第259話:突入

ケイレブとホムラが、周囲に散らばっているドラゴンたちに、今後の行動について伝えてくれた。

最初はケイレブ曰く「最も頑丈な同胞」だという『古代火炎竜族』の1体が、ドラゴンであるとはっきりと視認できる、けれど少し時間がある、そんな距離を飛ぶ。ダーバルド帝国の砦を認識し、どうするか考えているような素振りで。最初は狩りをしていてもいいかもしれない。


作戦に変更があった点としては、ホムラの動きだ。当初ホムラは、ドラゴンたちを指揮するべく待機する予定だったが、私と一緒に潜入班に加わることになった。

理由は単純。ケイレブがかなり張り切っており、ドラゴンの指揮を彼がすることになったからだ。「『古代龍族』に仕えろ」という初代からの言い伝えを達成できるとあって、大喜びな感じだ。対するホムラは、基本的に私と一緒にいる関係で、そこまで暑苦し・・・、過剰な反応はない。特に、ホムラが『人化術』を身に付けてからは、絶えず一緒にいるしね。


そんなわけで、ホムラは私と一緒に。ケイレブが上空でドラゴンたちを指揮することになった。

といっても、砦攻めの際にドラゴンたちの役割は少ない。というか、順調に事を運べば、最初の『古代火炎竜族』1体だけでも十分だった。

彼らの仕事は潜入班にトラブルがあった場合、また砦を落とした後の追撃戦だ。


追撃戦といっても、逃げる敵兵を各個撃破するわけではない。逃走経路を限定し、確実にダーバルド帝国に逃げ帰るように誘導する。その過程で、クラリオル山というか山脈の半分以上を押さえておこうと思っている。もし可能なら、ドラゴンたちに少しの間居座ってもらうのもありかもしれない。


後は、クラリオル山に近いダーバルド帝国の都市や、ダーバルド帝国の王都・・・、ではなく帝都、と呼ぶらしい首都。その帝都の上空をドラゴンに編隊を組ませて飛行してもらうことも考えている。

ただ、これをして、帝都がパニックになったり、狂った帝国の指導層が、逃げ先を求めたり、とち狂ってドラゴンの群れを討伐したり、従えようとする可能性もある。まあ、そんな成功しない作戦に時間と兵力を割いてくれるのであればありがたいが、現実的にはクラリオル山に近い町を威嚇する程度だろうか。



 ♢ ♢ ♢



砦攻め完了後のことは、終わってから考えればいい。とりあえず、今からの作戦を成功させなければ。


夜になってから移動を開始し、侵入予定の砦西側に回った。さすがに私も一緒に歩いて移動することとしたが、今回は砦が近いのもあり『光魔法』で照らすわけにもいかない。

結局、先頭を歩く冒険者出身の騎士が、道の安全性を剣で地面を叩いたり草木を切ったりしながら慎重に進んだ。

私も『魔力感知』をフルに使って、接近する魔獣・魔物がいないか警戒していた。『魔力感知』でもある程度の地形は把握できるのだが、灯りもない闇夜に躊躇いなく進めるかといわれると、まだまだ難しい。

目に魔力を流すことで赤外線カメラのように暗闇でも見えるようになる方法も、まだまだ練習中。少なくとも、自信満々に先頭を進めるような能力ではない。



砦の西側にあった少し窪んだ場所に身を潜める。砦の頂点にある見張り台からは見えないと思うが、少し角度があるためそれも微妙。少なくとも、日が昇れば違和感を感じられる可能性は高い。つまり、日が昇る少し前に行動を開始する必要がある。


中に入るのは、私とホムラ、マーカスにジョナス、そしてランパルドを含めうちの騎士10人。そして王宮騎士団から3人と、王宮魔法師団から4人。いずれもこういった作戦に適していると各団長が判断した精鋭だ。

残りの騎士や魔法士は、私たちの脱出のサポート、連れ出した『異世界人』の保護や拘束した敵の監視等々・・・。臨機応変に対応してもらう必要があり、周辺で待機してもらう。



薄らと明るくなってきたのを感じる。それまでは見えていなかった横の人の顔が、見えつつある。

そしてホムラが、


「夜が明けますわ。あと30分程度で日が昇り始めるかと」


と告げてきた。

完全に日が昇れば、私たちの動きも見えてしまう。


ホムラの報告を確認し、今一度、マーカスが潜入班に告げる。


「最終確認だ。俺たちの目標は、この砦の中にいる可能性のある『異世界人』を捜索し保護すること。敵兵の中で、階級の高い者を数人捕らえることだ。そして作戦全体の目標は、砦を奪うと同時に、カーラルド王国を攻めるのを躊躇うよう恐怖を与えること。つまり、この砦にいる敵兵を皆殺しにすることではない。もちろん、潜入中、必要があれば躊躇わずに、そして静かに殺せ。だが、それ以上に無闇に敵兵を殺す必要はない。作戦の目的を見失うな。いいな」


