第285話:これからの話
高位貴族の叙爵式に続き、翌日1日かけて残りの貴族の叙爵式や、各種役職への任命式が執り行われた。
私は参加せずに、今後の相談をしていたが、これでようやく形が完成したことになる。細かいところは知らないが、土壇場で爵位が落ちた貴族がいたり、貴族からはずれた者がいたり、反対に爵位が上がった貴族がいたりと・・・。うん、大変だったらしい。
王都でのイベントも概ね終わり、マーカスとレーノを中心に帰る準備を始めている。
最初は、この前と同様に『赤竜』便で帰ろうかと思ったのだが、その・・・、マーラたちに怒られた。自分たちを「忘れるな!」と。
マーラたちの怒りは至極当然というか、王都に着いてから放置気味だったのは否めない・・・
マーラたちを預けていた厩舎の担当者から、「スレイドホースが暴れています」との一報をもらい、慌てて駆けつけたところ、伝わってきたのは強い怒りと深い悲しみ・・・
うん、完全に私が悪い。
その後、どうにか宥め、謝り・・・・・・
帰路もお願いすることで、機嫌を直してもらった。
マーラたちは、とても賢い。なので、『赤竜』便の方が早く便利なことは理解していた。けれど、私の従魔であるマーラたちを差し置いて、私の従魔の部下の部下くらいの立ち位置にある『赤竜』が、私たちを運ぶという大切な仕事をしているのが許せなかったそう。
言い分はごもっともであり、マーラと相談し、今後の役割分担などについても了解してもらった。
その結果、現在はご機嫌な様子で私を乗せるマーラたちに跨がり、王都近くの草原に来ている。カイト、ポーラ、キアラ、インディゴ、メイジュといった家族を引き連れてのピクニックだ。
シャロンが元気に駆け回り、マーラたちスレイドホースや連れてきた軍馬が伸び伸びとしている様子を眺めながら、用意してもらったお弁当を食べている。
護衛のマーカスたちや近衛騎士もいるが、気を遣って少し離れたところにいてくれている。側にいるのはホムラだけだ。
「なんか、こういう風に落ち着くのも久しぶりだよね−」
シャロンとじゃれるインディゴを見て、そんな感想が漏れる。
インディゴは、すっかり私の家族や仲間たちに懐いている。今は、シャロンを追いかけて走り回っている。小さな翼が、ピコピコと動く様がなんとも可愛らしい。
迷った結果、インディゴは私の息子(養子)として、貴族籍に登録することにした。インディゴの実の親やその同族に、生き残りはいなかった。
もちろん、私も助けたときから責任をもってインディゴを育てるつもりではいた。
インディゴについて、養子とする案、兄弟などやんわりと家族にする案、部下とする案があった。
ただ、インディゴが私のことを「お母さん」と呼び、実の母親だと思っていることから、息子(養子)とする案が最有力となった。
この案の問題点は2つ。1つ目は、私の問題。現在20歳程度で、未婚。恋愛経験すら思い出したくもない忌まわしい1回のみ。そんな状態の私が、いきなり母親になることにはどうにも抵抗があった。
2つ目は対外的な問題。私は正式に貴族、大公となった。貴族になると嫌でも付いてくるのが婚姻や跡取りの話。いくら私が苦言を呈していても、完全に抑制はできない。そして、インディゴを養子にすれば、インディゴは私の嫡男となり跡取りに見られるわけだ。どう考えても面倒しかない。
そんなわけで、暫くの間悩んでいたのだが、息子とすることにした。
1つ目の、私の心情的な問題は、解決はしていないが諦めた。現状、恋愛も結婚もする気はない。だが、それはインディゴが私を母と慕ってくれていることとは何ら関係ない。そして、インディゴが生まれてからのことを考えれば、母親代わりとして、インディゴの成長を見守るのが最善だと思った。
2つ目の問題は、貴族籍に後継者をカイトと登録することで解決した。実際に、カイトは将来的にはグリン君やフォブスと同世代の貴族として働きたいと言っているし、どこかのタイミングで爵位を渡そうと考えている。引き受けた以上、無責任に投げ出す気はないが、私とカイトで、どちらが貴族に向いているかと問われれば、それは自明だ。
カイトを後継者として登録することで、インディゴへの不快な干渉もある程度は抑えられるだろう。もっとも、いくら息子や貴族として登録しても、インディゴが『半竜人』であり珍しいことに変わりはないので、クズに狙われる可能性はある。なので、しっかり護り鍛える必要がある、というのが私たちの共通認識である。
