第265話:帰還の途へ

ケイレブと弟さんの先導で、砦に近づく正体不明の『魔族』たち。

近づいてきてその姿がよく見えるようになってきた。お揃いの黒い衣装・・・というか装備を身に付けている6人。先頭を飛んでいる1人だけが、少し装飾が違うかも?

6人の翼は、さっき見たとおりにコウモリのような翼。黒というよりは濃い紫色だ。そして、6人中4人の頭には角が生えている。領都にいるヤリスさんやフラメア、そしてメイジュちゃんの頭に生えているのと同じような角。その形や色は人それぞれだが、まあ同じような角と言って差し支えがないだろう。


砦に到着するまでには、まだ少し時間がかかりそうなので、こちら側の準備を進めておく。

近くにいた騎士に、マーカスと両団長を呼ぶように伝える。


少しして3人が壁の上に上がってきた。


「お呼びでしょうか」


代表してマーカスが聞いてくるのを制して、『魔族』たちが飛んでくる方向を指す。


「あそこ、見える? この砦に『魔族』が6人近づいてくる。今は、ケイレブたちが先導してる」


何気ないように伝えた私とは対照的に、一気に緊張感を増す3人。

騎士団長が、


「警戒! 戦闘用意!」


と、部下に指示を出す。

魔法師団長も、砦の調査のために散っている魔法士を集めるように指示している。

そしてマーカスは、私の前に出て、剣を抜いている。


「落ち着いてって。ケイレブたちが先導しているって言ったでしょ!? 既に2人はドラゴンの姿を見せてるし、大人しく付いてきてるんだから、そんな警戒する必要は無いって!」


そう言って宥めるが、


「お言葉ですが、それとこれとは別です。正体不明者が迫っているのであれば、それ相応の準備をしませんと。もちろん、コトハ様のご指示には従いますが、それでも準備は必要です」

「・・・そう」


これは、マーカスの言うとおり、か。

状況的に、敵ではないように思えるが、準備が必要なことは否定できない。私はマーカスや騎士、魔法士の命を預かっている立場であって、軽率な判断で彼らを危険に晒すわけにはいかない。


「・・・ごめん。マーカスの言うとおりね。それぞれ、準備を。でも、私が指示するか、向こうから攻撃されるまでは、絶対に攻撃はしないで。無闇矢鱈に敵を作りたいわけでも、殺したいわけでもないから」

「「「はっ」」」



 ♢ ♢ ♢



『魔族』の6人は、砦の壁の外、門の前に降り立った。

その直ぐ横に、ケイレブと弟さんが降り立つ。


私は、インディゴをどうにかホムラに任せ、砦の壁の上から飛び出して、下に降りる。

マーカスには止められたが、直ぐ後ろにケイレブたちがいるし、私には『自働防御』があるし、騎士や魔法士を送るよりも危険は少ないと思う。

まあ、マーカスには「そういう話ではありません!」って怒られたけど・・・


何はともあれ下に降りた私は、彼らが降りた直ぐ近くに向かう。

ほぼ同時に、ケイレブが私の横に来て、彼らと私に間に入った。


「コトハ様。コトハ様の『気』を感じ、勝手ながら、彼らをここまで先導いたしました」


報告してくるケイレブ。

そういえば、ケイレブたちのとった行動は、完全に私の意に沿った行動だった。あの状況で、私のオーラを感じれば、ケイレブたちなら攻撃しても不思議ではない。そう考えると、どうしてケイレブが私の意を汲んでくれたのか、気になる。

だが、まあ、それは後だ。


ケイレブについて、彼らに近づく。


「どうも。現在のこの砦の管理者。コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイル。カーラルド王国の大公よ」


と、自己紹介。

この自己紹介にも慣れたものだ。慣れたのは、前世に比べて長い自分の名前を名乗ることだけではなく、


「た、大公!?」


このように、驚いて跪こうとする相手の反応まで含めて。


「いいから。立って、顔を上げて。見たところ、貴方たちは『魔族』だと思うけど、どの様なご用件で?」


極端な、いや、この世界の人にとっては当たり前な行動を取ろうとする相手を制して、話を進める所までが、ワンセットか・・・


私の指示で立ち上がった6人。

先頭の、少し装飾の異なる装備を身に付けている男が代表して話し出す。


「ご無礼をお許しください。私は、ダグラ・ゴードウェル。ウォーレン王国の子爵位を賜っております。現在は、ウォーレン王国の奴隷解放部隊の一員として、ダーバルド帝国に捕らえられた同胞の捜索と解放の任務にあたっております。本日は、この砦の中に同胞の、その・・・・・・、亡骸があるとの情報を得て、参った次第にございます」


