第252話:戦力確保と報酬
案内された部屋の前に到着し、扉をノックする。
「はい」との返事と共に、扉へ近づく足音が聞こえ、扉が開かれた。
「何か御用で・・・、っ!?」
私を見て、目を見開くライゼルさん。
そして、
「失礼いたしました」
と言い、跪く。
「ああ、いいよいいよ。頭を上げてってか、立ってくれる? あなたに話があるの」
「はっ」
部屋に入れてもらうと、ベッドと机、椅子といった質素な部屋だった。
武具は没取されているらしく、部屋には少数の衣服が置かれているだけだった。
「どうぞ」
部屋に唯一の椅子を差し出してくるライゼルさんに礼を言って座ってから、
「改めて、クルセイル大公のコトハよ。よろしくね」
「はっ。プラチナランク冒険者のライゼルと申します。平民出身故、名字はありません」
ライゼルさんにもベッドに座る様に促してから、
「まずは、怪我はどう? 見たところ元気そうだけど・・・」
「ご心配いただきありがとうございます。既に完治しております」
そう言うが、確か騎士ゴーレムが右脚に大盾を叩き付け、鳩尾を殴っていた気がするのだが・・・
「右脚と鳩尾、かな?」
「はい。問題ございません」
「そう? ならいいけど・・・」
これ以上聞いても、言ってはくれないかな。
マーカスが見たところ、少し右脚を引きずる様子があったらしいんだけどな・・・
まあ、それは後か。
「それで、今日はあなたに頼みがあって来たの」
「頼み、ですか?」
「うん。頼みというか、冒険者のライゼルへの依頼かな」
「依頼・・・。申し訳ありませんが、今の私は一応拘束下でして」
「ああ。そうなんだけど、ウェインさん・・・、近衛騎士の騎士団長によれば、私が身元引受人になれば平気だって。そもそも、ライゼルさんはゾンダルとその配下の商会に嵌められたわけでしょ? その証拠が出てくるまでの辛抱だからさ」
「は、はぁ・・・」
「とりあえず、話を聞いてくれる?」
「は、はい」
それから、マーカスや騎士団長、魔法師団長と話した砦攻めの作戦について説明した。
「なるほど・・・。確かに私は、盗賊のアジトや群れをなす魔物の住処への襲撃、潜入の経験は多くあります。今回の作戦でも、お役に立てるとは思いますが・・・」
「本当! そしたら是非、参加してほしいんだけど」
「ですが、このような重要な作戦。私のような曰く付きの者が参加するなど・・・」
「ふふっ。だから、気にしなくていいって。あなたを雇うのが最適だって部下からの進言もあるし、あなたが優秀なのはこの前見てるし」
「私は、クルセイル大公殿下のゴーレムに刃を向けました。それでも信頼していただけるのでしょうか・・・」
「うん。あれはゾンダルに無理強いされてたんでしょ? そもそも、戦闘の前も後も、礼儀正しかったし、私への敵意も無かったでしょ? どうかな、引き受けてくれない?」
「・・・・・・・・・・・・承知いたしました。せめてもの罪滅ぼしのため。微力ではございますが、全力で」
引き受けてくれたようで助かった。
真面目すぎるのか、どうにも堅いが、彼が誠実な男であることが分かったので良しとしよう。
「うん、よろしくね。クルセイル大公からの依頼ってことで、冒険者ギルドに言えばいいのかな?」
との質問にはジョナスが、
「はい。特殊な状況ですので、王都冒険者ギルドのギルドマスターに直接、依頼の処理を頼みましょう。私が行って参ります」
「分かった、お願いね。報酬は・・・、分かんないから任せた。十分な額をお願いね」
「はっ」
走って行くジョナスを見送ってから、
「それじゃあ、ライゼルさん。行こっか」
「・・・え? えっと、どちらへ・・・」
「ん? マーカス・・・、うちの騎士団長のところ。とりあえずは彼と一緒に動いてもらうことになると思う。武器は下にある?」
「はい。近衛騎士団に預けてあります」
「分かった。とりあえず、ウェインさんのとこだね」
ライゼルさんを連れて下に降りると、変わらず忙しそうに指示を飛ばしているウェインさんがいた。
「ウェインさん」
「クルセイル大公殿下と、ライゼル殿。では・・・」
「うん。クルセイル大公が冒険者ライゼルの身元引受人になります。彼の武具をお願いできる?」
「はっ」
1人の近衛騎士が台車を押して、ライゼルさんの武具を運んできた。
運んできたのだが・・・
「見事に割れてるね・・・」
「はい。剣はさすがに頑丈ですが、胴体部分の防具、おそらくゴーレムに殴られた箇所だと思いますが・・・」
「うう・・・。とりあえず、剣を回収してもらって。ライゼルさん。防具にこだわりはある? 似た感じの防具なら、うちの騎士団で使ってるのがあるんだけど・・・」
「剣はこだわりを持って特注で頼んでおりますが、防具の素材自体は良い物を選んではおりますが珍しいものではございません。ですが体格の関係で、これも馴染みの武具屋に個別に頼んでいるものではありまして・・・」
