第272話:新たな出会い
〜カイト視点〜
サーシャさんと喋っている間は、貴族からの挨拶と子女の紹介攻勢から逃れることができていたが、いつまでもそういているわけにもいかない。
僕やポーラはもちろん、サーシャさんとその婚約者のヤートンさんも、他の出席者に挨拶して回る必要がある。
「それじゃあ、カイト君、ポーラちゃん。大変だと思うけど、頑張ってね。それから、コトハによろしく」
「はい。コトハお姉ちゃんに、サーシャさんが会いたいと言っていたと伝えておきます」
「ばいばい」
諦めてサーシャさんとの会話を終了する。
ポーラは、再び「食事逃げ」を発動するのかと思われたが、ここに来る前に言っていたとおり、少しは人と話してみるらしい。
できるだけ年齢が近い人と話したいというポーラを見送り、僕もできるだけ年が近い人と話したいと思いながら、会場を移動し始めた。
♢ ♢ ♢
今夜のパーティーの出席者はかなりの数になる。そもそもが、カーラルド王国で貴族となる人たちや大商人たちを広く招待しているし、それぞれが子女を連れてきているからだ。
そんなパーティーにおいて、おそらく僕はその出席者の大半と挨拶をしたと思う。
・・・・・・数は分からない。覚えられたかといえば・・・・・・、うん。
ただ、嬉しい出会いもあった。
サーシャさんと会えたこともそうだが、僕的に一番大きかったのは、今一緒にいる4人。
リーウッド伯爵家、現当主の次男のノックス。
レイモンド子爵家、現当主の長男の三男、アラン。
ケストレル伯爵家、現当主の次男の長女、リディナ。
アマレア男爵家、現当主の三女のクロス。
この4人は、全員13歳で僕と同い年。最初の挨拶攻勢の際に、何となく話した印象が良かった同い年の4人で、もう少し話してみたいと思った4人。
サーシャさんと分かれた後、無防備に挨拶攻勢を受けるのは疲れると思い、何人かの貴族と言葉を交わしながら、4人を探した。
結果、この4人にフォブスを加えた6人での会話はかなり盛り上がったし、楽しい時間だった。
その一番の理由は、おそらく4人の趣味というか日々の生活?
4人とも、文よりは武のタイプで、冒険者登録をして依頼をこなしたり、日々自領の騎士団と一緒に訓練したりしていた。
ノックスとアランは、冒険者登録をしていて現在アイアンランク。特にアランは、将来は冒険者として生きていくことを決めているらしく、ブロンズランクに届きそうな勢いらしい。
リディナとクロスは、冒険者登録はしていないものの、生まれ持った豊富な魔力を操り、日々魔法の訓練に勤しんでいるらしい。
リディナの母親は魔族で、またクロスの父親の母親はエルフだそう。
それもあってか、体内に保有する魔力の量が多く、それが分かってからは騎士団の中で魔法を使える者や、自分の家族に師事しながら魔法の訓練を続けているらしい。
そして、リディナは騎士団に同行して、ゴブリンなどの討伐を魔法でしたことがあるそうだ。
僕自身もブロンズランクの冒険者であり、また日々騎士団と一緒に訓練をしている。それに一応魔法は使えるし、身近に魔法を使いこなしている人が多くいる。そんなわけで、この4人とは話があった。
4人同士も初対面らしいが、声を掛けた僕と、途中から話に加わったフォブスの6人で直ぐに打ち解け、大いに盛り上がった。
話していた時間はそんなに長くはなかったが、下手に遠慮されることもなく話せるようになったし、一緒に冒険者の依頼を受ける話まですることができた。
思ったよりも話が弾み、ふと思い出して会場を見渡すと、僕らはかなり注目を集めていた。・・・・・・そりゃあ、フォブスと僕がいるグループだし・・・?
ポーラの様子を確認しようと会場を見渡すと、2人の男性と言い争っているポーラを見つけた。
先程までは、ポーラと同じくらいの幼い令嬢と話していた気がするんだけど・・・
・・・・・・って!?
「・・・おい、カイト。あれって・・・」
僕と同じくポーラを見つけたフォブスが、少し焦りながら僕を呼ぶ。
フォブスが焦っている理由、それはもちろんポーラの現在の状況。話している内容は分からないが、ポーラが怒っているのは間違いないと思う。明らかにポーラの魔力が高まっている。フォブスも人よりは魔力の感知に長けているからか、それに気付いているのだろう。
「ごめん、行ってくる」
ポーラが怒っている。
その理由は? まさか、あの貴族に何かされた・・・?
