第284話:叙爵式②
叙爵される貴族の入場が終わり、ハールさんたち王族が入ってきた。
王族といっても、今回はハールさんと3人の王子だけ。奥さんたちや、子どもたちは不参加のようだ。
「これより、叙爵式を執り行う」
アーマスさん・・・、ではなく第2王子のガインさんの司会により厳かに式は始まった。アーマスさんは、今回は叙爵される側だからかな?
「コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイル殿」
爵位順。となれば、最初は私だ。
家族や部下、ゴーレムに囲まれていた場所から、前へと進む。
黒い装備を纏った騎士ゴーレム4体が、少し前に出て私に続き、ハールさんの座る玉座がある壇上の前で止まる。さすがに、ここに騎士ゴーレムをあげる気はない。
私が1人で前に進み、ハールさんの前に移動する。
「コトハ殿。思えば、最初に貴族となることを打診してから、いろいろあった」
・・・・・・確かに。魔獣・魔物の襲撃から、ガッドを守って、それからラシアール王国が割れる感じになって・・・
もっと辿れば、最初は私1人。カイトとポーラと一緒に暮らすようになって、レーベルが来て。貴族の話が出たのはその後だけど、転生してから数年の間にいろいろありすぎた。そして、王都に来てからも・・・・・・
「本当にね。王都に来てからも大変だったよ」
「いくら礼を言っても足りぬであろう。そして、これからも迷惑をかける」
「・・・お手柔らかに」
「可能な限り。・・・コトハ殿、いや、コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイル殿。貴殿に、大公位を授けたい。クルセイル大公として、カーラルド王国の安寧と発展を、支え見守ってくれることを願う」
「謹んでお受けいたします」
「感謝する」
ハールさんの差し出した右手をガッチリと掴み、握手を交わす。
そして、私がカーラルド王国の貴族であることを示す証、クルセイル大公家の家紋とカーラルド王国の国章が入った短剣を渡された。ちなみに、これは授与ではなく貸与らしく、貴族で無くなった場合には返す必要がある。
大昔に思えるが、アーマスさんと最初に出会った時。その頃は、ラシアール王国でバイズ辺境伯だったか。ガッドへ行ったときに身分を証明できると渡された短剣。あの短剣は、王家から貸与された公式の短剣とは関係無く、各貴族家が用意するものらしい。
作成・贈与・貸与の責任者は、各貴族家であり、所持していることでその貴族家の関係者であることを示すために使うらしい。うちも、帰ったらドランドと奥さんのカベアさんに頼んで作ってもらおう。
ちなみに、クルセイル大公家の家紋は3本の線が、右上から左下に向かって細くなっている感じのもの。背景は青色で、線は黒色だ。
イメージしたのは、『龍人化』した状態で、引っ掻いたときの傷。ドラゴンの姿を模した家紋は人気で、いろいろなパターンの家紋が既に存在していた。このタイミングで奪うこともできるらしいが、そんな波風立てることをする気も無いし、そもそもこれまで「○○家の家紋」と認識されていたものが、急に持ち主が変わっても違和感しかないだろう。
そんなわけで、いろいろ相談し考えた結果、こんな感じの家紋案ができた。それも、紋章官という家紋などの専門家に任せた結果、いい感じにしてくれた。こういう、模様調な家紋も珍しくはないようで、特に悪目立ちもしないとのことで、採用となった。
「クルセイル大公。貴殿を、『南方方面担当軍務顧問』に任ずる。クルセイル大公領以南、南のことは任せる」
「お任せを」
そう言って軽く会釈し、壇を降りようとすると、
「待たれよ、クルセイル大公」
と、ハールさんから待ったがかかった。
今日もらう予定のものはもらい終えたと思っていたのだが、
「クルセイル大公に子爵位を1つと男爵位を1つずつ預けることとする」
と、ハールさんが宣言した。
その宣言に、僅かに響めきが起こる。だが、さすがは高位貴族(予定者)。これが、謁見式のときのように全員出席であれば、もっと混乱したのだろう。特に、当の子爵や男爵となる者たちが・・・
今日もらえるとは思っていなかったので、帰ろうとしていたが、再び壇の中央へ戻り、ハールさんに向き直る。