潜入する騎士や魔法士が頷く。

今更だが、今回の作戦の事実上の指揮官はマーカスなんだ。王宮騎士団長ではなくて・・・


それはさておき、


「それじゃあ、始めよっか」


私の宣言に再び頷き、行動を開始する。



まずはホムラがケイレブに合図を送る。


『古代火炎竜族』の咆哮が響き渡る。

王都の近くでホムラがケイレブたちを呼び寄せた際の、綺麗な、どこか神秘的な声とは違う。強く、太い咆哮。予め彼が咆哮することを知っていなければ、私も震えていたかもしれない。現に、騎士や魔法士の中には顔色を悪くしている者もいる。

・・・・・・あの咆哮には、それなりの魔力が混ざっている気がする。おそらく、無意識。膨大な魔力を体内に保有するドラゴンが、力を込めて咆哮することで、自然と彼らの魔力が混ざるのだと思う。・・・意識して混ぜていたら、もっと強烈だろうし。


咆哮の威力は抜群だった。

砦の壁の上で、周囲を警戒していたダーバルド帝国の兵士たちは、咆哮が響き渡り、そして大きなドラゴンがゆっくりと翼を羽ばたかせながら降下しているのを見て、大混乱に陥った。


様々な怒号が飛び交い、壁の上を右往左往する様子が見て取れる。

何人かの兵士が「投石機の用意を!」や「早く集めろ!」と叫んでいるが、あれが指揮官かな?

こちらの思惑通り、東側で咆哮を上げている彼に集中してくれそうだ。



砦が慌ただしく動き出したのを見て、私たちも動き始める。

まずは、一番近い側、砦の南西方向の頂点に作られた塔へ向かって、壁に足場を『土魔法』で作る。ボルダリング施設なんかにある感じの、小さめの突起をたくさんだ。


さすがは異世界、というか訓練された騎士というべきか。私の作った小さな足場を器用に登っていく騎士。ジョナスだ。

砦にいたダーバルド帝国の兵士たちは、急いで東側に集結しているが、さすがに西側の見張りをゼロにはしなかった。そのため、まずはジョナスが1人で塔に登り、見張りを制圧する。


見たところ、そこにいるのは1人なので、ジョナスであれば問題なく制圧できるだろう。

そう思っていると、塔の手すり直下まで登り、ジョナスが息を潜めていた。


マーカスが見張りの兵士の様子を窺い・・・・・・、見張りが反対を向いた瞬間、合図を出す。そしてマーカスが合図を出したのとほぼ同時、ジョナスが手すりを乗り越え、見張りの兵士を襲った。



塔からジョナスが顔を出し、こちらに向かって手招きをする。

それを確認し、マーカスを先頭に騎士や魔法士が塔を登り突入する。


少しして、今度は塔からマーカスが顔を出した。

それを確認してから、私とホムラは、塔の真下まで走り、垂直に飛び上がって、塔の手すりを乗り越えた。


砦の南西にある頂点に作られた塔の各階を押さえ、突入した騎士たちは塔全体と、塔からそれぞれ砦の北西方向・南東方向の頂点へと続く通路を確保していた。


「コトハ様。塔の制圧は完了です。最上階の見張り1人を殺害。それぞれ通路への入り口を守っていた敵兵2人ずつ、合計4人を拘束しました」

「了解。捕まえた敵兵には、今は逃げられないように。・・・一応聞くけど、下っ端?」

「だと思います。腕はもちろん、身に付けている装備も、先ほど下から見えた、指揮官のような男とは違いますので」

「分かった。じゃあ、そいつらはいいか。もし、指揮官を逃がしたら、そいつらを連れてくけど」

「はっ。それでは予定通りに。拘束した敵兵に、砦の構造を話させてきます」


と言って、塔の下へ向かうマーカス。

私とホムラが周囲を飛んだだけの簡易な偵察で突入を強行しているので、中に入ってからの動きは流動的・・・・・・、というかぶっつけ本番。

「見張りに残る兵がいるだろうから、それを拘束して構造を聞き出す」程度のものだった。結局、塔の上にいた見張りはジョナスが殺したが、これは仕方がない。幸い?なことに、通路にも見張りが残っていたので、情報源は確保できた。


ここで時間がかかると困るので、最低限のノルマはクリアできた感じだろうか。

後は、速やかに口を割ってくれるといいんだけど・・・・・・

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