第247話:要求
「無論だ。無論だとも。ラシアール王国時代の悪しきものを取り払い、前に進む。そのために王になることを決めた」
私の問いかけに、そう答えるハールさん。
だが、申し訳ないがもはや信用できない。仮にそう思っていたのだとしても、やり方が甘い。甘過ぎる。
「そうなんだ。私には、そうは見えなかったけど。それじゃあ聞くけど、ドムソン伯爵やゾンダル子爵が、カーラルド王国でも伯爵位や子爵位をもらってるのは? あんなの、真っ先に処分するべきでしょ。フェルト商会は? 『魔族』の女の子を奴隷目的で誘拐したり、ライバルの商会から関係者の家族を誘拐して脅迫したりするような連中が、普通に商売してるのは?」
「それは・・・」
「両貴族にも、フェルト商会にも犯罪に手を染めている証拠は無く・・・」
言い淀むハールさんを、ベイルさんがサポートするがそういう話ではない。
「証拠ねぇー。そもそも調べたの? 明白な証拠が無くても、諜報部とかあんでしょ? その人たちに命じて調べでもした? どうにかして、犯罪の証拠を掴もうとした? アーマスさんが貴族の整理をしていたらしいけど、そこまで慎重に調べて、カーラルド王国でも貴族にすることを決めたの?」
「・・・していない、な」
悔しげに答えるアーマスさん。
「ほら。目に見える犯罪者を処分して、頭をすげ替えただけじゃん。クズの親玉が消えたから、しばらくは平和かもしんないけど、行き着く先はラシアール王国だよ。カーラルド王国だって、どうせ、近いうちに滅ぶ」
返ってくる言葉は無い。
みんな黙り込んでしまったので、話を続ける。
「私の言いたいことは分かった? さっきも言ったけど、私はラシアール王国の王族や貴族が嫌い。偶然、アーマスさんと知り合って、国が滅んで新国家が建つことになったから、この場にいるけど、そうじゃなければ、私が滅ぼしてたかもね。少なくとも、カイトとポーラの親を殺したのに関係した者は見つけ出して皆殺しにしていたと思う。その気持ちは、今も変わらない。ここにいるのが、そんなクズと同類だというのなら、私はあなたたちの敵になる。無闇矢鱈に殺す趣味は無いけど、責任を取るべき者には責任を取らせる」
「コトハ殿・・・」
アーマスさんが何か言おうとしているが、最後まで話させてもらう。
「最後まで聞いて。今のが、昨日の事件を受けて、私の率直な感想。けど、カイトとポーラは違った」
そう言いながら、昨晩のやり取りを思い出す。
♢ ♢ ♢
後処理からどうにか離脱し、部屋に戻るとカイトとポーラが待っていた。
「ただいま。まだ起きてたんだね・・・」
そう言いながらソファーに倒れるように腰掛ける。
「お帰り、コトハお姉ちゃん。その・・・」
「カイト?」
「僕がいない間に、ポーラが。それをコトハお姉ちゃんが・・・」
と、申し訳なさそうに謝罪してくるカイト。
けれど、その謝罪は不要なもの。
「謝る必要はないよ、カイト。そもそも、2人を守るのは私の役目で、義務。それに、ポーラを守ったのはジョナスたちであり、ポーラ自身だからね。私は後処理をしただけ」
「けど・・・」
「カイトは、私の許可も得て、友だちと遊んでたんだから気に病むことはないよ」
そう言うと、納得はしてなさそうだが、諦めるカイト。
「ポーラ。メイジュちゃんは?」
フェルト商会で助けたメイジュちゃんは孤児だったらしい。だから、助けたとしても迎えに来る親などいない。元いた孤児院に連絡すれば、再び受け入れてくれるかもしれないが、メイジュちゃんはそれを望まなかった。
助けた時からずっと、ポーラとシャロンの側を離れたがらなかったのだ。
なので、一先ずはポーラに任せ、そして世話をレビンに頼んでいた。
「向こうで寝てるよ!」
どうやらポーラのベッドで寝ているらしい。
「そっか。メイジュちゃんと一緒にいてくれてありがとう」
「ううん。ポーラ、お姉ちゃんだから」
「・・・そうだね」
胸を張るポーラの頭を撫でてあげると、くすぐったそうに身をよじる。
さて、と。
「ねえ、カイト、ポーラ。聞いてもいい?」
「コトハお姉ちゃん?」
「なにー?」
「うん。今の生活は楽しい?」
そんな漠然とした質問。
けれど、私にとって重要な質問。
その答えは、
「楽しいよ! みんないるし、お城綺麗だし!」
と、満面の笑みで答えるポーラ。
「ポーラと同じかな。昔の生活や、村に送られたときに比べて、比べるまでもなく楽しいよ。コトハお姉ちゃんもいるし、友だちもできたし。最近は、訓練も楽しいかな」
嬉しいことを言ってくれるカイト。
後ろでポーラも、「私も!」と叫んでいる。
「・・・・・・・・・・・・そっか。ちなみに2人は、将来どんなことがしたい?」
何回か聞いてきた質問に対して、
「冒険者!」
と同じ回答をするポーラ。
そして、
「フォブスやグリンと一緒に働いてみたいかな。父がそうだったみたいに」
と、そんな回答をするカイト。
「それは、国に仕えるってこと?」
「うーん、仕えなくてもいいんだけど。けど、2人と一緒に働きたいなって。そうすると、国で働くのかな」
「そっか。今日もそんな話をしてたの?」
「ううん。2人と一緒にいて、これからも仲良くしたいなって」
「そう。分かった」
2人の答えを何度も心の中で反芻し、
「よし。もう遅いからね。2人とも寝よっか。待っててくれてありがとう。おやすみ」
「「おやすみなさい!」」
寝室に向かう2人と2人に続くフェイとレビン、そしてシャロン。
5人を見送ると、部屋には私とホムラだけになった。
♢ ♢ ♢
「カイトとポーラは、今の生活を気に入っているってさ。特にカイトは、フォブスはもちろん、グリン君とも仲良くなったみたいで、将来は一緒に働きたいって言ってたよ」
それを聞いて、少し表情を和らげるハールさんと3人の王子、アーマスさん、ラムスさん。
「だから、少し待つことにした。本当は、この場で大公位なんて返上して、2人の両親を嵌めた貴族やその関係者、その時に助けなかった貴族を抹殺しようとすら考えてた。後は、他種族を奴隷にしてるような連中をしらみつぶしにね。けど、それは本来あんたらの仕事。それを私がやれば、おそらくこの国は、滅ぶ」
「だろうな」
応じたのはダンさんだった。
「コトハ殿が動けば、いずれそういった連中を排除できよう。けれど、同時に王家や他の貴族の地位は失墜する。コトハ殿が王になるなら別だが、コトハ殿が綺麗にした後で、俺たちが上に立つのは無理だ」
そう。
昨日の件でさえ、フェルト商会とドムソン伯爵邸に入ったのが、私たちだと知られ始めているらしい。どちらも暗い噂はあったし、市井の人々の評判は良くなかった。そんな2つを成敗した。結果として、うちのことを知っていた人はもちろん、知らなかった人の間でも、評価されているらしい。
「その通り。私は王様なんてなりたくない。仮にクズの始末をするとしたら、それは自己満足。後のことはどうでもいい。けど、それだと困るでしょ? それに、カイトたちも望んでいない。だから、その役目を本来になうべきあなたたちが、それをやって。穢いことが明らかな貴族を排除するだけではなく、全ての貴族を綺麗か調べて。そして、ラシアール王国で商会登録されていた商会を無条件でカーラルド王国でも登録するのではなく、再び審査を行った上で、登録の可否を決めて」
私の要求に、面食らったように目を白黒させる出席者たち。
その中から、
「よろしいでしょうか?」
と、挙手したのはルスタル伯爵だ。
「ええ。なに?」
聞いてみると、
「クルセイル大公殿下のお怒り、そしてご主張は理解いたしました。そして、至極真っ当であると考えます」
私の意見に同意するってことは、ハールさんやアーマスさんを批判している部分に賛同しているわけだ。
思い切ったことを言うな、この人。
「それはよかった。それで?」
「はい。ですが、実際問題、建国式典を6日後に控えた現状で、カーラルド王国の貴族となることが予定されている貴族全てを調べるというのは不可能です。ですが、一度叙爵した後に問題が見つかれば、その貴族を取り潰す、というのも混乱を招きます」
ああ、それか。
「でしょうね。だから、諜報部で、どうしても外せない仕事についてるの以外と、国軍? 王宮騎士団っていうんだっけ? それを総動員したらいいんじゃない?」
「無茶な!」
今度はダンさんが叫ぶ。
「無茶です、コトハ殿。そうすれば、ダーバルド帝国が・・・」
「分かってる。だから、その間は私がこの国を守ってあげる。彼女の一族と一緒にね」
そう言って、最初から私の後ろにいた1人の女性を紹介する。
みんな気になっていたようだが、私が触れるまで我慢していたのだろう。というか、聞かれる前に私が話し始めていたし。
「コトハ様の仰せのままに」
そう言って礼をした女性、見た目は20代の絶世の美女。チャイナ服のような赤いドレスを着こなす彼女は、『古代火炎竜族』の族長が娘であり、私の大切な従魔の1人で家族の1人、ホムラだ。
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