第269話:運命の出会い?

〜カイト視点〜


コトハお姉ちゃんを見送った後、ラムスさんと会って明日のパーティーについて説明をしてもらった。


「カイト様。先ほどのラムス様の話。コトハ様にお伝えなさいますか?」


困ったような表情で問いかけてくるレーノ。

先ほどの話というのは、僕とキアラに関する話だろう。


「ううん。伝えなくていいよ。何か強要されたわけでも、騙されそうになったわけでもないしね。むしろ、コトハお姉ちゃんが怒らないように最大限注意しつつ、どうしても聞きたいことや伝えたいことを話していた感じだからね。僕自身、ためになる話が多かったし」

「・・・承知しました」

「大丈夫! 僕はコトハお姉ちゃんとラムスさんやバイズ公爵家が揉めるのは嫌だし、コトハお姉ちゃんもそれは望まないと思うから。僕がフォブスたちとこれからも仲良くしたいって気持ちを優先してくれたんだから」

「・・・そうですね。失礼しました」

「ううん。ありがとうね」



 ♢ ♢ ♢



部屋に戻るため城の廊下を進んでいると、若い女性と付き従う騎士?のような人とすれ違った。

女性の着ている服が見たことのない形状だったので、少し気になって振り返った瞬間、強烈なプレッシャーをその女性から感じた。


「っ!?」


思わず後ろに飛び退け、両腰に装備していた剣を抜く。

相手が分からないので見える場所を『人龍化』はせず、服の下に鱗だけ出しつつ、『身体強化』を発動できるように準備する。

この動きは、いつでもできるように繰り返し訓練した動きだ。最低限ここまでやっておけば、一撃で倒される危険は少ないし、次の行動にも移りやすい。


そんな僕の様子を見てレーノが前に出ようとする。

けれど、レーノには荷が重いと思う。レーノは決して弱くはないが、コトハお姉ちゃんはもちろん、僕やポーラよりも弱いし、うちの騎士団と比べても下の方。感じたプレッシャー、おそらくコトハお姉ちゃんのオーラに近いものだと思う。それを考えると、レーノに対処できる相手だとは思えない。


「レーノ! 下がって!」

「し、しかし」

「いいから!」


無理矢理レーノを下がらせ、相手を観察する。

すると、


「はっはは!」


と、大声を出して笑う女性。

そして、感じていたプレッシャーが収まった。


「ええっと・・・」


意味が分からず戸惑っていると、2人が近づいてきた。


「妾の目に狂いは無かったようじゃな! これは運命じゃ! お主、相当強いであろう!?」


目の前に立ち、そんなことを言いながら嬉しそうに話す女性。ニカッと頬を吊り上げて笑う口元からは、綺麗な白い歯が・・・、牙が見えている。

僕が何か答えようとして、


「ぐへぇっ!」


・・・・・・騎士っぽい服装の男性が、女性の頭に拳骨を振り下ろした。


「な、何をするのじゃ、ヴァン!?」


叫ぶ女性を無視して、ヴァンと呼ばれた男性が話し始める。


「鬼姫様の失礼を心からお詫び申し上げます」


と、叫ぶ女性を無視して深々と頭を下げるヴァンさん。


「説明していただけると・・・」


どうにか言葉を絞り出して問いかけると、


「はい。こちらは、現エクセイト鬼王国鬼王陛下が三女、エクセイト鬼王国第3鬼姫、ルーネリウス・バン・エクセイト殿下であらせられます。私はルーネリウス鬼姫殿下の護衛隊長兼側仕えをしておりますヴァンと申します」


と、とても丁寧な口調、動作で紹介をしてくれた。

・・・・・・え? エクセイト鬼王国? の、鬼王陛下って王様ってこと・・・? その三女って・・・・・・、お姫様!?


「丁寧なご紹介、痛み入ります。こちらは、カーラルド王国クルセイル大公が弟、カイト・フォン・マーシャグ・クルセイル大公弟殿下にございます。私は従者のレーノと申します」


思わず慌ててしまう僕を、すかさずレーノがカバーし、紹介をしてくれた。

ええっと、この女性は一国の姫。クルセイル大公家は・・・、大公でありカーラルド王国での立場はあるが、他国に対しては一貴族に過ぎない。そんなクルセイル大公の弟である僕は・・・、彼女より下になる。


