第250話:本当の目的

マーカスとジョナス、ホムラを伴い、とある会議室に向かった。


「失礼しまーす」


そう呟きながら部屋に入ると、2人のおじさん・・・・・・、ではなく思ってたよりも若い美丈夫が2人。それぞれ数名の騎士と魔法使いっぽいローブを着た男性が待っていた。というか、魔法師団の人って、ローブを羽織っているけどその下には鎧みたいなのを着込んでいるし、帯剣もしてるのね。


私を見ると一斉に起立し、跪く皆さん。

代表して、おそらく騎士団長と思しき男性が、


「クルセイル大公殿下。お待ちしておりました。王宮騎士団騎士団長の任に就いております、ロベルト・フォン・チャールドと申します。子爵位を賜っております」


と、自己紹介してくれた。

続けて、


「王宮魔法師団魔法師団長、ドウェイン・フォン・パーウェルドと申します。同じく、子爵位を賜っております」


と、魔法師団長も自己紹介してくれた。


「ああ、初めまして。コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイルです。よろしくね」

「「はっ」」



私も椅子に座り、跪いていた騎士や魔法師団員にも元の位置に戻ってもらい、話を始める。


「それにしても、私のせいで、騎士団も魔法師団も、調査に人をやってるんだと思ってたけど・・・」


と、疑問を投げかけると、


「はい。騎士団も魔法師団も、多くの人員を割いております。けれど、ダーバルド帝国対策も重要。各団長含め、精鋭を残しております。クルセイル大公殿下の策に、全面的に協力させていただきますので、何なりとお申し付けください」


とのこと。

その前に気になったのだが、


「あのさ、1つ聞いていい?」

「はい」

「失礼なことを聞くようだけどさ、騎士団長も魔法師団長も、子爵なの? 勝手に、もっと爵位が高いもんだと思ってたんだけど・・・」

「ああ、そのことですか。気になりますよね」


と、騎士団長のチャールド子爵が微笑みながら応じ、次にパーウェルド子爵が、


「ご説明させていただきます。騎士団長も魔法師団長も貴族の爵位とは別の、独立した地位と権威、そして権力を有しております。そのため、騎士団長や魔法師団長に就任する者が、高位貴族であることは伝統的に憚られるのです。高位貴族が騎士団長や魔法師団長の地位や権力まで有することになると、権力が集中し危険ですので。そのため、子爵位である我ら2人が」

「騎士団長や魔法師団長になった、と?」

「はい。元々は、カーラ侯爵家の騎士団、魔法師団で部隊を指揮しておりましたが、陛下のご指示により」

「ああ、なるほど。ウェインさんみたいな感じか」

「左様にございます」


それなら納得だ。

騎士団長や魔法師団長といった重要な役職に就いている人が、子爵なのが疑問だったけど、権力の集中を避けるためなのね。


もっとも、


「ですが、騎士団長や魔法師団長は軍事に関しては、侯爵と同等かそれ以上の発言力を有しておりますので、此度の作戦を含め、軍事行動において支障はございません。どうか、ご心配なく」


とのこと。

まあ、その辺のバランス調整は私が口を出すところではないので気にしないでおこう。

チャールド子爵もパーウェルド子爵も、いや騎士団長も魔法師団長も、いい人そうだしね。


「分かった、教えてくれてありがとう。そしたら早速、作戦会議を始めたいんだけど」

「「はっ」」


そっか、侯爵と同等かそれ以上でも、大公よりは下なのか。

大公は例外としても、国王や公爵の下であって、国の方針とかに口出しはできないってわけね。本当に面倒くさい。



 ♢ ♢ ♢



気を取り直して、


「それじゃあ、今んところ考えてる作戦を説明するね」

「「はい」」

「今回の砦攻め。基本的にはホムラと『古代火炎竜族』、その配下の『火炎竜(ファイヤードラゴン)』や『赤竜(レッドドラゴン)』が担当することになる。その数は100体以上。ホムラが呼んだら、数時間で来てくれるから・・・」

「『火炎竜』・・・」

「『赤竜』・・・」

「しかも、100体、ですと?」

「我々、必要でしょうか・・・」


呆然とする2人。後ろの騎士や魔法師団員も言葉を失っているみたい。

けれど、


「ううん。必要だよ。むしろ、あなたたちと、うちの騎士団がこの作戦のメインなんだよね」

「それは・・・」

「どういう・・・」


驚く2人に説明を続ける。


「確かに、ホムラたちがいたら砦の攻略なんて訳無いと思う。ううん、ホムラ1人でも、簡単に制圧できると思う。でもね、今回の目的は、砦の制圧じゃないの」

「制圧ではないのですか? 調査の最中、ダーバルド帝国への対策をクルセイル大公殿下が担うと伺っておりましたが・・・」

「うん、それはその通りだよ。でも、仮に砦を潰しても、ダーバルド帝国のことだし、また攻めてくるでしょ? 一度は上手くいった砦の建設を繰り返すかもしれないし、森を抜けてちょっかいをかけてくるかもしれない。それを防ぎたいんだよね」

