第264話:怒りをぶつける先

砦内の捜索が終了し、敵兵の逃げ残りはいないことが確認された。

王宮騎士団の騎士や王宮魔法師団の魔法士は、それぞれこの砦に持ち込まれた戦力を確認すべく、投石機などの武器を調べたり、最大の謎である砦の建設方法を探ったりしている。ホムラたちが見つけた魔道具の解析もその1つだ。


うちの騎士団は、地下室で見つけた『魔族』の遺体をどうするか検討している。

遺族のもとへ帰せればそれに越したことはないが、それは難しいだろう。ここで埋葬するか、どうにか王都へ連れ帰り、『魔族』が多く信仰している宗教の教会などで埋葬をお願いするか。費用を負担するのは構わないし、亡くなっている関係で急ぐ必要もない。


私はホムラ、インディゴとジョナスとライゼルさんを連れて、拘束した秘書の男に向き合っていた。

先ほど簡単に行った取り調べの続きだ。できればインディゴにはホムラと離れていてもらいたいのだが、頑なに私の側を離れたがらないので、やむを得ず。どうにか、見える範囲にいることを条件に、ホムラと一歩下がってもらった。


「さて。さっきの続きなんだけど・・・」

「ああ」

「・・・・・・って、そうか。名前は? 聞いてなかったよね?」

「名前? 捕虜に名前を聞くのか?」

「うーん、まあ? 名前知らないと話にくいし」


かなり驚いた様子の秘書の男にそう告げる。

ちなみに、彼の口調が乱雑なことは無視するように、後ろの面々には伝えてある。こんな場で、敬語がどうだの、身分がどうだの言うのは面倒以外何ものでもない。この男が捕虜で、私が質問する。それで十分だ。


「そうか・・・。俺はモニック。家名は・・・・・・無い」

「・・・前はあった?」

「ああ。半年前まではな。まあ、昔の話だ」

「・・・そう? どのみち聞くから、教えてくれると助かるんだけど」

「そうなのか? というか、俺のことを聞いてどうするんだ? 別に、人質としての価値は無いぞ?」

「ん? いや、そんなつもりはないけど・・・。まあ、いいや。そういうのは専門家に任せるよ。私は自分が聞きたいことだけ聞くことにするから」

「・・・・・・先に、1ついいか?」

「ん?」

「あんたが、一番偉いのか? さっきは動転してたのか、気にしてなかったが、どう見ても戦場には似合わんだろ。あんたと後ろの美人の2人」

「ああー、そうかもね。一応、私がこの作戦?の最高指揮官。コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイル。カーラルド王国の大公よ」

「・・・なっ!?」

「といっても、大したもんじゃないし、これからの話にはあんま関係ないんだけどね」

「・・・・・・いやいやいや。関係あるだろ! ・・・いや、関係あると思いますが・・・」

「今更敬語とか要らないって。言葉遣いみたいな些末なことで、対応変える気ないし」

「そうなの・・・か?」

「そう。大公になったのも成り行きだし、国の運営に深く関わる気も無いしね。ここへ来たのも、国とは関係無い目的もあるから」

「・・・さっき聞いてきた、奴隷の話か?」

「簡単に言えばそう。早速質問だけど、あそこにいる男の子、インディゴの家族について知っていることはない?」

「インディゴ? それが名前だったのか?」

「ううん。本人も自分の名前は知らないっていうから、私が名付けた。彼のご両親や同族の方がいればと思うんだけど、心当たりはない?」

「・・・いや、申し訳ないが。そもそも、その子は数年前に同じ姿をした『魔族』と一緒に捕らえられたことしか分からん。大人は、他の『魔族』と同じように戦力や労働力として使ったんだと思うが・・・」

「そう・・・。どうしてこの砦に?」

「それは・・・」

「・・・・・・今更隠すの?」

「いや、そんなつもりはない。だが、俺も詳しいことは分からん。ただ、魔力を吸い取る目的で連れて来られたんだと思う」

「吸い取る?」

「何というか・・・」

「コトハ様」


モニックが言葉に詰まっていると、ホムラが口を挟んだ。


「なに?」

「先ほど見つけた魔道具。あの魔道具であれば、魔力を吸い取り、他者へ魔力を与えることができるかと」

「・・・なる、ほど? 与えてどうするの?」

「魔法使いが、強力な魔法を使う」


今度はモニックが答えた。


「強力な魔法・・・・・・って、この砦!?」

「早いな。魔力の多い『魔族』から多くの魔力を死ぬまで吸い取り、魔法使いに流した」

「それって・・・、亡くなった魔族は・・・」

「そういうことだ」


なるほど。

よく理解できた。この砦が高速で建設された理由、あの魔道具の使い道、亡くなった『魔族』の奴隷。


「それなら、なんでインディゴは?」

「俺も詳しくは知らんが、その子からは魔力が吸い取れなかったらしい。だから、牢に放置されてた」


・・・・・・出来損ない。子どもといえど『魔族』であり、魔力を多く保有しているはず。それなのに、魔力が吸い取れなかった。だから、出来損ない、か。

魔力が吸い取れなかった理由は分かんないけど、インディゴたち『半竜人』にはその魔道具が作用しなかったのか、以前のキアラの様に何らの理由で魔力が詰まっていたのか・・・


