第231話:話す内容
〜ミィーナ視点〜
私の説明を聞いたボンダンさんは、目を瞑り、腕を組んで考え込んでいる。
私が説明した内容は、ユイハさんたちから聞いた事情から、「召喚された」という部分を除いたもの。
本当に信頼を勝ち得るのなら、ありのままの事実を包み隠さず説明するのがいいのかもしれない。しかし、今回はその内容があまりにも信じ難いものだった。そうすると、「召喚された」部分が信用されない結果、話の全てが信じてもらえないおそれがあった。そのため、まだ信じてもらえる可能性の高い部分、つまり「捕まり虐げられていたダーバルド帝国から逃げてきた」という話のみを伝えることにした。
「召喚された」部分については、ギルマスや上の人に聞かれた際に改めて話すとして、今は町に入れないとかなり困る。そのためには、ボンダンさんにある程度信じてもらう必要があったのだ。
じっくりと考え込んでいたボンダンさんが口を開く。
「話は分かった。ダーバルド帝国から逃げてきたという話も一応は納得ができよう。クライスの大森林を抜けたというのは信じ難いが・・・・・・、そのような魔道具の存在は聞いたことがある。だが、それを考慮しても、武器も持たず、戦った経験も無さそうな嬢ちゃんたちが、森を移動してきたというのはなぁ・・・」
そう言って疑いの眼差しを向けるボンダンさん。
「私たちが彼女たちと出会ったのも、クライスの大森林に近い場所でしたし、ご覧の通りボロボロです。数週間、森の中を移動していたのだとすれば、それも納得できませんか? それに、そんな嘘をつく必要が無いですし」
今度は私に鋭い目を向けるボンダンさん。
「はぁー・・・。いいだろう。どうやらまだ隠してることがありそうだが、英雄の話を信じてやろう。いや、そんな二つ名ではなく、お前さんたちのこれまでの功績をな」
当然だが、ボンダンさんは私たちが“赤き英雄”と呼ばれることとなった理由を知っているし、その真実も知っている。何しろ、現場にいたのだから。しかし、それはともかく、オーバンやその周辺を拠点に10年以上活動してきた私たちを信じてくれるという。
「ありがとうございます!」
私は礼を言って頭を下げる。4人も頭を下げ、ユイハさんたちも頭を下げる。
「気にするな。お前さんたちが、腐った連中を町に入れるとは思わないだけだ。嬢ちゃんたち。町へ入る仮の許可証を発行する。期限は今日から7日間。その間に、ギルド登録するか、この町の正規の住民登録をしてくれ。それまでは、ミィーナたちから離れて行動するなよ。それと、仮に嬢ちゃんたちが問題を起こせば、それはミィーナたちの責任となる。いいな」
迫力を込めて伝えるボンダンさんに対し、しっかり目を見て頷くユイハさんたち4人。
「よし。それじゃあ、少し待ってろ。デント!」
「了解です」
ボンダンさんはデントさんに指示を出し、仮の許可証を発行してくれた。
♢ ♢ ♢
ボンダンさんが発行してくれた仮の許可証によって、ユイハさんたちを連れて町の中に入ることができた。
目立つ髪色や瞳の色、ボロボロの服装、そして私たちの同行者。そんな理由で、町に入ってからというもの、浴びる視線が凄かった。少し申し訳なくも思いながら、急いで冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドは、町に入ってから少し歩いたところにある。時刻は昼過ぎ、幸いなことに冒険者ギルドの中は比較的空いていた。冒険者が競って依頼を受注する早朝と、依頼を終えて報告のために帰ってくる夕方はかなり混んでいるのだが、昼過ぎは結構空いている。
真っ直ぐに受付に進み、馴染みの受付嬢であるメイに話しかける。
「こんにちは、メイ。話があるのだけど・・・」
「ミィーナさん、こんにちは。確か・・・、ゴブリンの巣の討伐でしたよね? 何か問題が?」
当然だが、私たちが受けていた依頼に関連付けて身構えるメイ。
「ああ、メイ。違うの。依頼は問題なく完了よ。それは後で報告するわ。それよりも先に、ギルマスに折り入って話があるの。取り次いでもらえる?」
「ギルマスですか? ・・・分かりました。お待ちください」
そう言って後ろにある階段を登り、ギルマスの部屋に向かうメイ。
少ししてメイが戻ってきた。
「どうぞ。ギルマスがお会いになるそうです。・・・それと、後ろの方々も?」
「うん。いい?」
「はい。大丈夫です。みなさんで上へ」
「ありがとう」
そう言って、受付裏の階段を登り、ギルマスの部屋へと入った。
「ミィーナ。それに、お前らも。どうしたんだ? いきなり話があるって」
部屋に入ると、挨拶もなくそんなことを問われる。
私が答えようとすると、
「後ろにいる彼女たちに関係がありそうだな・・・。分かった、座ってくれ。後ろの彼女たちもな」
促されるままにソファーに座ると、
「見るからに事情がありそうな4人だな・・・。ミィーナ。話とは彼女らのことなんだよな?」
「ええ」
それから、ギルマスにユイハさんたちの事情を説明した。今度は「召喚された」部分も含めて、隠さず全てを。
一通り話を終えると、
「・・・・・・一応確認だが、お前ら気がおかしくなったとか・・・、俺から金を巻き上げようとはしてない・・・よな?」
「ないです。これは全てユイハさんたちから聞いた話で、私たちは信じています」
「そう、か・・・。えっと、ユイハさん、といったか。今のミィーナの話は事実か?」
「はい。間違いないです」
「そうか・・・」
そう呟くと、分かりやすく頭を抱え、考え込むギルマス。
少しして、諦めたように顔を上げる。
「確認させてくれ。一旦、ダーバルド帝国に召喚された、という話は置いておくぞ。ユイハさんたちは、ダーバルド帝国から逃げ出し、クライスの大森林に入った。魔道具の力で、魔獣・魔物の襲撃から逃れ、何とか森を抜けた。そして、赤き英雄に拾われた、と。間違いないな?」
「は、はい。赤き英雄というのは、ミィーナさんたちのことですか?」
「ああ。こいつらの二つ名だ。話を戻すぞ。そして、君らは、カーラルド王国に保護を求めていると?」
「はい。私たちには頼るものがありません。ダーバルド帝国から逃げる際、カーラルド王国なら、私たちを保護してくれるかもと・・・」
「そうだな・・・。カーラルド王国とダーバルド帝国が敵対関係にあるのは間違いない。近いうちに、戦争になっても誰も驚かないくらいにはな。・・・だからこそ、ダーバルド帝国から逃げてきたという君らは、保護する対象というよりは、疑いの目で見られる」
「それは・・・・・・」
「俺は、今話してみて、その懸念は無いと思っている。それに、赤き英雄の目を疑う気も無い。しかし、国は違う。特に今は、中央はバタついてるからな・・・」
そう言って再び考え込むギルマス。ユイハさんたちは、ギルマスの判断を待つほかなく、不安げな表情を崩さない。
「ギルマス。ギルマスの古いお知り合いだという貴族様に話してみるのは・・・」
「・・・・・・無理だろうな。いや、話は聞いてもらえるだろうし、アイツは馬鹿じゃない。おそらく、この話の重要な部分には気づいて、保護に動いてくれる」
そう言うと、ユイハさんたちの表情が少し明るくなる。しかし、次のギルマスの言葉で、再び彼女たちの表情は暗くなった。
「だが所詮、やつは子爵だ。今回のゴタゴタで、伯爵に陞爵されるらしいというのは聞いてるが、それでもな・・・」
「子爵、それに伯爵ともなれば、かなりの力があるんじゃないんですか?」
「基本的にはな。だが、ことは戦争に関わる事案だ。1週間後の建国式典で、第3王子のダン殿下が軍務卿に就任するらしい。軍部の要職を占めるのは、そもそもが伯爵位以上の高位貴族ばかりだ。仮に伯爵になっても、その連中を相手にすれば劣る。後は、ダーバルド帝国の情報を集めている諜報部だが、これはバイズ公爵家が管理しているらしい。ということは、相手は公爵だ。伯爵だと、相手にもならんな・・・」
「そんな・・・」
「まあ、しかし。物は試しだな。やつも建国式典の前に王都に向かうらしいし、話くらいはできるだろう。とりあえず、王都に行って、やつと話してから考えるとするか。ユイハさんたちも、それでいいか?」
「は、はい。ご迷惑をお掛けするようで・・・」
「構わん構わん。君らの持っている情報は、国にとっても有益な可能性が高い。それを提供する対価として、この国に保護を求めたいというのは、本来、十分通る話だ。今回は、その相手がダーバルド帝国ってことでややこしいがな。要するに、交渉する相手に気を付ければいいってことだ。そのサポートをするくらいは問題ないさ。君らに、冒険者カードを発行する。能力を確認する暇は無いので、ギルマス権限での登録で、ランクは初心者ランクとする。それを持って、とりあえず、王都に向かおう。後のことは、着いてから考えるとしよう」
「はい!」
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