第255話:出陣
翌朝、王城の敷地の一角に昨日改造した馬車が並べられていた。
馬車は全部で10台。王宮騎士団、王宮魔法師団、そしてクルセイル大公領騎士団の選抜メンバーが乗り込んでいる。
騎士や国民の士気を上げるためにも、出陣の際には国王や責任者が演説を行い、町の中央をパレードしながら戦いに向かうことが多い。しかし今回の作戦は、それほど大々的なものではない。・・・・・・いや、ドラゴン100体で攻撃するのだから大々的なんだけど、それはほとんどの人には知られることがない。
というわけで、軍務卿となるダンさんが出撃命令、そして国王ハールさんからこの作戦に関する指揮権を私に与えるとの命令書を代読し、私たちは出陣した。
・・・いや、馬車は王城を出発した。
私とホムラは、そんな馬車を見送る。
「さて、ホムラ。私たちも行こうか。先に行って、準備しないとだしね」
「はい、コトハ様」
そう言葉を交わし、準備する。
「コトハお姉ちゃん、気を付けて!」
「頑張ってー!」
カイトとポーラの見送りに応じ、
「よろしくお願いします。そして、ご無事で」
と、ダンさんにも見送られてから、
「ホムラ、行くよ!」
「はい!」
私とホムラは、それぞれ翼を出し、大空へと舞い上がった。
♢ ♢ ♢
『人化術』の習得により、本来のドラゴンの姿から人の姿へと身体を変化させることができるようになったホムラ。『人化術』は、単にドラゴンと人との間でそれぞれ姿を変えるだけではなくて、部位ごとに変化させられる。要するに、私の『龍人化』した姿と似たような姿になることができるのだ。
そんな私とホムラの違いは1つ。完全な竜形態になれるかどうか、のみ。私は竜形態・・・、龍形態?になることはできないが、ホムラは当然なることができる。というか、それが元だ。ゲームとかのボスキャラで、身体が変化するというのはありきたりだが、普通は完全に変化できる方が強いし立場が上。
そう考えると、完全変化できない私が、変化できるホムラの主ってのも不思議なもんだ。
いや、もしかしたら、いつか私も完全に変化できるようになる、とか・・・・・・?
まあ、今は考えても仕方ない。いつも通り、その時が来たら考えることにしよう。
そんなことを考えていると、集合予定の場所に到着した。
目印として、少数の騎士が陣を張っているのが見える。
そこに近づき、
「おーい! 王宮騎士団の人たちだよねー!?」
と、問いかける。
空から声が聞こえることにギョッとしていた騎士たちだったが、私の姿を見て、
「クルセイル大公殿下とお見受けいたします! 集合地点はこちらです!」
と、案内してくれた。適応が早いな・・・
着陸し、こちらを呼んでくれた騎士と挨拶を交わす。
「王宮騎士団第1大隊第2中隊隊長ラーダと申します」
「ご苦労様。クルセイル大公のコトハよ。早速だけど、準備はできてる?」
「はっ! 昨晩から、周辺一帯を封鎖しております。大きな街道からは離れておりますが、周辺の町や村から王都へ観光に向かう者、周辺で依頼をこなす冒険者は散発的に見られますので、騎士が同行して退避させております」
「そう、分かったわ。もうすぐ馬車がくると思うけど、引き続きお願いね」
「はっ」
「それと、今から応援を呼ぶから。着陸するのは一部だけど、驚かないようにね」
と、伝える。
ラーダには作戦の概要を伝えてあるはずだが、準備していても驚くと思うので、もったいぶる必要もないか。
「それじゃあ、ホムラ。お願い」
「承知いたしましたわ、コトハ様」
そう微笑むホムラ。
一歩前に踏みだし、そして、
《キュォォォォォォォォォォォォォォォォォォ》
頭から2本の真っ赤な角が伸び、綺麗な歌声にも、叫び声にも聞こえる音を発するホムラ。いや、直接脳内に響いてくるこの感じ。もしかしたら、実際には音が出ていないのかもしれない。
ホムラの声にはかなりの魔力が込められており、近くにいる私にはもちろんそれが感じられ、それなりに離れているラーダたちは震えているように見える。
ますますホムラの謎が深まったのと同時、強力な魔力の反応を複数感じた。
四方八方、360度全ての方向から、ここを目指して迫ってくる反応。
やがて、それは視認できるようになった。
それぞれが15メートル程度かそれ以上はあるであろうか、大きな身体。どれも赤く、美しい。
大きな翼をはためかせ、私たちを中心に、空中をグルグルと回りながら、ゆっくりと近づいてくる。
ラーダ以下、ここにいた騎士たちは驚きのあまり固まっている。パニックになって逃げ出さないあたりさすが騎士か・・・、いや、事前に聞かされていたから辛うじて?