「そっか・・・。とりあえず、うちの騎士団の在庫確認してもらって、無理そうならそんときに考えよう。そしたらウェインさん、ライゼルさんを連れてくね」
「はい。規則ですので、念のためお伝えいたします。ライゼル殿は、近衛騎士団の管理下に置かれています。この措置は、ライゼル殿の潔白が分かるまでのものですが、逆に言うと、それまでの間にライゼル殿が逃亡したり、問題行動を起こしたりすれば、身元引受人であるクルセイル大公殿下の責任となります。よろしいでしょうか」
「うん、了解。とりあえず、仕事終わったら一緒に帰ってくればいいんだよね?」
「はい。その認識でも問題ございません」
「了解。そしたら、ライゼルさん、行こっか」
「はっ」
ウェインさんや近衛騎士に礼を言って、詰め所を後にした。
♢ ♢ ♢
ライゼルさんをマーカスに預け、私はホムラと一緒にハールさんたちのもとを訪れた。
ライゼルさんをマーカスに預ける前に、リンの『マジックボックス』に入れてあった『アマジュの実』で作った魔法薬を飲ませておいた。やはり痛みがあったのであろう右脚が完治したようで何よりだ。
ハールさんのもとを訪れたのは、今回は王国の一員として、しかも騎士団長や魔法師団長と一緒に作戦行動を起こすのだから、国王に作戦内容の説明をして、許可を貰う必要があると思ったから。
今回は今朝の大きな会議室ではなく、それよりも小さな部屋へと案内された。聞けば、国王の執務室だとか。
部屋に通されると、見慣れた王子たちやアーマスさんとラムスさんが、左右に分かれて積み上げられている書類と格闘していた。
そして最奥、一際大きな机の上には、これまた大量の書類がいくつもの山を作り置かれており、その向こう側に疲れた顔のハールさんを見つけた。
「えーっと、お疲れ様・・・」
「ああ、コトハ殿。このような場所ですまないな・・・」
「いや、それは全然。・・・これは、今朝のことが関係してる?」
「・・・してない、とは言えんが、それ以外の要因が多いな。特に財務の面で体制を整えている最中でな。かなりの数の報告が国王まで上がってくるのだ。本来であれば、役人やそれらを管理する貴族のところで完結すべきところも多いのだが・・・」
と、疲れを隠さずに話すハールさん。
国王になってから増え続ける書類仕事。それに追われる毎日だそうだ。
応接室や会議室、今朝の会議ではこんな疲れた様子を見せていなかったことを考えると、人前では隠していたのだろう。
・・・・・・にしても、国王の仕事量ってエグい。さっき「コトハ殿が王に」とか言われたけど、断固拒否だな。
「それで、コトハ殿。どのような要件だろか」
「ああ、そうだった。忙しそうだし、手短に済ませるね。私が引き受けた砦攻めのこと。概ね動きが決まったからその報告と承認を貰いにね。後は確認事項がいくつか」
私がそう言うと、王子たちやバイズ公爵家の2人もこちらに寄ってきた。
「ふむ。基本的には任せるつもりだが・・・」
そう言うハールさんたちに、一応の作戦行動の内容を説明した。
「構わんだろう・・・、というかコトハ殿、そしてホムラ殿によるところが大きいな。改めて感謝を。そして、許可を出そう。ダン」
「ああ。『異世界人』の保護、敵の指揮官の拘束も、成功すれば得るものは大きいな。最悪でも、あそこの砦は無力化できる」
「必要経費も少なそうですね・・・。そういえば、ホムラ殿やドラゴンたちへの報酬は・・・」
ダンさんもゴーサインを出し、宰相目線のアーマスさんには経費的にも好感触。
だが、確かにホムラたちへの報酬が必要か?
「ホムラ。報酬とかっているの?」
「私や我が一族には不要ですわ。『火炎竜族』や『赤竜』も命じれば報酬は不要ですが、強いて言えば食べ物でしょうか?」
「魔獣とか?」
「そうですわね。ですが、用意していただく必要はございませんわ。『火炎竜族』も『赤竜』も、自分で狩った獲物しか基本的には食べませんから。どこかで狩りをすることを認めていただければ」
「なるほど・・・。どう?」
「そうですね・・・。クラリオル山にはそれなりに魔獣・魔物が生息しています。それは自由に狩っていただいて構いません。後は、少し南に行けばクライスの大森林があります。そこはコトハ殿の支配領域ですが・・・」
「分かった。じゃあ、山と森で自由に狩りができれば良い感じね?」
「はい」
「ええ」
「よし、ならそれで」
100体近く呼びつけると、どれほど食うことになるのか想像も付かないけど、まあ、何とかなるでしょ。
最悪、ダーバルド帝国側でも狩りを認めれば、足りなくなることはあるまい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます