第251話:優秀な冒険者
騎士団長と魔法師団長、マーカスとジョナスを中心に行われた作戦会議は、思ったよりも早く終わった。
「コトハ様」
「まとまった?」
「・・・まとまった、のはまとまったのですが、いくつか問題が」
「問題?」
「はい。まずは、許可をいただきたいことが。この作戦に冒険者を雇いたいと思います。中堅どころを数名、あるいは優秀な高ランクを1、2名」
「それは構わないけど・・・、ちなみに理由は?」
「はい。自分やジョナス、後はランパルドにも経験がありますが、盗賊のアジトを探して潜入し内情調査する、人質を保護する、ゴブリンやオークの巣に入って捕まっている人を助けるといった任務は、冒険者にとって馴染み深いものです。もちろんかなり難易度の高い任務であり、ブロンズランクの上位、シルバーランク以上の冒険者が担当することが多いですが。騎士団や魔法師団ではそういった経験が少なく、得意な諜報部は手一杯。そのため・・・」
「得意な者を雇うってわけね。いいと思うけど、当てはあるの?」
「はい。まず、うちの騎士団には冒険者出身が多いです。当然、経験者もおります。後は冒険者ギルドで探すことも考えられますが・・・・・・、1人推薦したい者が」
「推薦? そりゃあ、作戦の性質考えたら、ギルドに依頼しない方がいいけど・・・」
「はい。推薦したいのは、ライゼル殿になります」
ああ、なるほど。
いろいろありすぎて忘れ・・・、記憶の片隅に追いやられていたが、マーカスにライゼルさんの調査を命じてたっけ?
「ごめん、今ライゼルさんは?」
「治療を終えて、王城にある近衛騎士団の詰め所の一室に滞在しています。どうやらダン王子殿下が手を回してくださったようで。一応監視付きとなっていますが、訓練場で身体を動かしています。自分が何度か話を」
「ふーん。それで、ライゼルさんがゾンダルに従ってたのは?」
「はい。結論から申せば、彼がゾンダルに従っていたのは、借金のカタにされていたためのようです。可愛がっていた若手の冒険者がゾンダル子爵と関係の深い商会に嵌められ、多額の借金を背負う形になったようで。その借金をライゼル殿が立て替え、足りない分は自ら働くことでチャラにしたと」
「・・・絶対、罠でしょ」
「おそらく。レーノとグランフラクト伯爵には事情を伝え、ゾンダルの屋敷の捜索の際にその証拠となるものがないか調べてもらっておりますが、聞くかぎりは罠でしょう」
「そっか。・・・となると、ゾンダル子爵が事実上滅んだ今、彼は自由?」
「ゾンダルとの契約の詳細、嵌めたという商会についての調査が済むまではハッキリとは言えませんが、事実上自由の身になったといえるかと」
「そっか。本人の希望は?」
「冒険者に復帰したいそうです。ですが、完全に自由になるまでは指示に従うと」
「うーん、これに加わるように指示するの?」
「それもありかとは思いますが、普通に依頼として出しても受けてもらえると思います。結果として、コトハ様に救われたわけですので」
「分かった。とりあえず、後で会ってみようか。そもそも身体の調子もあるだろうし。恨まれてはないと思うけど、無理強いするのも違うから」
「はっ」
まあ、ライゼルさんについては頼めたらラッキーって感じかな。
本当は雇いたいって思ってたんだけど、彼は冒険者に戻りたいらしいしね。役職に就かされる煩わしさは、まさに私が体験していることだし。
「それで、他に問題は?」
「はい。砦への侵入方法についてです。現在ある情報だけでは、あまり良い策が・・・。特に敵にバレずに侵入となると」
「うーん。『土魔法』で階段作って、とか?」
「・・・・・・コトハ様。砦を上れるほどの階段、そう簡単には作れませぬ」
「だったら・・・・・・、私が作ろうか、階段。別に階段じゃなくても、侵入経路」
「そ、それは・・・。ですが、コトハ様はホムラ殿と一緒に砦攻めに参加されるのかと・・・」
「そのつもりだったんだけどさ。よく考えたら、ホムラたちの攻撃に私要らないでしょ。そもそも過剰戦力なんだし、私1人加わったところで変わらないんだよね。攻撃に関しては、ホムラたちにはおよそ及ばないし。逆に、マーカスたちの作戦になら、役立つでしょ?」
「は、はぁ。コトハ様のことを『役立つ』と言うことはできませんが・・・、コトハ様が一緒に来てくだされば、作戦の成功確率が上がるのは事実かと」
「分かった。じゃあ、私はそっちに。うちの騎士団で冒険者の経験がある者を中心に砦に潜入して、『異世界人』や敵の指揮官を確保。砦の外に待機している騎士団や魔法師団が彼らを保護しながら退避って感じかな」
「仰るとおりです」
うん、いけそうだ。
ただ、結局は私たちの負担がかなり大きいんだけど、まあ、いいか。『異世界人』を「助けたい」ってのは、私の我が儘でもあるわけだし。王国的には殺しても構わないんだもんね。
「ホムラ、そっちは任せるね?」
「お任せを。確認ですが、先にコトハ様やマーカス殿の作戦を行い、それが済み次第我々が攻撃を開始するということでよろしいでしょうか?」
「それでいいよね?」
「はい。ですが、こちらの作戦にトラブルが生じた場合は、ホムラ殿たちの攻撃によって攪乱していただくことで、脱出の機会を探る必要がある場合はあるかと。その場合には、こちらの作戦終了を待たずに攻撃を開始していただきたいのですが」
「コトハ様」
「うん。そしたら、その時は私が上空に向かって・・・、『龍魔法』でも打ち上げるよ。砦から見えない場所で待機していたとしても、感知できるでしょ?」
「はい。コトハ様の魔法であれば、どこにいようとも」
いや・・・・・・、マジで?