そのうち、2体の一際大きな、そして綺麗なドラゴンがこちらに近づき、高度を下げ始めた。
ドラゴンの個体識別なんて、できるわけない。そう思っていたのだが、迫り来る2体のドラゴンを見て、誰か分かった。・・・・・・これは、状況からの推認だから、個体識別では無いか。
私たちの直ぐ近くまで降下し、そして人化する2体のドラゴン。
『人化術』を完了し地に降り立ったのは、
「ケイレブ。それに弟さんも」
『古代火炎竜族』の現族長にして、ホムラの父。そしてケイレブの弟の2人だった。
♢ ♢ ♢
「お久しゅうございます、コトハ様」
「久しぶりだね」
「お久しぶりでございます、父上」
早速挨拶を交わすと、やはり2人の視線は『人化術』を獲得したホムラに向く。
「ホムラ。思っていたよりも、大分早く『人化術』を習得したのだな」
と、ケイレブが嬉しそうに呟く。
「はい、父上。コトハ様の魔力を日々浴びておりますし、それにコトハ様やカイト様、ポーラ様がお使いになる、『龍人化』と『人龍化』は、『人化術』に通ずるところがございましたの」
「・・・ふむ。それは興味深い」
「兄上。ホムラが『人化術』を身に付けたのは喜ばしいですが、我らにはコトハ様より与えられた仕事が」
ホムラの説明に興味を示すケイレブだが、ケイレブの弟さんがそれを中断させる。
「おお、そうだな。コトハ様、失礼いたしました」
「ううん。ホムラが『人化術』を身に付けたのは私も嬉しかったし。・・・さて、ホムラからはどれくらい聞いてる?」
「コトハ様のお仕事の手伝いを、と。我々だけでなく、配下も連れてくるようにと聞いております」
「そっか。それじゃあ、説明するね」
一通り作戦の内容と、ケイレブたちに頼みたいことを説明した。ホムラは「どんな仕事でも」と言ってくれていたが、普通に考えれば『古代火炎竜族』に頼むのはどうなんだろう、という内容だ。
だがそんな心配を余所に、
「畏まりました。では、コトハ様の合図までは、我らは距離を取って待機しております。その後の行動についても承知いたしました」
と、すんなり受けてくれた。
「ありがと。それから、敵兵は基本的に逃がしてね」
「はい。国に逃げ帰らせることで、恐怖を与える」
「うん。まあ、砦には少なくとも数十人は詰めてるだろうから、少しはいいけどね。恐怖を与える面でも。それと、砦自体はぶっ壊さないように。再利用するらしいから」
「畏まりました。・・・・・・我らは、大雑把な攻撃を行う者が多いですので、注意徹底いたします」
「まあ、少しはいいんだけどね。・・・・・・それと、さ。ホムラにも聞いて断られたんだけど、何か欲しいものとか、してほしいこととかない? お礼をさ・・・」
「コトハ様。我ら『古代火炎竜族』、そしてその配下たる『火炎竜族』や『赤竜』は、皆等しくコトハ様の忠実な僕にございます。コトハ様が我らに仕事を命じてくださることこそが、我らにとっての褒美であり喜びなのです。どうか、お気になさらず」
「うーん、それは嬉しいんだけど・・・」
ホムラにも同じように断られたが、私が呼びつけることで結構な距離を飛んできて、こちらの作戦に参加してもらう。ハールさんたちに許可を貰った狩りは別にして、私としても何かお礼をしたいところなのだが・・・
そんな私の思いが通じたのか、気を遣わせてしまったのか、
「・・・ふふっ。コトハ様の思いを、拒み続けるのも、また不義でしょうか。でしたら、1つお願いしたき義がございます」
ろ、ケイレブが言い出した。
「おおっ。なになに!?」
「後ほど、今回参加する者が集いし時に、一度コトハ様の『気』をお見せいただきたく」
「『気』?」
「はい。我ら3人を含め『古代火炎竜族』は以前コトハ様の『気』を感じることができました。ですが、『火炎竜族』や『赤竜』には、離れた場所からコトハ様の『気』を感じることはできません。つきましては、一度コトハ様の『気』を感じさせてやってほしいのです。我らの主たるコトハ様の威厳と力の一端を」
「威厳って・・・。別にそれは構わないけど・・・、それがお礼になるの?」
「はい。以前申しましたように、我らの悲願は『龍族』の末裔たる御方へお仕えすること。それは彼らも同じです。コトハ様が『龍族』の末裔であることを示していただければ、彼らにとっては至上の喜びとなるでしょう」
「そ、そう。もちろん、構わないよ。そしたら、後で」
「はい。心より御礼申し上げます」
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