とのこと。

ちょっと情報量が多すぎて困るが、敵ではなさそうで、一安心。


「分かったわ。まずは・・・・・・、そうね。今、あなた・・・、ゴードウェル殿が仰った、同胞の亡骸。『魔族』の方のご遺体ってことでいいのよね? そのご遺体なら、砦の中にある建物の地下に11体。11名の『魔族』の方のご遺体を発見しているわ。探している方たちか分からないけど、確認・・・しますか?」


まずは、これか。

ウォーレン王国のことや、奴隷解放部隊のことも聞きたいが、まずは彼らの目的。ウォーレン王国がどこにあるのか知らないが、彼らを探してはるばるやって来た。そして、ドラゴンに襲われている砦に、その命を賭け、そして文字通りドラゴンに睨まれながらやって来た。そんな彼らに、まずは探している人たちを、返してあげるのが優先だろう。


私の提案は、彼らに受け入れられた。

少し待つように伝え、再び壁の上へ。


待っていたマーカスのお小言を聞き流しながら、彼らの目的や所属を伝える。

結果、3人も、彼らを砦の中へ招くことを認めてくれた。



砦の各門は現在調整中。その開閉方法を把握し、ドラゴンの攻撃により破壊されていないかの確認が済んでいない。

幸いなことに彼らを含め、門の外にいるのは全員が何の問題もなく飛べる者たち。


飛んで中に入るように伝え、砦の中へと招き入れる。

念のために、6人にはこちらへの断り無く飛ばないようには頼んでおく。向こうには敵対の意思はなさそうだが、つまらないことで揉めたくない。


先程まで地下で作業をしていたマーカスの案内で、とある建物の地下へと向かう。今回も、どうにか説得してインディゴにはホムラとの留守番を頼んだ。どう考えても、インディゴを連れて行くのは違う。ただ、先ほどと同様に、その揺れ戻しでくっついて離れなくなる気がしてならないが・・・


地下へ着くと、そこには布の上に並べられた11体の遺体。どの遺体も、ガリガリに痩せ細り、ところどころに傷がある。そして、いくつかの遺体に関しては、腕や脚など、身体の一部が欠損していた。


その遺体を前に、マーカスが説明を始める。


「コトハ様の部下である、ホムラ殿が発見された『魔族』の方々のご遺体になります、数は11名。その・・・、かなり雑に扱われたのか、ご遺体に損傷が激しく、また一部欠損している方も。できる限り識別し、綺麗にしておりました」


と。

その遺体を前に、沈黙する6人の『魔族』たち。


やがて、ゴードウェルさんが、


「クルセイル大公殿下。マーカス殿。同胞への、格別のご高配痛み入る。亡くなった同胞本人、そしてその家族に代わって、心から御礼申し上げる」


そう言って、深々と頭を下げる6人。

本当に、彼ら彼女らを助けたかったのだと、その無念さが伝わってくる。


「お気になさらず。最大限、丁寧に扱うように指示はしていたけど、貴方たちの伝統、風習に沿わないところがあっても容赦を。それと、彼らは、貴方たちが探している人たちだった?」

「・・・はい。この砦に捕らわれているとの情報があったのは同胞が3人。その3人は、間違いなく。他の8人も、『魔族』なのは間違いがなく。我が国の民であるかは分かりませんが、少なくとも同じ『魔族』として、心から御礼を」

「そっか。3名だけでも、11名全員でも構わないけど、連れて帰られますか?」


私の問いに、首肯し応じるゴードウェルさん。


ゴードウェルさんの部下の1人が、この場に残り遺体の扱いについて、指示をお願いすることになった。11名全員を連れ帰るらしい。

遺体の処理や、国へ連れ帰るために簡易の棺のようなものを用意する必要があった。それについては、私の『土魔法』で簡単に作れたので、11名分の棺を用意して置いておく。


私たちはゴードウェルさんと残りの部下と一緒に、地上に戻り、話をすることになる。

遺体を引き渡すのは構わないが、それ以外にもゴードウェルさんとは話すべきことがあると感じた。


ウォーレン王国のことも、奴隷解放部隊のことも。

こちらが伝えられる情報もあれば、彼らが知っている情報もあるだろう。私としては、インディゴの家族や、『異世界人』についての情報が欲しい。

一方でゴードウェルさん側は、こちらのことを知り、国に伝えたいのだと思う。対ダーバルド帝国で共闘できる相手となり得るのかどうか、その観点での情報把握がしたいのだと思う。


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