第263話:ふざけた光景
〜ダグラ・ゴードウェル視点〜
ダーバルド帝国。
我が祖国、ウォーレン王国の永遠の敵。そして、我ら『魔族』の敵。
祖国の民を奴隷として狩っていることは有名だった。そのため、王宮主導でダーバルド帝国の奴隷商人の排除が進められ、国内にいた害虫の駆除は粗方完了した。
次に行うのは、連れ去られた同胞を助け、国に連れ帰ること。俺は、その任に就き、10年以上。これまでにダーバルド帝国にある奴隷収容所や実験施設から、多くの奴隷を助け出した。
そして最近、ラシアール王国が滅び誕生したカーラルド王国との境に、ダーバルド帝国が砦を建造したとの情報を得た。その建造に、多くの奴隷が使われたことも。まだ、砦の中に奴隷がいることも。
ダーバルド帝国がジャームル王国に攻め入った影響か、砦の守り自体は大したことがないようなので、5人の部下を連れて救助に来たのだが・・・
「ゴードウェル様、あれは・・・幻覚でしょうか? それとも悪い魔法?」
部下の1人がそんなことを聞いてくる。
ふざけた問いかけをするなと怒鳴りつけたいが、今回ばかりはこいつに同意する。そもそも、普段はこんな馬鹿げたことを言うような奴ではないがな・・・
「少なくとも、幻覚や魔法では無い。現実だ」
そう返すが、俺自身も目の前の光景を、現実として受け入れられてはいない。・・・いや、頭が受け入れることを拒否している。
砦を発見し、その周囲を偵察。同時に砦の警備状況も探り、侵入経路の選定を進めていた。
我々の最大のアドバンテージは、飛べること。翼を持つことを最大限に活かした砦への侵入を考えていた、そんな時だった。
突如、1体の赤いドラゴンが飛来した。ドラゴンを見たことはあるが、あそこまで大きく、そして圧倒的な魔力を感じるドラゴンを見たのは初めてだった。
当然、ドラゴンの姿は砦からも見え、ダーバルド帝国の兵士はパニックに。まあ、無理もない。
そして何を思ったのか、いや、分からなくもないか・・・。連中は、そのドラゴンに攻撃を開始した。矢を放ち、岩を撃つ。だが、攻撃は通用しなかった。
しかし、不思議なことにドラゴンには反撃する様子がなかった。全く効いていないようだが、それでも鬱陶しくはあると思うのだが、完全にスルーしていた。
兵士はその様子に戸惑いながらも攻撃を続けていたが、少ししてドラゴンの反撃が始まった。しかし、問題はそこではない。最初のドラゴンが咆哮し、ブレスを放ったかと思えば、数十体のドラゴンが飛来し、砦を攻撃し始めた。
砦のパニックは収拾が付かなくなり、秩序は崩壊した。
目の前で起こった光景を理解しようとかみ砕いていると、偵察に行かせていた部下が戻った。
「ゴードウェル様。報告いたします」
「・・・なんだ?」
「砦を挟んで反対側に数十の騎士や魔法士らしき人影が。ダーバルド帝国ではありません」
「・・・カーラルド王国か?」
「おそらくは」
「そうか。報告ご苦労」
「はっ」
・・・・・・カーラルド王国の騎士がいることは不思議ではない。
国境に砦を、しかも驚くべき速度で作られたとあっては、警戒して騎士団を派遣してもおかしくはないだろう。
・・・・・・・・・・・・だが。
よく考えると、目の前の光景には違和感があった。そもそも、最初のドラゴンはなぜ直ぐに反撃しなかった? 砦の前に居座り、威嚇していたが暫くの間、反撃はしなかった。そして、突然反撃を開始した。まるで、何かを待っていたかのように・・・
あのドラゴンの群れは何だ? あれだけの数のドラゴンが、なぜ砦を襲う? いや、最初のドラゴンが攻撃されたから反撃したとも考えられるが・・・・・・、違うな。最初のドラゴン1体で、砦はおろか、大きな町1つ、それこそ我が国の王都だって落とせるであろう。
そして、ドラゴンの群れが襲った砦。どうして、砦が破壊されていない? いくつか崩壊した建物があるが、あれだけの数のドラゴンが襲えば、更地になっても不思議ではない・・・
「・・・・・・笑えんな」
「ゴードウェル様?」
不意に、馬鹿げた、そして考えたくもない推測が浮かんだ。
一笑に付して忘れたいが、状況的にそれができない。
「お前ら2人。逃げるダーバルド帝国の兵士、できれば身に付けている装備が豪華な奴を1人、2人捕らえてこい。状況の確認が必要だ」
「確認ですか?」
「ああ。不自然なことが多すぎる」
「・・・と、いいますと?」
「んぁ? 考えてもみろ。あれだけのドラゴンが襲っておいて、なんで砦が無事なんだ? 最初のドラゴン1体でもお釣りが来るってのに」
