第246話:覚悟
一夜明け、いつもよりも大分ゆっくり目覚めた私は、一緒に朝食を採る2人を眺めながら、昨日のことを思い出していた。
昨日はいろいろあった。本当に、いろいろあった。
軍部の会議に始まり、ドムソン伯爵邸での仕事を終えた後も、助けた女性やメイジュちゃんのケア、奥さんと娘さんを人質にされていた商人に対応するなど・・・。全て私がしたわけではないが、都度報告が来たり、挨拶に行ったり、近衛騎士団が纏めていた報告書の作成に協力したりと、私がすることも結構あった。
それから結葉さんと佳織さんに、とりあえずお兄さんが無事であることと、この国に向かっていることを伝えた。
そんな私の帰りをカイトとポーラは起きて待っていてくれた。
昨日の一連の出来事は、私のこれまでの判断や考えが正しかったのか、このままでいいのかを考える契機になった。
カイトとポーラにも、どうしても確認したいことを確認した。それに、驚きの出来事もあった。
そして、今日。
朝食を終えて身支度をしていると、来客があった。
許可を出して中に招くと、昨日は苦労を共にしたグランフラクト伯爵だった。
「おはよう、グランフラクト伯爵。昨日は大変だったね」
「おはようございます、クルセイル大公殿下。昨日は大変お疲れ様でございました。報告書の作成やフェルト商会、ドムソン伯爵邸で収集した証拠の整理は途中ですが、拘束した関係者の取り調べは進んでおります。それで・・・」
「ダンさんへの報告だっけ?」
グランフラクト伯爵が来た目的はこれだろう。
昨日は、フェルト商会に突撃した後に報告を求められたが、それを押し切ってドムソン伯爵邸に行ったからね。
それにしても、昨日はかなりの数の関係者を拘束したと思うが、その取り調べは進んでいるのか。徹夜で仕事をしていたんだと思うと、近衛騎士には頭が下がる思いだ。
だが、グランフラクト伯爵の目的は少し違った。
「国王陛下が、クルセイル大公殿下をお呼びです。ダン王子を含め、緊急で御前会議を開催したいと。ご同行いただけますでしょうか」
とのこと。
御前会議、ねぇー・・・・・・
多分昨日のことを聞かれたり、昨日交換条件で引き受けると宣言したダーバルド帝国の砦の処理に関することなんだろうけど・・・
「・・・・・・どうしようかなぁー」
私の呟きに、困った表情のグランフラクト伯爵。
別に彼を困らせたいわけではない。昨日はダンさんからの命令とはいえ、途中からは自分自身も怒り、積極的に協力してくれた。
昨晩、カイトとポーラ、そしてホムラと話したことを思い出しながら、グランフラクト伯爵に向き直る。
「ウェインさん、だっけ。グランフラクト伯爵の名前」
「は、はい。左様にございますが・・・」
「じゃあ、これからウェインさんって呼ぶね。グランフラクト伯爵って、爵位付けて呼ぶのって苦手で」
「それは構いませぬが・・・」
「ふぅーっ。・・・・・・・・・覚悟を決めるかな」
「・・・クルセイル大公殿下?」
「ああ、ごめん。御前会議だっけ?」
「はっ」
「一緒に連れて行きたい人がいるんだけどいい?」
「はい。大人数だと難しいですが・・・」
「大丈夫、1人だけだから」
「問題ないかと」
私の中で覚悟を決めるためにも、先に会いたい人たちがいた。ウェインさんは早く行ってほしそうにしていたが、我慢してもらおう。
まずは、結葉さんたちを守るために一緒にいるラヴァの娘の5人に会う。
「みんなの様子はどう?」
昨日は一日、部屋で静養していたはずだ。肉体的な怪我は酷くなかったが、召喚、つまりは拉致され、暴力を受け続け、殺されそうになったところを逃げ出したわけで、精神的な苦痛は言葉に表せない。
「はっ。落ち着いてはいるようです。もうしばらくの間は静養が必要だとは思いますが・・・」
「そうだね。4人の側にいてあげてね」
