第248話:『人化術』

「コトハ殿。そちらの女性は・・・」


アーマスさんが代表して聞いてきた。


「ハールさんと、アーマスさんは会ったことあるかな。ああ、ラムスさんも。彼女はホムラ。『古代火炎竜族』の族長の娘」

「「「なっ」」」


予想通りの反応が返ってきたので少し笑ってしまった。


「ホムラ」

「はい」


私が促し、一歩前に出たホムラが


「この姿でお目にかかるのは初めてですわね。コトハ様の従魔で配下が1人、『古代火炎竜族』、現族長ケイレブの娘、ホムラにございます。以後、お見知りおきを」


そういって優雅な礼をするホムラ。

私は日本人女性の中では身長が平均よりも高い方だったし、スタイルも良い方だと思っている。そんな私だが、ホムラと並ぶととても勝てる気がしない。

身長は175センチくらい。出るとこは出て、引っ込むところは引っ込む。綺麗な黒い髪、きめの細かい綺麗な肌・・・


優雅な所作も相まって、ホムラの方がよっぽど貴族の女性に見えるんだけど・・・


「丁寧な挨拶、痛み入る。カーラルド王国国王、ハール・フォン・カーラルドである」


代表してハールさんが返す。

一貴族の配下ごときに国王が自己紹介するのかと驚いたが、『古代火炎竜族』とか名乗られたら話が別か。


「さて、挨拶も済んだところで話を戻すね。前に言ったけど、ホムラを含め、『古代火炎竜族』は私に従ってくれている。その経緯は話さないけど、私が協力を求めれば手を貸してくれる。ホムラによれば、それが戦争のようなものであってもね」


これは、しっかりとホムラに確認した。

そういえば、ホムラのこの姿。前にケイレブが話していた『人化術』をホムラがマスターしたことで獲得した姿だ。



 ♢ ♢ ♢



昨晩、カイトとポーラを寝室に見送った後、ホムラと2人になった。


カイトとポーラの話を聞いて、私は腹を決めた。

私の座る横に降りて、丸まっていたホムラを撫でながら、


「ホムラ・・・。私は・・・、これまでとやり方を変える。暴力的だし、場合によっては大勢を殺すことになる。けど・・・、私はこれが必要だと思う。2人のため・・・、違うね。私のため。私にとって、2人が笑顔で、自分のしたいことを頑張ってるのを見るのが幸せ。それを守るためなら、何でもする。・・・・・・だからね、あなたにも協力してほしいの。私1人じゃ、足りないから」


ホムラに話しているのか、自分に言い聞かせているのか。

そんな呟きをしていた最中、不意にホムラが飛び上がった。


そして、目映い光を放ちながら空中を縦横無尽に動き回り・・・、光が落ち着くのと同時、ホムラの姿は見えなくなり、代わりに1人の女性が跪いていた。



初めて見る女性。

だけど、直前の状況と感じる魔力の繋がり、オーラから確信ができた。


「ホムラ?」

「はい、ホムラにございます、コトハ様」


私の前に跪く、1人の女性。


「・・・・・・『人化術』?」

「左様にございます。以前、コトハ様のもとを訪れた父の様に、『人化術』をマスターいたしました」

「そ、そう。とりあえず、顔を上げて。座ってよ・・・」


驚きのあまり挙動不審になってしまったが、目の前で美人が跪いている状況に居心地が悪くなってしまったので、とりあえず座ってもらう。


私の横に姿勢良く座る女性・・・、いやホムラ。

ホムラの性別は知っていたが、こんな美人だとは・・・


「それで・・・、『人化術』をマスターしたの?」

「はい、コトハ様。何度も試みておりましたが、先ほど、コトハ様から魔力をいただいたことで、最後の壁を越えることができました」

「最後の壁?」

「はい。『人化術』は、魔力を操り、自身の身体を構成する魔素を操作することで、通常の『竜』の姿から、『人』の姿へと、身体の形を変える術になります。その際に、それなりの魔力を使うのですが、自身の身体に魔力を使う関係で、いくら魔力を持っていても、流す方向を操作するのが難しいのです。それを、コトハ様から流れた魔力が代替することで、最初の一歩を踏み出すことができました」

「・・・・・・なる、ほど?」


正直、仕組みを理解できた気はしないが、結果だけ見ればホムラが『人化術』をマスターした。以前は、身体の大きさを変える『身体変化』のスキルを身に付けていたが、その上位互換である『人化術』を使えるようになった、と。


