第270話:いざ、パーティーへ

〜カイト視点〜


ルネと別れてからは、レーノにアドバイスを聞きながら、パーティーの準備を終わらせていった。

ルネからはあの後、おそらくヴァンさんを通じて、「手合わせを!」というメッセージが送られてきた。ルネも建国式典に出席するようなので、時間があれば・・・・・・、というかほぼ確実に手合わせする流れになる気がする。


準備としては、僕とポーラが着ていく衣装や持っていく手土産、最低限覚えておいた方が楽な貴族の名前やその子女の名前を確認すること等々・・・

僕たちは初対面の相手ばかりだが、一度に自己紹介をされても覚えきれるか分からないので、念のため高位貴族から順に予習しておいた。


一番大変だったのはメイジュちゃんへの説明だったと思う。コトハお姉ちゃんが助けて以来、基本的にポーラと一緒に行動しているメイジュちゃんを、パーティーに連れて行くわけにもいかない。

何度か説得し、最終的にはキアラと一緒にいてもらうことで話がまとまって一安心。メイジュちゃんがキアラに懐いてくれたのは良かったと思う。


そんなキアラには、コトハお姉ちゃんが言っていたようにパーティーへの参加は断られた。これは予想通りだったので、キアラにはメイジュちゃんやシャロンのことをお願いしておいた。

キアラはコトハお姉ちゃんと同じ世界の出身だという『異世界人』の人たちや、彼女たちを護衛している冒険者パーティ「ラヴァの娘」のメンバーとも仲良くなっているようなので、彼女たちと一緒に過ごすらしい。



 ♢ ♢ ♢



慌ただしく準備を終え、パーティー当日。

パーティーの会場は、城ではなく王都にあるバイズ公爵家のお屋敷になる。いくらアーマスさんやラムスさんがお城で重要な仕事をしているとはいえ、建前上はバイズ公爵家が私的に開催するパーティーの会場として、城の広間を使うことはできない。


王家とバイズ公爵家の繋がりが強すぎると他の貴族の反感を買いかねないし、そもそも「バイズ公爵家は自分たちでパーティーすら開催できないのか」などと、無駄な批判を受けることになりかねない。


そんなわけで、会場はバイズ公爵家のお屋敷。

滞在している城からは馬車を使って屋敷を目指す。僕は断りたかったのだが、僕とポーラ、レーノが乗る馬車の前後にはうちの騎士団の他に近衛騎士が2名ずつ馬に乗り護衛をしてくれている。



「そういえばさ、僕たちのお屋敷は決まったの?」


バイズ公爵家のお屋敷まで少しあるのでレーノに聞いてみる。キアラによれば、買う屋敷は決まったとのことだったけど・・・


「はい。既に手続は済んでおります」

「そうなんだ。じゃあ、近々移動するの?」

「いえ、あと数日かかるかと。大公家の屋敷、ということでいくつか改装したい箇所があり、コトハ様に許可をいただき、作業に入っております。また、父やジョナスから騎士団目線での改装希望もありまして。どれも軽微なものですので、数日中には完成する予定です」

「そうなんだ。なら、もうすぐだね」

「はい」


問題なく決まったのなら安心だ。

あと少しでお城での生活も終わりかと思うと少し寂しい・・・?

いや、まさかそんなことを思う日が来るとは思わなかったけど・・・





そのまま問題なく進むこと少し、


「カイト様、ポーラ様。バイズ公爵家のお屋敷の前に到着いたしました。これから中に入ります」


御者をしていた騎士から報告があった。


「カイト様、ポーラ様。よろしいですか?」


レーノが最終確認をしてくる。


「うん、大丈夫」


そう伝えると、再び馬車が動き始めた。


「カイト様、ポーラ様。私は会場に入ることはできません。お二人は、会場に入ると同時に注目を集めることになると思いますが、変に気を使わず、堂々と。今のお二人は、立派な貴族家の子女ですから」

「うん、ありがとう」

「任せて!」


自信満々のポーラは不安だが、何とかなると信じよう。

最悪、フォブスやノリス、ラムスさんもいるし。それに、多くの貴族の目には、僕とポーラの後ろにはコトハお姉ちゃんが見えている。コトハお姉ちゃんに頼りすぎたり、迷惑を掛けたりはしたくないが、何かあってもコトハお姉ちゃんがいるという安心感は、何ものにも代え難い。


僕とポーラは、コトハお姉ちゃん、クルセイル大公の弟妹として堂々と振る舞うだけだ。



 ♢ ♢ ♢



「本日は、お越しいただきありがとうございます。カイト様、ポーラ様」


馬車を降り、中に案内されるとフォブスとノリス、そしてラムスさんとラムスさんの妻で2人の母親、そして国王陛下の娘であるミシェルさんが出迎えてくれた。挨拶はラムスさんだ。

