第283話:叙爵式①
「エクセイト鬼王国、ルーネリウス・バン・エクセイト鬼姫殿下」
ゴードウェルさんが席に戻り、次に呼ばれたのはカイトが会ったという鬼のような見た目をした女性。いや、呼び名が「鬼姫」だし、実際「鬼」に近い種族なのだろう。
カイトからは、「見たことのない服だった」と聞いていたが、見れば納得だ。彼女が身に付けているのは、着物・・・みたいな服。正直、前世で着物なんか着たことがないし、着物の定義なども分からない。けれど、転生してからこの国で見てきた服とは違い、和風テイストであることは間違いない。
白色をベースに、赤色の模様が織り込まれた着物。そして金色に輝く豪華な帯・・・みたいなもの。だが、所々で動きやすさを重視してなのか、スリットが入っており歩く度に彼女の綺麗な白い肌が見えている。
そして、ハールさんの前に移動する際に見えたところ、額には黒く輝く1本の角があった。
角がある以外は、若く綺麗な女性。身長も高く、細く華奢というタイプではないが、女性らしさやスタイルの良さは申し分なく、間違いなく良家のお嬢様・・・、というかお姫様か。
これまた目を釘付けにされてしまうような綺麗な所作で、ハールさんの前に移動した鬼姫さん。カイトはルネさんと呼んでいるんだったっけ?
まあ、直接の面識はない私が、愛称で呼ぶことはできないし、とりあえず鬼姫さんでいいや。
カイトとレーノによれば、正式な面会要請が来ているみたいだし。別に断る理由も無さそうだし。
むず痒くなるような丁寧かつ飾り付けた言葉の応酬がされること数度、ハールさんと鬼姫さんは固い握手を交わした。
カーラルド王国とエクセイト鬼王国は、正式に国交を結び、今後は交流を深めていくことになる。
そういえば、カイトが感じたという鬼姫様の『気』を感じることは無かった。
そりゃあ、これから仲良くなろうっていう相手の式典で、『気』なんて放つことはないだろう。だがそれ以上に、彼女からはほとんど魔力を感じなかった。
カイトが彼女の『気』、つまりはオーラであり魔力を感じたのは間違いないだろう。そうすると、彼女は現在、自身の魔力を完全に制御していることになる。
それが如何に難しいかはよく分かっているつもりだし、彼女が相当な強さを誇るのは間違いないのだと思う。
♢ ♢ ♢
建国式典が終わり、一度部屋に戻って昼食休憩を済ませた私たちは、再び建国式典が行われた大広間に向かっていた。
これから行われるのは叙爵式。午前中に戴冠され、建国を宣言したことで、カーラルド王国が誕生し、ハールさんがハール・フォン・カーラルドとして、初代国王に即位した。
次は、私たちが貴族になる番だ。
大広間に入ると、この後叙爵される予定の人たちが集まりつつあった。
今回の叙爵式では、カーラルド王国で貴族となる全ての人が、順々に叙爵されていく。つまり、時間がかかる。
なので、今日は高位貴族だけだ。大公、公爵が1人ずつ、侯爵4人に辺境伯が2人。後は、重要な役職に就くことが決まっている伯爵何人かと、子爵が2人。
子爵は、それぞれ王宮騎士団騎士団長と王宮魔法師団魔法師団長に就任する、チャールド子爵とパーウェルド子爵の2人だ。確かに、この2人は先にしといた方がいいよね。権力区分だと、侯爵相当って扱いらしいし。
部屋の中は、先ほどの建国式典とは違って、少し寂しい感じ。
通常、叙爵式の際に叙爵される貴族は、1人や2人。戦争や政変など大きな出来事があった末、何らかの功績を挙げた者が叙される。その際に出席するのは、当然のことながら貴族だ。既に貴族として叙されている者たちが集結し、国を支える同士であり、自分の出世を妨げる者である新たな貴族の誕生の瞬間を見届ける。
しかし、今回はその貴族がいない。未開の地を切り開いて建国したわけではなく、ラシアール王国の流れを汲む国なのだから、貴族(予定)を呼ぶことはできる。現に先ほどは多くの貴族予定者が参加していた。
