第240話:フェルト商会へ

私はポーラが襲われた話や襲撃者が逃げ込んだフェルト商会の話、その背後にいる可能性があるドムソン伯爵やゾンダル子爵の話をした。

フェルト商会については、3人は当然知っていたらしく、私の話には納得していた。


そして、


「ポーラ嬢。その襲撃者が、フェルト商会に逃げ込んだというのは間違いがないのですね?」


と、ポーラに確認するダンさん。


「間違いないよ! シャロンとホムラが匂いで確認してるから」


と応じるポーラ。

それを受けて、


「分かりました。それで、騎士団を、というのは。後で難癖を付けられないようにするためですか?」


と確認してくる。レーノが危惧していたのはそこだ。貴族とはいえ、いきなり商会のお店を襲撃することなど許されない。混乱することは間違いないないし、お客さんに怪我人が出るかもしれない。そうなれば、面倒なことになるのは間違いない。もちろん私も、関係ない人を巻き込みたくはない。

しかし、犯罪者の捕縛のために騎士団が動いたとすれば。とりあえず、お客さんは大人しく指示に従う。従業員であっても、まともな者ならこちらの指示に従うだろう。

その結果、混乱を抑えつつ目的の襲撃者や商会の者を捕らえることができるだろうというわけだ。


私が肯定すると、


「ですよね。単に制圧するのなら、コトハ殿の戦力であれば十分でしょうし・・・。しかし、フェルト商会、ですか。力が弱まったとはいえ、厄介な相手ですね。できれば、敵対したくはないのですが・・・」


と、そんな寝言をほざくダンさん。


「協力してくれないの?」


少しイラッとしながら聞き返すと、


「い、いえ。そういうわけでは。しかし、フェルト商会に王宮の騎士団が捜索に入れば、関係の深い貴族が騒ぐなぁーと・・・」


それを聞いて頷く2人。

大変に面倒くさい。いや、貴族のいろいろはあるんだろうけど、こちとらポーラが襲われたんだ。

たぶん、じっくり頼み込めば協力してくれるとは思う。というか、私が1人で暴れる方が面倒だと思うんだけど?


それはさておき、私は早いところフェルト商会のところへ行きたい。

なので、


「ならさ、さっきの砦の話。あれは私が引き受ける。砦自体を潰すにしろ、制圧するにしろ、私が手伝うってか、攻撃する。だから、今は協力して?」


机に地図が広げられ、いろいろ検討していた形跡がある。ハールさんに話を持って行く前に、検討していたのだろう。しかし、3人の渋い表情を見る限り、妙案はなさそうだ。

私なら、飛んでいけば問題なく攻撃することができる。それに、少し考えていることもある。なので、今回は攻撃を引き受けてもいい。

けれどそれは、この問題を片付けてからだ。


私の圧・・・、もとい真剣な眼差しに負けたのか、ダンさんが首を縦に振った。


「分かりました。王宮騎士団は出撃準備のため難しいですが、近衛騎士団なら直ぐに動かせます。・・・おい、グランフラクト伯爵を呼んでくれ!」


控えていた部下に指示を出すダンさん。


「ダンさん、ありがとう」


と礼を述べると、


「いえ。フェルト商会を守りたいわけでは無いですからね。逆に、やかましい貴族を処理できるかもですし・・・。それに、ポーラ嬢を狙ったというのは許される行為ではないですから。後はまあ、コトハ殿の協力の申し出が、大変ありがたい、ということですね」


と、笑顔で全てをぶっちゃけるダンさん。

ダンさんって、かなり開放的というか、隠さないタイプだよね・・・



 ♢ ♢ ♢



砦の攻略に向けた話を聞いていると、グランフラクト伯爵が入ってきた。


「殿下。お呼びと伺い、参上いたしました」


とダンさんに礼をし、それから、


「クルセイル大公殿下、バイズ公爵閣下、バール侯爵閣下、ポーラ大公妹殿下」


と、それぞれに挨拶するグランフラクト伯爵。


挨拶を終えると、早速、


「コトハ殿。説明を頼めるか?」


と言われたので、もう一度説明した。

そして、


「近衛騎士団で、詰め所に待機している部隊を連れて、コトハ殿に同行せよ。本件の処理は、クルセイル大公に任せることとし、近衛騎士団はクルセイル大公に協力するのだ」


と命じた。

グランフラクト伯爵が、


「はっ」


と、短く返事をすると、


「クルセイル大公殿下。これから参りますか?」

「うん。既に、うちの部下には見張らせてるからね。急いで行きたいんだけど」

「承知いたしました」


そう言って、ダンさんの方を見るグランフラクト伯爵。

ダンさんが頷いたのを確認すると、


「では、参りましょう」


と言って、私たちは部屋を後にした。



 ♢ ♢ ♢



私とグランフラクト伯爵が急いで馬車乗り場に向かっていると、自然と貴族や使用人たちが道を空けてくれた。馬車乗り場でも同様だ。


うちの馬車は、騎士ゴーレムを乗せて出ているので、グランフラクト伯爵の案内で近衛騎士が部隊を動かす際に使うという馬車に乗せてもらい、フェルト商会を目指した。


フェルト商会は、王都の中心部から少し外れた場所にあった。近づくと、うちの馬車を発見した。


「グランフラクト伯爵。あそこ」


それを伝えると、


「はい。おい、停止しろ!」


と馬車を止めさせる。

馬車から降りると、マーカスが走って来て、会釈する。


「コトハ様。グランフラクト伯爵」

「マーカス。状況は?」

「はっ。フェルト商会の建物は、奥に見える3階建ての建物になります。出入口は表と裏に2箇所ずつ。裏には騎士を多めに配置してあります。騎士ゴーレムは、表に止めた輸送用の馬車に20体が待機中です。残り10体は裏手に回してあります」

「オッケー」


そう言って、軽く上を見上げる。

目に魔力を込めると、まるでカメラのズーム機能を使ったかのように、遠くを見ることができる。これは、遠くのものを見ようと目を凝らしていた際に、誤って目に魔力を流しすぎてしまった際に気づいた方法だ。任意に倍率を変えたり、素早い切り替えを行ったりはできないが、何となく気配を感じているホムラの場所を狙って見る程度であれば造作もない。


そんな風にホムラを見れば、ホムラと目が合った。いや、単に私の気配を感じて下を見ていただけかも?

いずれにせよ、ホムラの視線を感じることができた。そして、ホムラによれば逃げた襲撃者はいないとのこと。


続けてシャロンを見る。

すると、


「コトハ姉ちゃん。シャロンが、この中に全員いるってさ」


と教えてくれた。どうやら間に合ったようだ。

にしても、シャロンの嗅覚も凄いなぁ・・・


「よし。行くよ」


私が宣言し、マーカスが騎士ゴーレムを出撃させる。同時にグランフラクト伯爵は近衛騎士に前進を指示し、私とポーラは彼らを率いてフェルト商会に向かって歩き出した。



 ♢ ♢ ♢



抜剣し、盾を構え、戦闘準備を整えた状態で、フェルト商会の建物に迫りくる騎士ゴーレムと近衛騎士の姿を見て、フェルト商会を訪れていた人々はパニックになっていた。


混乱し始めているのを確認してから、


「その場で静止し、傾聴せよ! クルセイル大公殿下のお言葉である!」


と、マーカスが大声で叫び、注目を一気に集めると同時に、混乱で将棋倒しになりそうな様子だったお客さんたちの動きを止めさせた。


「クルセイル大公よ。フェルト商会による、貴族家の子女誘拐未遂に関して、捜索を行います。商会関係者は、その場から動かずに。動けば敵対行動と見なし、部下に制圧を命じます。客として来ているだけの人は、ゆっくりと、歩いて建物から出るように。敷地の端に移動し、指示を待ちなさい」


と、ゆっくりと宣言した。

特段大声を出しているわけではないが、マーカスの宣言によって怖いくらいに静かになっていたため、十分に伝わったようだ。


その後、私が合図を出すと、騎士ゴーレムが少し前に出て、フェルト商会側の警備や隠れているのであろう襲撃者からの攻撃に警戒する。そして、うちの騎士と近衛騎士がお客さんを1人ずつ、敷地の外へと誘導していく。その側では、シャロンを従えたポーラがおり、客に紛れて襲撃者がいないかを監視している。


そんな中、


「ワッロッフ!」


と、シャロンが吠えた。その先にいたのは1人の男。ローブで身体を隠しているが、かなりガタイがいいと思う。


「捕らえろ!」


事前の取り決め通り、シャロンが吠えた時点で、敵と見なす。シャロンが吠えるのと同時に捕縛に動いていた騎士たちは、マーカスの合図で男に体当たりして、倒れ込ませる。そして馬乗りになって、両手両足を拘束した。


「離せ、この! 俺が何をした!」


喚く男だが、直ぐに猿ぐつわを噛ませられ、2人の騎士に引きずられるようにして、馬車へ放り込まれた。

1人確保だ。残りの襲撃者は4人、それと、商会の黒幕か。


その様子を見て、どうするか迷っていたのであろう商会の警備のものたちは、装備していた武器を捨て、こちらに投降する意思を示した。

単に商会を守っていただけであれば、何ら咎めることはないが、今は素直に武装解除してくれて助かった。できるだけ、無用な戦闘は避けたいしね。


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