第249話:自分の仕事

会議は一旦、お開きとなった。

急ぎ、アーマスさん配下の諜報部と、ダンさん配下の王宮騎士団・王宮魔法師団が協力して、全ての貴族の調査を行うことになる。


ある貴族にこんな噂がある、あの貴族の金回りが不自然、あそこの貴族の屋敷の使用人は怪我をしていることが多い、等々・・・

思っていたとおり、他の貴族の良からぬ噂の類いは、山ほどあるみたい。それを参考に、貴族を3つに分類する。

ここにいる貴族、それと同程度に綺麗であると思われる、つまり黒い噂をまるで聞かない貴族。

噂はあるが、信憑性に欠ける、またはそれが少ない貴族。

そして、ほぼ間違いなく何か問題がある貴族。


最初の貴族については、一先ずは保留となる。

そもそも、完全に白であると証明することなど不可能なわけだ。

是非はともかく、ハールさん含めここにいる貴族たちは、建国式典までに一通りの調査を済ませることを目指している。叙爵前に処理する方が、混乱が少ないのは間違いないので、異を唱える気はない。

そうすると、端緒が無い貴族の調査は、白として扱わざるを得ない。まあ、そんな貴族はここにいるのを除くと僅からしいが。


噂が少ない貴族、情報が少ない貴族については、それを調査し、白黒ハッキリさせる。噂の真偽がハッキリすれば、それを元に処分を検討する。ただ、アーマスさん曰く、この分類の貴族まで大規模に処理すれば、貴族が足りなくなるとのこと。噂の内容も、精々がいくらか税を誤魔化していたり、賄賂を使ったりしている程度なので、それを糾弾した上で、爵位の調整程度に留めることになりそうだ。


そして最後の分類。これはもう、確認でき次第、処分する。なんでこいつらを放置していたのか理解できないが、証拠が足りなかったり、しがらみがあったりしたのであろう。

その点は、今更どうしようもないし、責めても意味がないので、きちんと処理することだけ頼んでおく。


この調査は、王命によって行われる最重要機密事項となり、この場にいた貴族やその従者が漏らした場合は、一族郎党処刑すると宣言された。

そして、集まった貴族たちが慌ただしく準備を開始した。


後は彼らの仕事だ。貴族の事情はよく分からないし、手を出さないのが吉だろう。少なくとも彼らは、ようやくだが本気でゴミ掃除に取り掛かろうとしているのだから、信じてみようと思う。

裏切られたときは、まあ、その時だ。



 ♢ ♢ ♢



会議室を出た私は、一度部屋に戻っていた。

部屋ではカイトとポーラ、マーカスとレーノが待っていた。


「おかえり、コトハお姉ちゃん」

「うん、ただいま」


私を出迎えながら、その視線は私の後ろにいるホムラに向けられている。

そういえば、紹介してなかったっけ? 今朝、マーカスとレーノには言った気がするけど、まあ改めて。


「ふふっ。気になるよね。彼女は、ホムラだよ」

「「・・・えっ!?」」

「カイト様、ポーラ様。ホムラにございます。驚かせてしまいましたか?」


妖艶に笑うホムラに、言葉を失うカイトにポーラ。マーカスとレーノは正体自体は知っていたため、2人ほど驚いてはいないようだが、やはり戸惑ってはいるようだ。


「さて、と。ホムラの紹介も済んだし、話したことあるんだよね」



それから私は、御前会議で話した内容を全て伝えた。

機密だなんだはあるが、この4人なら問題ないし、どうしても話す必要があった。


「・・・ってのが、さっきまで話してた内容かな。ハールさんたちの掃除がどれくらい上手くいくかは分からない。けど、本気で取り組まないのなら、私は大公位なんて返上して手を引く。ごめんね、カイト、ポーラ」

「コトハお姉ちゃん・・・」

「「コトハ様・・・」」


暫しの沈黙の後、


「でもね、さっきの様子を見てると、そうはならないと思う。その理由が私への恐怖ってのは釈然としないけど、私が国から離れて動くのは困るみたいだしね。だから、一先ずは信じようと思う。カイトとポーラから友だちを奪いたいわけでもないし、私を慕って引っ越してくれた領のみんなを見捨てたいわけでもない。ただ、これまでよりも遠慮せず、自由にやるってだけ」