試しに再びいつもの小さなドラゴンの姿、『竜』形態に戻ってと頼むと、再び身体が光を放ち、元の姿に戻った。

そして、再度の人の姿に。


「もう、私が魔力を流さなくてもいいのね」

「はい。既に身に付けましたから」


そう微笑むホムラ。

女の私からしても、彼女の笑顔は破壊力抜群だった。


「・・・というか、私の魔力? 流した覚えないんだけど・・・」

「そうですか? かなりの量の魔力が流れてきましたが・・・」

「え?」


・・・・・・それは、危険過ぎる。

私の魔力がズバ抜けているのは分かってるし、意図せず魔力を流し込むとか、怖すぎる。


おそらく、カイトとポーラの話を聞いて、私なりに覚悟を決め、それをホムラに向かって話していた際に、知らずに力が入ってしまったのだろう。

その相手がホムラで良かったというべきか。まだまだ、自分の魔力の操作でさえ未熟なことに軽く落ち込みながら、結果オーライと割り切っておく。


それを伝えると、


「なるほど、先ほどの・・・。コトハ様。コトハ様がなさることに力が必要なのであれば、どうぞ遠慮無く、私の、いえ我が一族の力をお使いください。族長ケイレブ以下、『古代火炎竜族』は、コトハ様に永久の忠誠を捧げております。コトハ様のため、力を振るうことが我らの使命であり、喜びですので」


と、力強く宣言するホムラ。


「けど、その。私がやろうとしてるのは、『古代龍族』とか関係なくて・・・。単純に、家族のため、ううん、自分のためのこと。しかも、国とか政治とか、人間じみたことだけど・・・」

「関係ないですわ。それがコトハ様のご意志であれば、喜んで」

「・・・・・・そう。分かった。それじゃあ、協力してくれる? できれば、ケイレブたちにも頼みたいんだけど」

「無論ですわ。今すぐ呼び出しましょうか?」

「うーん、呼んだら直ぐ来るの?」

「はい。ここからですと、数時間で」

「早っ! 分かった。なら、もう少し後でいいかな」

「分かりましたわ」


それから、ホムラに私の考えを伝えた。

ホムラは人間社会の話も理解できるようで、私の計画、考えを理解してくれた。



 ♢ ♢ ♢



「ホムラが手を貸す。それが戦争であっても」

この言葉は、集まった貴族にとっては衝撃的だったようで、しばらくざわついていた。

一方でハールさんやアーマスさんの表情は渋い。おそらく、以前の忠告を無視したからだろう。


「先に断っておくけど、ホムラや彼女の一族は私に従う。私は、侵略戦争になんか興味はないし、手を貸すつもりもない。だから、馬鹿なことは考えないでね。今回は、国の中を整理する猶予を得るために、外敵からの保護を一時的に担うだけ。そのために必要以上のことをする気は無いし、そんな事を強要されれば、この国も敵になる」


と、きちんと脅しておく。

まあ、ここにいる貴族は、カーラルド王国の貴族の中でもまともな方の貴族らしいし、心配はないと思うけど・・・

面倒を避けるために、最初に脅しておくに限る。


「さてと。言ったように、ダーバルド帝国の脅威からは、私が守る。クラリオル山に作られたっていう砦は、私とホムラが処理してくる。他にも、しばらくの間、ダーバルド帝国のちょっかいを受けないようにする方策を考えてる。だからその間に、急いで国の掃除をして」

「・・・相分かった」


ハールさんが力強く返事をして、アーマスさんが頷く。他の貴族たちも同様だ。


「短期間で、全部を処理できるとは思ってない。とにかく、ドムソン伯爵やゾンダル子爵のようなクズを排除し、フェルト商会のような商会を排除して」

「ああ、全力で取り掛かろう」


アーマスさんの返事を確認する。

暗い事情がある貴族や商会は多いだろう。完全に清廉潔白な貴族や商会は少ないか、存在しないのかもしれない。けれど、その中でも悪いものを取り除く。ハールさんたちはそれをしたつもりだったかもしれないが、甘かった。


時間が経てば、いずれは同じような連中が出てくるだろうし、それを防ぐのは難しい。けれど、国を興すという節目で大鉈を振るわなければ、病巣が手を付けられないほど広がってしまう。言い方は変だが、イタチごっこをするためにも、イタチごっこができる状況に落ち着かせるためにも、このタイミングは大掃除をする最後の機会なのだ。


そしてここにいる貴族は、白とはいえないまでも、白に近い貴族たちだ。軍部に回した貴族は、ハールさんたちが信頼をおいている貴族らしいし。

一先ずは彼らが綺麗であるとの前提で、他の貴族を調べてもらう。どうせ貴族どうして探り合いはしているんだろうし、取っ掛かりくらいはあるだろう。


私は、ここの貴族の動きには注意を払いつつ、ダーバルド帝国の砦を処理することにしようと思う。

別に虐殺する気はないし、必要以上に戦闘する気もない。ただ、邪魔されないように、脅すだけだ。


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