まあ、いいか。
「よし、それじゃあそういう方針で。『龍魔法』でも打ち上げたときは、私たちのいない場所を狙うようにしてね。マーカス、騎士団長に魔法師団長。準備を開始して。私はとりあえず、ライゼルさんに会ってくるよ。ジョナス、場所分かる?」
「「「「はっ」」」」
♢ ♢ ♢
私はホムラとジョナスを伴って、近衛騎士団の詰め所に来ていた。
昨日も取り調べや証拠の整理のために来ていたので場所は覚えていたし、そもそも私は常に2人の近衛騎士に護衛されているので、案内してもらえる。
道中、私のことを知ってか知らずか、それなりの視線を感じたのだが、それ以上にホムラが注目を集めていたのは、何というか、当然か・・・
詰め所に着くと、昨日お世話になったグランフラクト伯爵ことウェインさんが指示を飛ばしている最中だった。
そして、牢に入りきらなかったのか、手枷をはめられ、または足に鎖を繋がれた状態で部屋の隅や訓練場にいる人が結構な人数いた。
「ウェインさん、今時間ある?」
忙しそうにしているウェインさんに声を掛けるのは申し訳なかったが、ライゼルさんは一応彼の管理下に置かれているのだから、話を通す必要がある。
「これは、クルセイル大公殿下。いかがなさいましたかな?」
忙しそうな手を止めて、こちらを向いてくれるウェインさん。
「忙しそうなところごめんね。ライゼルさんってどこにいる?」
「・・・ライゼルというと、謁見時の冒険者ですか。この建物の3階、一番奥にある部屋にいるはずです。何か御用が?」
「うん。今朝の会議で砦対策引き受けたでしょ? できたら彼にも協力してもらいたいなって。今の彼の立場ってどんな感じ? 連れてってもいい?」
「はい。ゾンダルの部下として処罰されることはないかと。本人曰く、他の冒険者の借金を肩代わりした結果だとか。国王陛下も謁見の間での一件は気になさらないとのことですし。後はクルセイル大公殿下が処罰を望まれないのでしたら」
「望まないよ。それに、あんな優秀な人を罰するとか、もったいないでしょ。マーカスに聞いたけど、嵌められた冒険者の身代わりになったってことだし」
「はい。現在証拠を集めている最中ですが・・・」
「忙しそうだよね。私のせいで」
「いえ。クルセイル大公殿下のご提言は至極真っ当なものですから。近衛騎士団も王命を受けて、全力で貴族の捜査にあたっております。ですので、お気になさいませんよう。既に黒い噂が絶えなかった貴族2つと商会1つに捜査に入り、かなりの人数を拘束しております。ですが、ライゼル殿の件に手が回っていないのも事実でして・・・」
「それがこの人たちか・・・。それじゃあ、ライゼルさんを連れて行くのは難しい? 一応、容疑者?なわけでしょ」
「まあ。・・・・・・そうですね、クルセイル大公殿下が身元引受人になってくださるのでしたら」
「身元引受人?」
「はい。ライゼル殿を外に出したとして、確実にここに連れ戻る、ということです。今回でいえば、クルセイル大公殿下の作戦終了後、一緒にここへ戻っていただければ」
「なるほど。もし逃げようとしたら、力尽くで連れて来いってことね」
「方法はともかく、そうなります。ただ、彼と話している感じ、逃げることはないでしょう。ですので、名目上は、ということになります」
「そうだね。分かった。とりあえず、ライゼルさんと話してみて、引き受けてくれそうなら、身元引受人になって、連れて行くよ」
「承知しました。ではそのように」
とりあえず、ライゼルさんが協力してくれるかどうか。
彼と話をして、聞いてみる必要がある。ウェインさんが言うように、彼が逃げることは無いと思うけど、参加を強いる気も無いしね。
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