「それは、理解いたしますが・・・」

「そのための作戦だよ」

「はぁ・・・」

「つまりね、砦は制圧する。でも、本当の目的は、ダーバルド帝国に恐怖を与えること。カーラルド王国には得体の知れない何かがいる、攻めるのは愚策だってね」

「・・・・・・そのために、ホムラ殿だけではなく」

「多くのドラゴンを?」

「うん。『古代火炎竜族』含め、100体以上のドラゴンに襲撃されたとなれば、その背景やカーラルド王国との関係を調査するまでは、下手な行動はできないでしょ? 何なら、ダーバルド帝国の王都周辺を飛び回ってもいいかも。とにかく、建国式典まで、いや国が落ち着くまでは、ダーバルド帝国に煩わしい思いをさせられないように、恐怖を与えるの」

「「なるほど」」


これが今回の作戦の主目的だ。

砦がドラゴンの群れに襲われたとなれば、普通はその背景事情やドラゴンの群れの行方を調査する。再び砦を設けようにも、再びドラゴンに襲われる可能性があるとしたら躊躇するだろう。

それに、カーラルド王国がドラゴンと関係があるのだとしたら、普通ならそんなカーラルド王国に手を出そうとは思わないはず。ドラゴンたちとカーラルド王国との関係をどこまで仄めかすかは、後でハールさんたちに聞いてみる必要があるけど、「山にドラゴンが出て、砦が攻撃された」ってだけで、相当なインパクトなのは間違いない。


単に砦を潰すのは簡単だが、それを繰り返すのは面倒だ。

だからこそ、この国を攻めようとする野心自体を攻撃しようと思ったのだ。



「それでね、砦の制圧や示威行為はホムラたちが担当する。でも、その前に砦の中を調べる必要がある」

「・・・・・・『異世界人』ですか」

「うん。みんなの常識外のスピードで砦が作られたのには、ダーバルド帝国が召喚した人たちが関与している可能性が高い。ダーバルド帝国にとってはただの戦力かもしれないけど、その人たちは元いた場所から無理矢理連れて来られた被害者。助ける必要があると思ってる。まあ、軍事的にいっても、戦力を削げるしね。それを」

「我々が担う、と」

「うん。私にはそんなノウハウ無いし、ホムラたちにも無理。騎士団や魔法師団に任せようと思う。うちのマーカス以下、騎士団も一緒にね」

「なるほど・・・」

「後は、ダーバルド帝国の軍人を少しは捕らえたいかな。召喚についてもそうだし、ジャームル王国の都市を襲ったときに現れたっていう異形の存在についても知りたいし。情報源として何人かは捕らえたいね」

「仰る通りかと。昨今のダーバルド帝国は、動きが活発です。諜報部もダーバルド帝国内での諜報活動には苦労しておるようですし、砦に詰める指揮官クラスのダーバルド帝国兵を捕らえるのは有用かと」

「うん。砦にいる兵士の大部分は逃がす。『ドラゴンに襲撃された』って、国に伝えてもらう必要があるし。ホムラたちが攻撃を始めたら、混乱で『異世界人』を探すことも敵の指揮官クラスの人間を拘束することも難しくなる。だからその前に、砦に潜入して、『異世界人』を保護して、使えそうな情報源を捕らえてほしい。それが、騎士団と魔法師団にやってもらいたい仕事かな」


私の説明を聞き終え、


「お任せください、大公殿下。王宮騎士団はその任を全力で」

「魔法師団。その任を、承りてございます」

「うん、よろしくね。それで、時間も勿体ないし、直ぐにでも行動を開始したいんだけど」

「「はっ」」


後は、騎士団長も魔法師団長とその部下の人たち、うちのマーカスとジョナスに、砦に潜入したり対象者を捕らえたりする方法を考えてもらおう。情報としては、砦を発見したというクラリオル山の麓にあるカーラルド王国の砦からの報告があり、簡単な砦の構造や中にいる敵兵の数、見張りの配置が分かっているらしい。

立案は、門外漢の私が口を出すよりも、彼らに任せる方がいいだろう。もちろん、できることはするつもりだけど。必要なら砦に一緒に入ってもいいし。


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