今日の主催者勢揃い、他にも招待客が続々と到着しているが、それを無視してここに揃っている。


「招待に感謝します。当主であるクルセイル大公本人に代わり、お礼申し上げます」


事前に準備していた挨拶を返す。

今日の僕は、カイト・フォン・マーシャグ・クルセイルであると同時に、クルセイル大公家当主コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイルの名代でもある。そのことを意識して、挨拶しなければならない。


ただ、相手はラムスさんとミシェルさん、そしてフォブスにノリスだ。他の人がいなければ、いくら貴族家同士といえどもこんな格式張った挨拶はさすがにしない。

今のやり取りは、これを見ている他の貴族向け。レーノに教わったことを思い出しながら、話を進めていく。


「ささやかではありますが、我が領自慢の品を持参いたしました。どうぞ、お納めください」


そういってレーノに指示を出す。

レーノの合図で、2人の騎士がそれぞれ箱を持ってくる。


バイズ公爵家の使用人が、机を用意してくれたので、騎士がそこに箱を並べ、蓋を開ける。

中には、


「・・・」

「これは・・・」


声を出すことはしないがその顔には驚きが見て取れるラムスさんと、思わず声が出てしまったフォブス。フォブスは後で怒られるな・・・


「クライスの大森林に生息している二つ首の魔獣。亜竜に分類される『ツイバルド』という魔獣の魔石です。クルセイル大公領の領都ガーンドラバル周辺や森の奥で狩りや騎士団が訓練をしていると、遭遇することがあります。これら4つの魔石は、クルセイル大公であるコトハ本人、私、こちらにいる妹のポーラ、そして騎士団がそれぞれ討伐した『ツイバルド』の魔石になります。どうぞ、お納めください」


同じく、予め用意しておいた紹介を述べる。

厳密には、この4つの魔石の持ち主であったツイバルドを、それぞれが1体ずつ倒したかは定かではない。空を飛んでいる関係で、コトハお姉ちゃんやポーラが魔法で倒すことが多いからだ。

とはいえ、騎士団でも討伐は可能だし、僕も倒した経験はある。今回は、バイズ公爵家というよりはこの光景を見ている他の貴族へのアピールなので、僕ら大公家の3人はもちろん、騎士団も討伐できるということを示すには、この紹介が適当だと考えた。もちろん、レーノと一緒に。


魔獣・魔物の強さを比べることは難しいが、魔石の大きさはその指標になる。一般に、大きな魔石を持つ魔獣・魔物は強いと考えられており、大きな魔石の価値は高い。

ツイバルドの魔石は、ここにいる貴族にとってもよく知るゴブリンやオーク、グレートボアの魔石に比べれば当然、バイズ公爵家を通して少量だが卸しているファングラヴィットやフォレストタイガーと比べても大きい。

当然、これを見ていた貴族の目は驚きに見開いていた。



「これは、大層な物をいただきまして、ありがとうございます。さぁ、どうぞ中へ」


ラムスさんがどうにか言葉をひねり出し、僕とポーラに中へ入るよう促してくれた。

それを見て、執事の1人が前に出て・・・って、僕とポーラがガッドにいるときに主に教師役としていろいろ教えてくれたグレイさんだった。


「どうぞこちらへ」


グレイさんに案内され、2人で会場へと入る。

フォブスとノリスは、出迎えのために玄関に残るようだ。とはいえ、こういったパーティーには、爵位の低い者が先に入り、高い者は後半に入るというマナーがある。僕たちは大公家ではあるが、僕らは当主ではないので、上位の伯爵家が来るであろう時間に合わせて屋敷に到着した。

なので、まだ伯爵家が少しと侯爵家の人たちは中に入ってはいない。といっても到着はしだしているので、出迎えも直に終わると思う。


少し進んだところで、


「カイト様、ポーラ様。ご無沙汰しております。ご壮健で何よりにございます」

「こちらこそ、お久しぶりです」

「本日は出席者が多いですが、ガッドでお教えしたことを胸に、パーティーを楽しんでくさいませ」


と、ガッドでの教師の顔を一瞬戻して微笑むグレイさん。僕はそれほどだったが、フォブスとポーラがよく怒られていたのを思い出し、笑ってしまった。


「それでは、こちらになります。お食事は壁際に。お飲み物は壁際のテーブルにも並んでおりますが、中にいるメイドにお申し付けくだされば、お持ちいたします」

「分かりました」

「それでは、失礼いたします」


会釈し玄関へと戻るグレイさんを見送り、僕たちは会場へと入った。


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