ただ、貴族に叙するという場面である以上、そこは制限したらしい。
そんな結果、少し寂しい大広間。だが、代わりに出席している者たちは、先ほどよりも遥かに多くの従者を連れている。
平均して1人の貴族につき20人弱。貴族の家族らしき者もいれば、従者然とした者、騎士っぽい人も多くいる。
かくいう私も、今回はカイトとポーラ以外にも連れてきている。私直属の従者としてレーベルとホムラ。カイトとポーラには、フェイとレビン。そして、領の人間として、騎士団長のマーカスと、役職名は考え中だが文官トップのレーノ。後は、騎士ゴーレムを8体だ。騎士ゴーレムの数は適当だが、アーマスさんからある程度の数は連れてきてほしいと要望されていた。もはや、私を象徴する1つになっているらしい。
今回の騎士ゴーレムの特徴は、なんといっても色だ。
以前から、全く見た目が同じ騎士ゴーレムに色を付けることは考えていた。もちろん見栄えの点もあるが、領では役割を分けているのに、見た目が同じだと区別しにくいのが一番。謁見式の時に、騎士ゴーレムと近衛騎士が並んでいるのを見てから具体的に考えていた。
『土魔法』で有形物を作り出す際、イメージと魔力の応用により、適宜に着色を施すことができる。複数の色を混ぜたり、複雑な模様を描いたりすることはできないが、作り出すものに大雑把な着色を施すことはできるのだ。
最初は、ゴーレムの身体自体に色を付けることを考えていた。というか試した。試したが、全身真っ赤に染めたゴーレムが動く様は、なんとも不気味で恐ろしかった。そして、インディゴとメイジュちゃんに泣かれそうになり、ポーラの嫌そうな視線を見て諦めた。
そこで、装備している武具に着色を行うことにした。騎士ゴーレムは、身体を『土魔法』で造り、その上に武具を装着させている。
武具への着色は、本来は武具屋に持ち込んで、専用の塗料などを用いて行うらしい。結構お金も掛かるそうだが、中堅・ベテランの冒険者パーティが統一感のある色や模様を装備にいれることや、自分の通り名をモチーフにした模様を描く者もいるんだとか。
だが、それらには時間がかかる。この計画を思い立ったのが、一昨日だったので、武具屋に頼んでいる時間は無かった。
そこで、武具のカバーのようなものを『土魔法』で造り、騎士ゴーレムが装備している武具の上に装着することにした。
大盾や鎧は、元々謁見式用に見栄え重視なものが多くあったので、その装飾を隠さないように、複数のパーツに分け、色の付いたカバーを取り付けていった。
元の装備に施された装飾を殺さぬように、そして武具を装備した騎士ゴーレムの動きを阻害しないように注意し、何回も繰り返すことで、何とか見るに堪える作品が完成した。
後は、色を変え、複数作るのみ。最初の完成から、準備が完了するまでは早かった。もっとも、実用性は皆無で、攻撃を受ければ砕け散ると思うが、今回は問題ない。
そうして色鮮やかな装備を身に付けた騎士ゴーレム。
色は、赤、青、黒の3色だ。
赤はホムラから、青は私たちの鱗の色、そして黒は・・・何となく。まあ、特に思いつかなかったので、何となく格好良さそうで、装備の装飾にも映えた黒を作ってみた。
一応、赤色は攻撃メインということで、大きな剣を背負っている代わりに大盾はなし。反対に青色は、防御メインとして大盾のみ。
黒色は、万能型ということにして、片手で扱える大きさの剣を装備し、同じく片手で扱える大きさの盾を装備している。リンの『マジックボックス』に様々な種類の武具を仕舞っておいて助かった。
着色含めて騎士ゴーレムは、まだまだ開発段階だし自己満足に過ぎないが、赤青2体ずつ、黒4体が並んで歩く様は、それなりの見栄えだったと思う。
私の自己評価は、大広間に入った際に、中にいた貴族やその従者、近衛騎士たちの視線によって、ある程度裏付けられていた。
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