第279話:予想外の襲撃

更新が遅れて申し訳ございません。

今後も、不定期に遅れることがあると思いますが、ご理解いただけると幸いです。



〜以下、本文〜



道中で遭遇した敵と思われる集団を退けた私たちは、目的の町ケーリンへたどり着いていた。

プロイ伯爵と名乗った男を含め、偉そうな10人ほどは拘束し、砦に放り込んでおいた。来る途中に砦に寄った際、「ドラゴンたちが誰か連れて来たら拘束しといて。」と、雑に頼んでおいたのが功を奏した形だ。あの時は、念のためというつもりだったが、まさかその直後に本当に敵を拘束することになるとは・・・

いきなりそんな無理難題を言われ、そして実際に10人ほどを放り込まれた砦の兵たちには申し訳ないことをしたと思う。


今回は、カーラルド王国とは独立して動く、という建前になっている。一応、プロイ伯爵に対しても名乗ってはいない。外交においては建前が大切、だと思う。それに、あのまま放置していれば砦を奪還されていた可能性もある。自己弁護を含むが、これが最善だったと思う。


そんな道中を経て、目下ドラゴンたちによる町の封鎖が完了しようとしていた。

私はホムラとレーベルとその光景を上空から眺めている。私たちが到着した時点で、既に完了していたレーベルの調査により、この町にインディゴの同族はいないことが分かっている。奴隷はいるらしいが、数は少なく町の中央に集められていた。可能であれば、助けていこうと思う。


そんなわけで、ドラゴンたちには外壁への攻撃に加えて、適宜町中を攻撃するように指示してある。もちろん、市民を無差別に襲わせたいわけではない。まあ、一定の犠牲が生じるのは、その、覚悟の上。これは戦争。私たちにとっては、家族を助けるための戦い。決して相容れない思想の違いが生む戦い。そのくらいの覚悟はできている。


ドラゴンが町を包囲してからすぐは、町を囲っている壁の至る所から、矢や魔法、投石と思われる攻撃が飛んできていた。まあ、魔法は少しだったが。

ダーバルド帝国の軍には魔法使いが少ない、らしい。まあ、魔法を使える人と使えない人の違い、その原理を考えると、他種族と交わることを嫌う彼らの中に、魔法を使える人が少なくても驚きはないけど・・・


ケーリンの町はもう、ドラゴンたちへの攻撃を担っていた兵士らの大部分が焼かれ、壁の崩壊に巻き込まれ身体が潰れ、ドラゴンの体当たりを受けて吹き飛び、静かになっている。

最初は騒いでいた市民たちも、家に引き篭もり静かになっている。

町の外に並んでいた、おそらくは町へ入るのを待っていた列はあっという間に無くなった。

町の外に逃げたのを追う必要はないと伝えてあったし、別に用は無い。仮に援軍が来ようとも、それまでに引き上げているだろうし。


そんなわけで完全に沈黙した町の中でいくつか、人が集まっている場所があった。

町の中心部に近い建物で、レーベルの報告では地下に奴隷と思われる捕らわれた人々がいる建物。

その屋上に、結構な数の人が集まっており、崩れゆく町の様子を眺めて阿鼻叫喚。

一部指示を飛ばしていると思しき者もいるが、統制が取れていないようで、行動はない。


ターゲットは町長。こいつが、インディゴの同族が捕まった経緯を知っているらしい。

町長がいるのは、町の中心にあり、最も大きな建物だと聞いている。つまり、これだ。


ゆっくりと高度を下げ、屋上に集まった人の様子を観察する。

服装に統一感はなく、年齢はまちまち。男性の方が多いが、この世界の価値観に照らせば不思議でもない。むしろ、女性がそれなりにいることに驚きを感じるほどだ。


どうやら、向こうも私たちに気がついたようで、何やら騒いでいる。

高度を下げて、叫んでいる内容が認識できるようになったが、特に聞くべき内容はなかった。

もっとも、叫んでいる内容や口調から町長と思しき人物の絞り込みはできた。


そうして会話ができるまで距離が縮まったのと同時、なんとも表現し難い、ただ、気持ちの悪い感じ。

そんなものを感じた次の瞬間、迫り来る複数の火球を視界に捉えた。


「っぷなっ!」


ギリギリのところで回避行動を取り、火球を交わした。ただ、完全に避け切れはしなかったらしく、私を何重にも守る『自動防御』の盾に命中して、火球と魔力の盾がそれぞれ弾けたのが見えた。