「・・・っ!?」
「そういうことだ。そもそも、ドラゴンが襲ってきた理由も含めて、情報が必要だ。早く行け!」
「は、はい!」
♢ ♢ ♢
部下が捕らえてきた3人の兵士。装備的には、かなり上位の指揮官が1人と雑魚2人か。
「質問に答えてもらおうか」
指揮官らしき男に問いかけるが、首を横に向け、こちらを無視する。まあ、当然か。腐っても兵士、騎士なら、捕らえられて素直に話すわけもない。
俺は無造作に、剣を抜いて振り払った。剣先が、目の前に座る指揮官らしき男の右腕を捉え、肘から先を切り落とす。
「っぐ・・・!」
声にならない悲鳴を上げる男。
この状況で喚き散らさない辺りはさすがだが、生憎時間が無い。
「お前も痛い思いをしたくはなかろう。どのみち逃げられん。大人しく話してくれた方が、双方のためだが?」
拷問は好かんが、必要ならば躊躇うこともない。そもそも、何があろうとダーバルド帝国の人間だ。丁重に扱う理由など無い。
「面倒だ。こちらの質問に答えれば、手荒な真似はしない」
再度剣先を突き付けると、男は折れた。
「・・・・・・分かった」
「いい判断だ。では聞くが、お前らはなぜドラゴンに襲われた?」
「知るか・・・」
「・・・・・・おい、貴様。質問に答えろと言ったはずだが?」
「だから、分からんのだ! これまでこの山でドラゴンを見かけたことなど無い! 砦の建設中も、運用が開始されてからもだ! 今日が初めてだ! いきなり、目の前に現れ、そして・・・」
嘘では無い、か。嘘をつく理由も無いだろうしな。
しかし、早速行き詰まった。できれば、ダーバルド帝国の兵士がドラゴンにちょっかいをかけたことへの反撃だと思われる、との返答を願っていたのだが・・・・・・。先ほどの笑えない仮説が現実味を帯びてきたな。
「そうか。別の質問だが、あの砦に奴隷はいるか? 『魔族』の奴隷だ」
「・・・・・・いる、いや、いた・・・」
「あん?」
「・・・既に亡くなっている」
「・・・それは、ドラゴンの攻撃でか?」
おそらく違うだろうがな。
「・・・違う」
「では、なぜ死んだ?」
「・・・・・・」
「答えろ」
「・・・・・・・・・魔力を失ったからだ。魔道具で、奴隷の魔力を吸い上げた。奴隷は・・・・・・、ほとんどが衰弱して直ぐに死んだ。・・・生きていたのも、少しして全員」
「・・・・・・・・・・・・そうか。その魔道具とは何だ? どうして魔力を吸い上げる?」
「魔道具で吸い上げた魔力を、魔法使いに流す。魔力を流された魔法使いは、強力な魔法を使えるようになる。この砦は、その方法で強力な『土魔法』を使えるようになった魔法使い数名の『土魔法』で、大部分が作られた」
砦の建設が、驚くべき速度で行われたのはそれが理由か。
同胞の命を消費して砦を作った、と。生かしておく価値を微塵も感じないクズ共だな・・・
「・・・・・・質問は以上だ。おい、こいつらを殺せ。もう不要だ」
「はっ」
部下に処理を命じ、再び砦に目を向けた。
砦の方をよく見ると、砦の周りを動く者が複数確認できた。報告にあった、カーラルド王国の騎士か。ドラゴンの群れは、ダーバルド帝国の方向へ飛び去ったようで、姿は見えない。
ドラゴンの群れの襲撃から、1時間余り。連中も先ほどの攻撃は見ているだろう。にも関わらず、標的となった砦に既に侵入している・・・・・・
始末が終わった部下に命じ、再び周囲を調べさせた。
結果、砦の中に入ったのがカーラルド王国の騎士であることは間違いがない。
「つまり、ドラゴンの群れとカーラルド王国は仲間か、少なくとも協力関係にあるわけだ」
言葉を失う部下を無視して続ける。
「俺たちの目的は、砦の中にいる同胞を助けること。・・・・・・今は、同胞の亡骸を故郷へ連れて帰ることだ」
「・・・はい」
辛うじて応じる、部下の1人に向かって続ける。
「てことは、あの砦に入る必要がある」
「ですが、ドラゴンが・・・」
「ああ。だが、ドラゴンとカーラルド王国が仲間だとして、俺たちと敵対しているわけではない」
「それは、そうですが・・・・・・」
「ドラゴンが仲間にいるカーラルド王国から、あの砦を奪うのは不可能。そして、バレずに侵入することも、難しい。となると・・・・・・」
「と?」
「・・・かくなる上は、正面から乗り込むしかないか」
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