第257話:長命種の悩み
『古代火炎竜族』と『火炎竜族』、そして『赤竜』の違いについての説明が終わったところで、ケイレブが、
「種族といいますか、我らに近しい種族としてはもう1つ存在いたします」
と、言い出した。
一体何の話か分からず聞いてみると、
「コトハ様は『人化術』について、ホムラからどの様な説明を受けられましたか?」
「『人化術』? ・・・・・・確か、身体の魔素を魔力で操作して、身体を変化させる術って聞いたと思うけど」
「その理解で問題ございません。そして、『人化術』を用いて変化した姿は、人型種、というか『人間』ですね、と同じです。その細部に至るまで」
「細部?」
「はい。端的に申しますと、『人化術』を用いた我々は、『人間』や他の人型種との間に子を設けることができるのです」
「は? ・・・・・・つまり、『人化術』した状態だと、人型種の・・・」
「そういうことです。性別は元のままで固定ですが」
「そこは固定なんだ」
「はい。原理は不明ですが、性別が変わることは無いようです」
「納得できるような、できないような・・・」
「本当です。・・・話を戻しますが、『人化術』を用い、人型種と同様の姿になった状態であれば、人型種の住む町に出向くこともできます。そして一時期、そのようにして人型種の町に遊びに行くのが、『古代火炎竜族』や『火炎竜族』の中でブームになりました」
「ブームって・・・」
「普段は、火山のある大きな島に籠もっておりますので。外に興味を持った、比較的若い竜が町に行ったのが始まりでした。その竜が帰ってきて、町の話をすると、必然」
「みんな町に行った?」
「はい。若い竜を中心に。ちょうど、私の祖父の代でしょうか。1000年ほど前になります」
「お爺さんの代が、1000年前なんだ」
「そうなります。そして、町に行った竜の中には、殊の外、町での生活が気に入った者も」
「新しい場所に、案外馴染んじゃうってのは、不思議な話ではないけど・・・」
未知の世界。町に行った竜たちにとって、人の町はまさに未知の世界だったのだろう。普段彼らがどの様な生活を送っているのか分からないが、町での生活が全く違うのだけは容易に想像できる。
「そうして、町を気に入った者が、戯れに『人間』と交わったり、あるいは心から『人間』を愛し番になったりし始めたのです」
「話の流れから、そんな気はしてたけど・・・。それで、最初にあんな話をね」
「左様にございます。結果として、『人間』を孕ませ、あるいは自身が『人間』の子を孕むことになりました」
「待って!? 確認してなかったけど、竜って卵産むんじゃ? 私も卵に魂が融合したって・・・」
「ええ。ですが、『人化術』を用いている場合、『人間』のように、腹に子を宿すのです」
「生まれてくるのも・・・」
「人型種、です」
「やっぱり・・・・・・。ん? 『人間』との間の子は、『人間』じゃないの?」
「お気づきの点が、この話のポイントです。多くの竜の相手は、『人間』でした。一部、他の人型種もいたようですが。しかし、生まれてきたのは『人間』ではありませんでした。角や翼、尾を持つ人型種。『半竜人(ドラゴニュート)』と呼ばれておりますが、そんな種族です。大きくは、『魔族』に分類されているようですね」
「『半竜人』・・・」
イメージはできる。というか、私がまだ当時の『竜人化』を使いこなせていなかった状態での、変化後の姿のようなものか。もちろん部位の有無に違いはあるが。
そして、『半竜人』は、それがデフォルトになっている、と。
「私みたいの、角や翼を出したり消したりは・・・」
「できません。その結果、竜が多く住み着いていた町では騒動に」
「・・・いきなり、角や翼がある子が生まれたから?」
「はい。詳しくは分かりかねますが、騒動の結果、人と交わった竜、その相手となった人型種、生まれた子を中心とした集団が、町から逃げだし、山奥や森の中、魔獣・魔物が跋扈する地域の近くなどに集落を設けました。一部、元々住んでいた場所、つまり我らの住む火山島に逃げてきた者もおります」
「・・・・・・悲しいけど、そうなるのは容易に想像がつくし、人ってのは姿形が異なることに反応する生き物だからね」