ちなみに、メイジュちゃんは、一応部下、家臣?という扱いにしてある。インディゴとは違って、自分の状況をある程度理解しているので、もう少し成長してから本人に決めてもらう予定だ。
そんなことを思い出しながら、インディゴがシャロンに抱きついている微笑ましい光景を見ていると、
「コトハお姉ちゃんは、王都にいる間、大変そうだったもんね」
私の言葉に返答しつつ、カイトから心配そうな目で見られた。
まあ、確かにいろいろやり過ぎた自覚がある。
「でも、インディゴたちのためでしょ?」
ポーラの優しいフォローに感謝しながら、頭を撫でる。
「もちろん。僕やポーラ、インディゴたちのことを考えてってことは分かってるし、本当に感謝してるよ。ありがとう」
そんなストレートに言われると照れるものだ。
「いいの。したくてしてるし」
私にとっては、それが最優先事項なのだから。
用意してもらった弁当を広げつつ、昨日新たに生じた問題・・・、というか検討事項を思い出す。
「・・・それでさ、カイトとキアラはどうするの?」
カイトとキアラ。昨日、2人には王都に作られる予定の学校への入学案内・・・・・・、という名の「入学のお誘い」があったのだ。いや、あれは「お願い」が近いのかな?
ラシアール王国時代、ラムスさんがカイトくらいの頃には王都にあったという王立学院。基準の年齢に達した貴族の子女や一部の有力な商人の子ども、各地の領でその才を見いだされた平民の子が集まり、勉強し、剣や魔法の腕を磨く。そのほとんどが、将来、国の要職や各地の領主、国を代表する商会の跡取りなど重要な立場になる。そのため、国の発展のために欠かせないものらしい。
そんな学院だったが、ラシアール王国の末期になると、王宮で繰り広げられていた権力闘争の影響を受け、学院内でも親の代理戦争という形で、あるいは有力な人材を囲い込むのに使われ、機能不全に陥った。私が転生する頃には、ほとんどの貴族の子女が通わなくなり、その結果、商人が子どもを通わせるメリットも無くなり、有望な平民の子を通わせる費用も意味も無くなった。
その様な過去がある王立学院だが、必要性は高いらしい。将来的には、共に国を支えることになる子どもたちが、仕事を始める前から人間関係を構築する。また、多くの貴族家では、幼少の頃から多くの勉強と剣や魔法の訓練が行われているが、将来的に求められるレベルの教育・訓練を行うという意味では、王立学院という国の最高峰の教育機関を設け、そこに子女を集めて教育を行うことで見込める成長は、大きいらしい。
まあ、ラムスさんたちが学院を復活させたい理由はどうでもいい。いや、どうでもいいと言うと語弊があるか・・・
私にとっての優先順位は、カイトやキアラが学院とやらに通ってみたいのかどうか、だ。2人が通いたいのなら協力するし、興味が無いのなら関係のない話になる。
2人は少し考えた様子の後、
「僕は、通ってみたいかな。フォブスとグリンも通うらしいし。ノックスたちも通うんだろうから」
ノックス君というと・・・・・・、カイトが参加したパーティーで出会った同世代の子たちか。・・・・・・ギリギリ覚えてた。
まあ、カイトの答えは予想できていた。
カイトは、私が乗り気ではない貴族の仕事や関係を引き受けてくれようとしているのか、亡父の後を、意思を継ごうとしているのか・・・
いずれにせよ、カイトは一般的な貴族と同じような経験をしたいと思っているのだろう。
そしてキアラは、
「私も、通ってみたい、です・・・」
との答えだった。
「うん」
「・・・カイトとフォブス、コトハさんや皆さんに助けていただいて、今、幸せなんです。でも、今の私は何もできないから・・・。これからのことを考えたり、勉強したりするためにも、通ってみたい、です」
もしかしたら、キアラの気持ちをちゃんと聞いたのは初めてかもしれない。
キアラはどちらかというと大人しく、自分の意見を前に出すタイプではない。ただ、カイトたちと出会うまでの経験から、いろいろ思うところがあるのだろうし、考えもあるのだと思う。もっとしっかり話をしておくべきだったと反省しつつ、私にしてあげられる最大限のことをしようと思う。
「了解! そしたら、2人が心置きなく通えるように、しっかりサポートするね!」
「うん、ありがとう!」
「ありがとうございます」
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