その決断を伝え、一呼吸置いてから、


「マーカス、レーノ。2人の常識とは違う行動が増えると思うし、2人が教えてくれる貴族の行動とは違う行動を選択することが増えると思う。だから、私のとこにいるのが嫌になったら・・・」


と、言いかけたところで、


「コトハ様! 滅多なことを仰らないでください」


マーカスが声を出し、


「コトハ様。コトハ様のお考えが、私が伝える貴族や社会の常識とは離れていることは理解しております。そしてこの度、それを超えることを決意なされた。・・・以後は、私は不要でしょうか」


と、聞いてくるレーノ。


「ううん。不要なわけないでしょ。これまでに多くの事を教えてもらったけど、まだまだ知らないことは多い。確かに、貴族やこの世界の常識にとらわれるのは止めるつもりだし、必要だと思えば動くことにする。けど、いたずらに波風立てたいわけじゃないし、敵を作りたいわけでもない。だからこれまで通り、いろいろ教えてくれると助かるかな。それに、領主なのはそのままだし」

「コトハ様・・・」

「マーカスも、できることならこのまま一緒にいてほしい」

「無論です」

「2人とも、これからも私を、領を支えてくれる?」

「「はっ!!」」


改めて跪く2人を立たせて、握手を交わした。

やはり、2人がいると心強い。もちろん、他の騎士たちや文官たち、領民もだ。



 ♢ ♢ ♢



「よし、そしたら改めて。私たちは、ハールさんが国の掃除をしている間、ダーバルド帝国から国を守ることを請け負った。ホムラ。ケイレブに連絡できる? 砦を攻め落とすのは、ホムラたちに手伝ってもらう予定なんだけど」

「はい、コトハ様。今すぐ、呼びましょうか?」

「ううん。呼んでから数時間でこれるんでしょ? 用意もあるし、もう少し待って」

「仰せのままに」


とりあえず、主戦力はホムラたち『古代火炎竜族』やその配下のドラゴンたちだ。

そして、


「マーカスたちにも頼みがあるの」

「はっ」

「砦を潰すのは決まってるんだけど、その中にね、その・・・、結葉さんたちのように、召喚された人がいるかもしれないの」

「・・・・・・昨日の話ですと、コトハ様のように、建設に魔法が使われたかもしれない、と。それですな」

「うん。自惚れるわけじゃないけど、うちの砦レベルの土壁を作るのって、大変でしょ? それを、やったとなると」

「・・・召喚された、いわゆる『異世界人』を導入した可能性が高い、と」

「うん。その人たちが、心から協力しているのなら、何も言えない。・・・違うな、敵と見なすしかない。けど、無理矢理従わされてるのなら、助けてあげたい」

「左様ですな。あえて言うのなら、助けることは、ダーバルド帝国の戦力低下にもなります」

「うん。だから、砦を攻め落とす前に、砦の中に、召喚された人がいないか、調べたいの。ホムラたちが砦を攻撃するときは、とにかく派手に、相手に絶望を与える方法でやろうと思ってるから、その前にね」

「・・・攻める前に、潜入する、と」

「うん。危険だけど・・・」

「ははっ。お任せください」

「ありがとう。後で王宮騎士団の騎士団長、王宮魔法師団の魔法師団長と相談する予定だから、その時に。私が焚き付けたのもあって、王宮騎士団や王宮魔法師団からも貴族の調査に人員が割かれることになって、人手不足のはずだから。砦の調査にはマーカスたちも参加してもらう。早ければ今夜にも出発すると思うから、人選と準備をお願いね」

「承知いたしました」

「レーノには、私の考えてる作戦が、有効か意見をもらいたいんだけど・・・」

「もちろんです」


それからレーノに、私の考えている作戦を伝えた。

また、カイトとポーラも当然の如く参加したがったが、これは断った。


「カイトは、私がいない間、私の代わりとしてハールさんたちとの連絡役をお願いね」

「わ、分かった・・・」

「ポーラは、メイジュちゃんと一緒にいてあげて。キアラも紹介して、仲良くしてあげてね。メイジュちゃんは孤児で、その後大人に酷いことをされたの。ポーラや、キアラならその気持ちが分かるだろうし。それにね、そんなことは関係なしに、友だちになってあげてほしいの」

「うん!」


よし。

ここは2人に任せ、私は自分で言い出したことを、やり遂げることにしよう。


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