「もちろんです。それが、仕事ですので」
「うん、ありがと。けど、仕事ってだけじゃなくて、年の近い女同士として、話したり食事したり、一緒にしてあげてほしいんだよね。その方が、気晴らしにもなると思うから」
私の言いたいことは伝わったようで、ラヴァの娘のリーダーであるミィーナは、何度も頷き、礼をして部屋へと戻った。
任せて大丈夫そうだ。
それから、昨日ドムソン伯爵邸で救出した女性の部屋も訪問した。
しかし彼女は、ここに連れてきて眠りについた後、目を覚ましていない。かなり気がかりだが、今は様子を見るしかないか・・・
最後にポーラと一緒に寝ているメイジュちゃんの様子を見てから、
「お待たせ。それじゃあ、行こうか」
♢ ♢ ♢
ウェインさんの案内で、謁見の間近くの大きな部屋へと案内された。
中に入ると、中央に国王のハールさん、その横には3人の王子にアーマスさんやラムスさん、そして6人の高位貴族。そして、昨日の軍部会議で見た貴族が並んでいた。
「コトハ殿」
ハールさんが私を迎えようとする。彼の近くの椅子が空いているところを見ると、あそこが私の席、か。・・・・・・いや、ハールさんが座ってほしいと思っている席、かな。
ハールさんが何か言おうとする前に、話し始める。
「先にさ、私から話があるんだけど、いい?」
少し驚いた様子だったが、頷き促すハールさん。
「ありがと。それじゃあ、単刀直入に聞くけど、この国はラシアール王国と何が違うの?」
私の言葉に静まりかえる室内。
出席している貴族、その付き人と思われる壁際に待機している貴族。私の連れ1人を除いた全員が驚いたように私を見ている。
「それは、どういう・・・」
どういう意味か、と聞こうとしたアーマスさんを遮り、話を続ける。
「ラシアール王国は、権力を求めたランダル公爵やそれに従う貴族の暴力によって王家が倒され、滅んだ。そして、ラシアール王国の貴族だった者の間で内乱が起きて、勝ったハールさんが国王になったんだよね?」
頷き肯定するハールさんやアーマスさん。
「けどさ、私に言わせれば、頭が変わっただけでそれ以外は変わってない。実際がどうかはともかく、私の目にはここにいるのも、こないだの謁見の間にいたのも、みんないけ好かない腐った貴族ばかり。カイトとポーラの親を殺した、自分達の利益のためにクライスの大森林に兵を差し向けた、権力欲しさに反乱を起こした、そんな貴族と同じ。私にとって、本来は排除すべき存在であり、敵」
そう言うと同時、オーラを全力で解放する。
武に疎い者でも感じられるであろオーラは、出席している貴族たち、後ろで控える従者たちに恐怖を与える。
王族の周辺や部屋の隅には近衛騎士が複数いる。私がオーラを出した時点で、不穏な気配を察知し、動く準備はしていたようだが、彼らにはこれが最も良く効く。私のオーラに当てられ、顔色を悪くしたり、腰が引けていたり。それでも王族の盾になろうとする姿勢は感心するが、その気になれば敵では無い。
私に戸惑いながらも剣を向けようとする近衛騎士に、私の後ろにいる女性が圧を向けるが、それは静止しておく。別に攻撃する気はないのだから。
「「コトハ殿!」」
「「クルセイル大公殿下!」」
ダンさんとアーマスさん。ウェインさんとルスタル伯爵が大きな声を出して、私を止めようとする。さすが、この場で強い4人だね。
叫んだ4人の方を順に見ながら、オーラを再び封じ込める。
「ハールさん、いやカーラルド王国の国王に聞く。この国を、まともな国にする気はある? 腐った貴族がのさばることが無く、違法な商売をする商人が罰せられ、懸命に努力している人たちや子どもたちが害されることの無い国に。今、この場で答えて」
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