「ええ。騒動を知った祖父らは、逃げた者たちをできる限り保護いたしました。その甲斐あってか、集落で安全に暮らせるようになった者も多く、また一部は大陸の南で国が興る際に、名を連ねたとか」
「南っていうと、ディルディリス王国?」
「おそらく。人口の大半が『魔族』であるという国です」
「『半竜人』は分類的には『魔族』ってことだったし、『魔族』には角やら尻尾やらある種がいるって聞くもんね。角がある子には出会ったことあるし」
「はい」
人と恋に落ちた竜やその家族、生まれてきた『半竜人』にとって、人の町は住みづらい場所だった。もちろん、彼らに落ち度があるのではない。しかし、大きな見た目の違いは、人々に「差」を感じさせる。
その点、元々「差」の存在が前提となる『魔族』の国に身を寄せることができたのは、彼らにとっては考えられる中でも幸運な結果だったのだろう。
「ディルディリス王国には、今も『半竜人』が?」
「元々がそれなりの数いましたので。代を重ねていると思われますので、一定数はいるのではないかと。もっとも、竜が人と交わることは、騒動以後は希有な事例となりました。そして、『半竜人』を『半竜人』ならしめているのは、「竜」の血です。『半竜人』同士なら格別、『半竜人』と他の『魔族』や『人間』が交われば、当然血は薄まります。現在の『半竜人』が、どれほど我らに近い存在となっているかは不明です」
「そりゃそうか。逆に、『半竜人』同士で交わりつつ続けていれば・・・」
「初期の『半竜人』に近い存在もいるかと」
納得だ。
『半竜人』が誕生したのが1000年前で、『半竜人』の寿命がどれくらいか分からないが、数代は経ているだろう。そうすると、かなり拡散していることは想像に難くない。
他方で、まだ『半竜人』同士で世代を繋いでいる可能性も十分に残っている。
「すごい興味深い話ではあるんだけど、どうしてその話を?」
私の質問に、ケイレブは向かう先を眺めてから、
「コトハ様は、クライスの大森林を出て、人の町と交流を持たれております。そして今般、国の外に出られることとなった」
「うん。多分、これからもカーラルド王国の人とは関わるし、場合によっては近隣の国とも? それに、落ち着いたら旅とかしてみたいんだよね。ケイレブは知ってると思うけど、私は元々この世界の人じゃない。まあ、どういう理由で『龍族』の卵に融合して、今に至ってるのかは知らないけど、せっかくならいろいろ見て回りたいと思ってるよ」
「それは素晴らしいことかと思います。私は、火山島から出たことは少ないですが、同胞の中には、旅をしている者もおります。その者から聞く話は、大変に興味深いもの多く」
「旅をしている竜もいるんだ」
「基本的に、自由ですので。長い寿命をどのように過ごすか。これは長命種共通の悩みでしょう。長期に渡ってのんびりしている者、旅をしている者、ひたすら戦いに明け暮れる者など。そういった日々の過ごし方の1つが、人の町へ行くことだったのでしょう」
「なるほどね」
「はい。そして、コトハ様が国との繋がりを維持し、また旅をなさるのであれば、いずれ『半竜人』と出会うこともあるでしょう。ですので」
「先に伝えた?」
「はい。知っておいていただきたかったのです。また、以前お伝えいたしましたように、『古代龍族』の眷属は、我らの祖だけではございません」
「『古代水竜族』とか『古代風竜族』とかだっけ?」
「はい。交流は無いのですが、同じような状況に至っている可能性は考えられるかと」
「・・・町に行って、ってこと?」
「はい。あるいは、全く別の結論に至っている可能性も。ですので、コトハ様が『半竜人』と出会う可能性は・・・」
「結構ありそうだよね。というか、元の竜が違えば、その子孫の『半竜人』も別の種族になるの?」
「出会ったことが無いのでなんとも。全く同じではないと思いますが・・・」
「それも、出会った時のお楽しみだね」
これから先、どうなるかは全く分からない。
私がいつまでカーラルド王国で貴族を続けているのかも、旅に出るかも。けれど、他の古代竜には会ってみたいし、『半竜人』や他の種族にも会ってみたい。
やっぱり、落ち着いたらカイトか、レーノに投げて旅に出ようかなー・・・
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