ポーラは理由も無く敵意を向けるようなことはしないと思うし、あの場にはポーラが守ろうとする人もいない。
だとすると、ポーラが怒る理由は自分に何かされたから・・・?
とにかく、一度ポーラをあの場から引き離さないと・・・
もちろん、ポーラが何か危害を加えられていたのなら反撃はするが、そうでないのなら事が大きくなる前に止めないと。
「ポーラ!」
少し離れた場所にいたポーラのもとまで素早く移動し、ポーラの意識をこちらに向けさせる。
・・・・・・やっぱり今、ポーラは魔法を準備していた、よね?
「ポーラ。何してるの?」
話していた貴族から意識が逸れたことで、ひとまず高めていた魔力は収めたようだ。
しかし、明らかに不機嫌そうなポーラはそのまま。
・・・やはりこの貴族の男性に何かされた?
「・・・ポーラ?」
壁際へと連れて行き、ポーラに事情を確認する。
「お兄ちゃん・・・」
泣いてはいないが泣き出しそうな、暗い表情でこちらを見つめるポーラ。
コトハお姉ちゃんに救われてから久しく見ていなかったポーラの辛そうな表情に、思わず力が入るが、とにかく冷静に。今は何があったのかを聞かないと・・・
「ポーラ。何があったのか教えてくれる?」
「・・・・・・うん。あの人」
ポーラが示す先には、戸惑った様子でこちらを見ている貴族の男性とその息子らしき子ども。子どもと言っても僕と同じか、少し年上くらい。
挨拶攻勢は受けたと思うが、既に名前は覚えていない。レーノの予習にも入ってはいなかったと思う。
「あの人が、コトハ姉ちゃんがシャロンのお母さんを殺したって」
「・・・えっ!?」
シャロンのお母さん?
僕らが見つけた時には、既にシャロンのお母さんは亡くなっていた・・・
「どうしてそんな話に?」
「・・・あの人が、ね。シャロンのことを聞いてきたの。どうやって、・・・従えたのかって。それでね、ポーラは、話したの。シャロンのお母さんが、死んじゃってて、シャロンが1人だったって・・・。なのに・・・」
「なのに・・・?」
「コトハ姉ちゃんがシャロンのお母さんを殺して、従魔にしたのかって。それは素晴らしいって」
「・・・なんで」
「分かんない! 何回も言ったのに・・・。それで、コトハ姉ちゃんのことを、悪口言うし・・・、シャロンのことも何か、野獣って・・・」
「ポーラ・・・」
何となく事情は分かったけど、あの男の真意が分からない。
そんな暴言を吐いてポーラを怒らせる理由が分からない。
とりあえずあの男に話を聞きたいが、ここにポーラを放置しておくわけにも・・・
「カイト君」
困っていると、サーシャさんに声を掛けられた。
今度はヤートンさんは一緒ではなく、ギブスさんとギブスさんの長男のロッドさんが一緒だ。
「カイト様。ご無沙汰しております」
「お久しぶりです」
「お父様、邪魔です」
そう言ってギブスさんを押しのけ、サーシャさんがポーラに歩み寄る。
「ポーラちゃん。大丈夫?」
「サーシャ姉ちゃん・・・。サーシャ姉ちゃん!」
ポーラはサーシャさんに抱きつき、顔を埋めている。
「サーシャさん。ポーラのこと、お願いできますか。僕はあの男に用があるので」
「うん、任せて! お父様はカイト君と一緒に行ってあげて。万が一の場合の証人が必要でしょ?」
「そうだな。カイト様、お供させていただこう」
「・・・はい」
「ロッドはここで2人を守っておれ」
「はい」
快く引き受けてくれた3人にお礼を言ってから、ギブスさんを引き連れてポーラを泣かせた男の元へと向かった。
「お話、いいですか?」
こちらの様子を窺っていた男に、声を掛ける。
「も、もちろんです! 我々は先ほどまでポーラ様と・・・」
「ポーラのこと、名前で呼ばないでください」
「・・・え?」
思わず出た、僕の強い口調に驚きを隠せないといった様子の男。
「お主は確か・・・、ニムル伯爵、だったな?」
名前を知らない僕の代わりに、ギブスさんが男の紹介をしてくれた。
「は、はい。どうしてサイル伯爵が・・・」
ギブスさんが「どうしますか?」とこちらを見てくる。
ギブスさんに話を任せるわけにはいかない。
「ギブスさんや、その娘のサーシャさんは姉の友人なので。泣いている妹の様子を気遣って来てくれたんです。それで、ニムル伯爵、でしたっけ? どういう理由で妹を泣かせたのか、説明してもらってもいいですか?」
「・・・・・・なっ!?」
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