「クルセイル大公領はクライスの大森林。今は、他の男爵領より狭いが、今後は東西そして南に向かって発展していく予定だと聞く。王宮としても、それを願っておる。領地が広がったときのことを考えると、先に爵位を預けておくのが妥当だと考えたのでな。無論、義務等に関しては、コトハ殿との約定に従うものとする。必要なときに、コトハ殿が選んだ人物に、適宜渡してくれれば良かろう。受けてくれるか?」
「・・・ええ。ありがたく」
ハールさんが用意していた理由を説明する。
子爵位と男爵位。これを求めたのは私だ。
いろいろあった王都滞在だが、建国式・叙爵式をもって、そのメインの用事は終了する。なんでも、数日後に全貴族出席の御前会議が行われるらしく、可能であれば出席してほしいとのことだった。まだ少し用も残っていたので、快諾したところだ。
そんなわけで、いくつかの用事は残っているものの、もう少ししたら帰ることになる。まだ話を詰めてはいないが、近いうちにカイトとキアラは王都に来ることになりそうだが、私は特に予定もない。
そこで、帰って何をするか、と考えた結果、森を開拓することにした。
開拓というと大袈裟だが、一先ずは現在の領都であるガーンドラバルを広げるか、より大きな町を南側に作ることを計画している。後は、西側に対ダーバルド帝国用の砦を建設する予定もある。
今回の王都への旅を経て、アルスたちのように新しくうちで暮らす人もいる。また、確認したわけではないが、ユイハさんたちも引き取る可能性が高い。そして、正式に大公となったことで、うちへ引っ越したいと考える人が増える、というのがマーカスやレーノ、後はラヴァの娘の5人の意見だった。仕事を求める人が多いだろうとのこと。森だけど・・・
そんなわけで、今のままの領都では手狭になるだろうとの結論に至った。
私が転生し生まれた場所は、今は領主の屋敷となっている中央の岩山の中にある洞窟だった。そこから離れることは少し寂しい気もするが、そこまで強い思い入れがあるわけでもない。
むしろ、何だかんだ探検できていなかった南側を見てみたいし、東に進んで海に出てみるのもいいかもしれない。更に進めばホムラの故郷である火山島もあるらしいし。
その話をしていたときに、領が拡大したときに備えて予め爵位を貰っておいてもいいのでは、という意見があり相談したところ、こうも簡単に爵位が貰えた。最初は自分の爵位を貰うことを渋っていた私が、何を今更という話なのだが・・・
この爵位を誰にあげるか、それは私の自由だ。もちろん、私や国に危害を加える恐れのある人物に爵位を渡す気はない。考えているのは、マーカスかレーノか、彼らの副官ポジションにいる人たちか・・・。要するに、広がった領地を一緒に統治してくれる人だ。
あるいは、キアラに渡すことも考えている。
キアラの場合は、少し理由が異なる。現在のキアラの身分は平民。カイトやポーラ、フォブスやノリスと仲が良いのは間違いなく、特にカイトとフォブスとは冒険者パーティを組んで活動もしている仲だ。
だが、この世界では身分が違うこと、とりわけ貴族と平民には大きな差がある。
私としては、今後もカイトたちと仲良くやってほしいし、身分差がその障害にはなってほしくない。
そう考えたときに、思いついたのがキアラを貴族にしてしまうことだった。もちろん、キアラの経験から、彼女が貴族に良いイメージを持ってないことは分かっている。
なので、キアラには伝えていないし、他の誰にも言っていない。完全な独り善がりな策であり、内に秘めているだけだ。
今後のキアラの進路や人間関係の変化、心情の変化の結果、貴族となることを望むのであれば、提案してみればいいと思う。
今回貰った子爵位と男爵位。これを誰に渡すかは、また時期が来たら考えればいい。それがマーカスたちなのか、キアラなのか、あるいは全く別の誰かなのか・・・
結果的に不要と考えたときは私が持ったままにしておくか、返してしまってもいい。今は、手段があるというだけで、身動きが取りやすくなると考えたのだ。
その後、予定通りに式は進行し、カーラルド王国の高位貴族と一部の下位貴族が正式に叙爵された。
私は、カーラルド王国最高位の貴族で唯一の大公、そして『南方方面担当軍務顧問』に就任した。
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