「カイト・フォン・マーシャグ・クルセイルです。先ほどの失礼な振る舞い、お詫び申し上げます」


この場にお姫様がいるということは、国の代表としてきているのだと思う。

そんな彼女に対し、いくらプレッシャーを感じたとはえ、いきなり飛び退き抜剣してしまった。

それを思い出し、慌てて謝ったのだが・・・


「気にするでないわ。というか、カーラルド王国ほどの大国の大公であろう? エクセイト鬼王国のような小国と比べれば、そちらの方が上ではない・・・、いでぇっ!」


話す彼女の頭を、再びヴァンさんの拳が襲った。


「何をするのじゃ!」

「お嬢様。いくらお嬢様といえど、鬼姫であるお嬢様が、事実であってもエクセイト鬼王国を貶すのはいただけません」

「むぅー。というか、お主が言うのはいいのか!?」


ヴァンさんに怒られ、頬を膨らませる鬼姫様。ヴァンさんは鬼姫様の抗議を華麗にスルーしている。

そんな様子に、僕とレーノが困っているのを察したのか、ヴァンさんが、


「重ね重ね失礼を。お嬢様はこのような方ですし、細かい作法などは気にしません。そもそも、お嬢様の言うように、カーラルド王国の大公となれば、立場のバランスも微妙ですから。そして何より、お嬢様が『気』を放たれた。殿下はそれに反応なされただけですから」


と、まとめてくれた。



それから、鬼姫様の頭にヴァンさんの拳骨が降り注ぐこと数度、僕は鬼姫様をルネ、ルネは僕をカイト、と呼ぶことで落ち着いた。ルネは、ルーネリウスの愛称だそうだ。

やはりルネは、エクセイト鬼王国からの使者として、建国式典に来たそうだ。今は、国王陛下との会談を終えた帰りだとか。


「よろしくな、カイト!」


満面の笑みのルネの額には、1本の黒い角が生えている。

最初は気がつかなかったのだが、ヴァンさんの額にも角がある。ヴァンさんの角は2本で白っぽい色だ。


「よ、よろしく、ルネ」


彼女の勢いに圧倒されつつ返事をする。


「それでじゃ、カイト。先ほどの続きをしようぞ」

「続き?」

「勿体ぶるでないわ! 手合わせじゃ、手合わせ。妾の『気』に反応し、抜剣したばかりか、何かスキルを発動させておったであろう? お主はこの城で出会った、いや国を出てから出会った中で最も強い男じゃ。ささ、手合わせを・・・、ぐへぇっ!」


もはやお馴染みの鉄拳制裁。

ヴァンさんは、ルネの方を見ることもなく話す。


「お嬢様が失礼を。お嬢様は少々・・・・・・、どころか完全に戦闘狂なのです。国許でも手当たり次第に戦士に手合わせを挑み、圧倒し。少なくとも、エクセイト鬼王国の若手で最も強い存在となりました。その戦闘脳は止まるところを知らず、強い者を求め続ける始末。偶然来ていた建国式典への招待状を鬼王陛下から奪い取ると、単身で出発されてしまいました。私が追いついてからは2人でここを目指しておりましたが、道中でもいろいろと首を突っ込み、戦いを挑み・・・」


疲れた様子でこれまでの苦労を話すヴァンさん。ルネは最初からだが、ヴァンさんも話すにつれて、どんどん堅苦しさがとれている。ルネとは明確な主従関係があると思うのだが、それを感じさせないやり取り。何だか、コトハお姉ちゃんに似ている気がする・・・


「ヴァン! お主、妾の悪口を言っておるであろう!?」

「そのようなことは。お嬢様の武勇伝を・・・」

「やかましいわ! ・・・まあ、よい。今日は、このような好敵手に出会えた幸運に免じて許してやろう。それで、カイト。手合わせしてくれるか!?」


話が戻ってしまった・・・

それにしても、ヴァンさんの話。エクセイト鬼王国の若手で一番強い。

見たところ僕より少し年上? 年齢を聞くわけにもいかないけど、コトハお姉ちゃんと同じか少し年下くらいに見える?


そして先ほどのプレッシャー。2人の言う『気』というのは、前にケイレブが言っていた。コトハお姉ちゃんがオーラと呼ぶものだろうか?

オーラは、僕やポーラはもちろん、ある程度魔力を操れる者であれば出すことができる。コトハお姉ちゃんや僕たちのオーラには、ケイレブたちが反応した『古代龍族』に近いもの?があるらしく、オーラの性質は人それぞれ。


「手合わせって言われても、これからやることもあるし・・・」

「むぅー・・・。ならば、妾もカイトと一緒に・・・、ぐへぇっ!」

「はぁ・・・。お嬢様、部屋に戻りますよ。昼食をいただいたら、王都の見学に参りませんと。いくらお嬢様にあまい鬼王陛下といえども、招待状を強奪したお嬢様が、訪問先のカーラルド王国で遊びほうけていたと知れば、お怒りになりますよ。最低限の見学はいたしませんと」

「それは・・・そうじゃが」

「おわかりいただけたようでなによりです。それでは、カイト殿下、レーノ殿。失礼いたします」


そういうとヴァンさんは、文句を叫ぶルネの手を引き、去って行った。


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