「なるほどね・・・・・・・・・」


この怒りはどこへぶつけようか・・・

モニック・・・は、こんな下っ端の文官にあたっても仕方がない。それに一応、有用な情報源だ。

魔道具を作った者は・・・、誰だか知らないし、道具は使い方次第。もちろん、最初からその目的だったのなら罪を背負うべきだが、それも分からない。

・・・当然、そういった運用をしている連中、か。実際に働いている者にも咎はあるが、まずはそれを決めている連中だな。


ひとまず、怒りを抑えておく。まあ、あまり溜め込めるとも思えないし、そんなつもりもないが・・・


「最後に、インディゴが捕らえられた場所・・・か、町は分かる?」

「ああ。クラリオル山を越えて直ぐの町だ。この砦からだと、近い町は2つあるんだが、南側の町。ケーリンという名の町になる」

「・・・そこに行ったら、手掛かりが見つかる?」

「断言はできない、が・・・。あの町は、町長を務める男が帝都の役人だ。皇帝の直轄地だからな。確か、ここ10年近くは町長が代わっていないはずだ」

「なるほど。その町長に聞けば、あるいは・・・。私からは以上よ。後は・・・ちょうどいいところに来た、騎士団長に任せるわ」


モニックの身柄を騎士団長に預ける。

別にどうなろうと構わないが、暫くの間は捕虜として、いろいろ話してもらおう。騎士団というか国の方でも聞きたいことはあるだろうし、後はお任せだ。



 ♢ ♢ ♢



とりあえず、そのケーリンという町に行くのは確定として、今後の行動方針を考えなくては。

両団長は、ひとまずこの砦の守りを固める予定だ。ダーバルド帝国と同じくドラゴンによる襲撃を受ける可能性は無いに等しいが、ダーバルド帝国が取り返しに来る可能性はある。この砦の立地と、そもそも砦や城塞に立てこもられた場合に、それを制圧するのには数倍の戦力が必要だというのがセオリーらしく、それほど多くの人員を配置しなくても、ひとまずは問題ないらしい。後は、この砦の立地や造り、設備を考慮してダンさんたち軍部の幹部と相談するとか。


私はホムラとインディゴを連れて、砦の壁に上がっていた。

さっきは気づかなかったが、山を少し登ったなだらかな場所に作られた砦なだけあって、見晴らしは良いし、眺めも最高。


だが、そんな綺麗な景色の中に、微かに動く存在を確認した。

ぱっと見、鳥のようにも見えるが・・・

それと同時に、『魔力感知』に反応があった。


思えば、砦にケイレブたちを突撃させる前、感じた魔力。ケイレブによれば『魔族』の魔力。

砦の制圧後には感じなくなっていたので、後回しにしていたのだが・・・・・・


目に魔力を流し、望遠機能を使うとハッキリと視認できた、人型の物体。数は6。全員の背中から、コウモリのような翼が生えている。

そういえば、私の関係者以外で、空を飛ぶ人を見たのは初めてだ。


進路的に、ここを目指しているのは確実。

目的は? 飛べることを生かして砦を襲いに来た? いや、あれがさっきの『魔族』なら、ドラゴンの群れのことも見ているはず。私たちとドラゴンたちの繋がりが分かんなくても、この短時間でここを襲うのは危険が大きすぎる。


とりあえず、こちらが気付いていることを伝えつつ、警告するか。


「ホムラ、インディゴ。驚かないでね」


何をするか分かっているようで、静かに頷き、インディゴの手を引いて少し下がるホムラ。

それを確認し、私はオーラを全開にした。


再び望遠機能を起動し、『魔族』の方を見ると、速度を緩めているのが確認できた。

そしてその背後に、突如大きな赤い2体のドラゴンが出現した。


ケイレブとその弟さん。ドラゴンの群れにダーバルド帝国の兵士を追い立てさせ、ある程度まで逃げたら戻るように伝えてあったが、丁度良く戻っていたようだ。

私がオーラをぶつけたことに反応し、瞬時にドラゴンの姿に戻ったらしい。


飛んでいた『魔族』は、2人の姿を見ると恐怖に固まり、直ぐに人の姿に戻ったケイレブらの指示で、高度を下げつつ、ゆっくりこちらへ進み始めた。


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