「ご無事ですか!」


ホムラが、火球の飛んできた方向と私の間に立ち射線を切る。


「大丈夫。問題は無いよ」

「申し訳ありません。私がついていながら・・・」


見るからに落ち込み、そしてブチギレているのが分かる。キレている相手は、自分か火球を撃った主か。

見ると、レーベルが相手に迫っていた。


そして、右手を死神が持っているような大きな鎌に変形させ、真一文字に振り抜いた。


私を狙った魔法使い?は、身体能力の方は大したことなかったようで、レーベルの攻撃で、両膝から下を失い、頭から地面に落下した。

魔法使いがいた場所は近くの建物の屋上。よく見ると、その周囲には目の前の建物と同じく人が集まっている。


「ねぇ、ホムラ」

「はっ」

「さっきまで、あそこに強い魔力の反応なんて無かったよね?」

「・・・そう思います。少なくとも、私は見逃しておりました」

「いや、ホムラだけじゃないよ。敵地に入るんだし、私も最大限警戒していたつもり。レーベルでさえ、未然に防げなかったってことは気づいてなかったんだと思う。レーベルが、私を害そうとする攻撃を、撃たせるわけないから」

「・・・はい」


つまり、あそこにいた魔法使いは、いきなり現れた、ってこと?

魔獣・魔物が、高速度で迫ってきても驚きはしない。ただその場合でも、高速で近づいてくる魔力の反応に、私は気づくと思う。


完全な意識の範囲外からの攻撃。最初に確認して、危険性なしと即断していた私の甘さが招いたんだとしても、カラクリはあるはず。

気になるのは、直前に感じたあの感じ。ついこの間感じた覚えがある、嫌な感じ。


「・・・・・・ミリアさんの時と同じか」


あの魔法使いは、レーベルが追っていた改造人間なんだろうか・・・



♢ ♢ ♢



レーベルが、膝下を切り飛ばした魔法使いを掴んで飛んで来た。膝下が無いとはいえ、人1人掴んでくるとは、と思ったが近づいてきて、その疑問が消えた。


レーベルが掴んでいた魔法使い。見たところまだ若い男性だ。ただ、その身体は、ガリガリ。腕なんかは、骨に皮が付いているだけといった感じ。頬もこけ、首の筋は浮き上がっている。

そして何より、この男性からは全く魔力を感じなかったのだ。


「レーベル、こいつ・・・」


私の言葉を引き取り、レーベルが所見を述べる。


「ほぼ間違いなく、別の生物の器官などを移植されたのでしょう。元は『人間』のようです。そして、今は完全に魔力が枯れている。かろうじて生きてはいますが、時間の問題でしょう」


この男が魔力を失った理由。

魔法を使えば、体内の魔力を消費はするが、完全に使い切ることは無いだろう。

あれこれ考えているうちに、


「・・・申し訳ありません。死にました」


と、レーベルが死亡を確認した。


「・・・まあ、死んだのはともかく。後でこいつのこと調べてくれる? なんで死んだのか、魔力のことを中心に」

「御意」


まあ、これはレーベルの専門だ。他にも用事があるし、早いところここでの用事を済ませよう。

というか、この町で攻撃されたわけで、さっきのは町長の差し金なんだろうか?


そう思い下を見てみるが、一連の攻撃及び私たちによる撃退を見て、諦めている様子。

さっきまであれだけ元気だった町長は、膝から崩れ落ちている。

この様子を見る限り、さっきのは町長の指示だったんだろうか?


まあ、気になることは直接聞いてみればいいか。


「ホムラ、一度変身してもらえる?」

「お任せを」


そう言って、くるりと回りながら美しいドラゴンの姿になるホムラ。

この場で、私の質問に答えさせる最速の方法は、おそらく私がドラゴンたちのボスであると知らしめることだろう。


そんなわけで、変身したホムラの背に腰掛けて、屋上に近づく。


「さてと。この中で1番偉いやつ。町長、かな? 前に来てくれる?」




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