に記入し提出した。
九重遥(クジュウ ハルカ)先生、年齢はヒミツ、趣味はスキューバダイビング、好きな物はアップルパイ。
これテストに出るからねー!と学園あるあるのネタを挟みつつ数学の授業は終わった。
休み時間
美奈「騒がしくてゴメンねーー」
突然話しかけられた。
ゆき「栗本さん、で良いんだよね?いやーうるさかったら言ってね」
栗本「あ…んと。そんな事ないよ」
びっくりした。二人なりに気にしてくれていたのだろうか。
ゆき「美奈とは同じ中等部だったんだけど全然遠いとこから来たから、あんまり話せる人もいなくてさ」
美奈「ついつい盛り上がっちゃうんだよねー」
てっきり附属が地元の子かと思ったら違うんだ…。他のチームの子とはちょっと違くてなんか私と似ている気がした。
栗本「わかるよ、私も違う地域から来たからその…」
美奈「栗本さんもそうなんだ…!じゃあ私達と同じ外界組だね!」
ゆき「間違ってはいないな笑」
そこからは良く覚えていないけど、お互い名前で呼ぶことになって
今度から一緒にお昼を食べる事になって、いっそ部活作ろうかなんて話になって
実里ちゃんとも仲良くなって。
私の一日が始まりました。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます