第230話:信じ難い事情
〜ミィーナ視点〜
『ブラッドウルフ』が本当に去ったことを確認し、救助した4人を確認する。
コニーたちが、依然周囲を警戒している。
「えっと、大丈夫ですか?」
私の声かけに対して、
「は、はい。ありがとうございます」
答えたのは黒髪の女性。瞳の色も黒なのは珍しい。
他の2人も同じく黒髪に黒い瞳だ。1人だけ、茶髪の女の子がいる。年齢は同い年くらい? ちなみに私は24歳だ。そろそろ結婚しないと危険な年齢に差し掛かっている・・・
それはともかく、彼女たちだ。彼女たちはどう見ても冒険者ではない。武器も持っていないし、防具も身に付けていない。2人が紺色の服を着ている。だがそのスカートは・・・、短くない? 膝より短いスカートなんて・・・
残りの2人は、1人が黒っぽい服なんだけど、下はズボンだ。元は白だと思うシャツの上に、黒い服を着ている。最後の1人は、ワンピースのような感じ。貴族のお嬢さんとかお金持ちの子が夜に着ているような感じだ。どう考えても外出する、ましてや町から出るときにする格好ではない。
こんなところに留まるのは、得策ではない。『ブラッドウルフ』が戻ってくるかもしれないし、別の魔獣・魔物が出てくるかもしれない。けど、彼女たちのことを聞かずに連れて行くわけにも行かない。
「えっと、私はミィーナ。それから、コニー、フーラ、メイル、カナラ。・・・それで、あなたたちは?」
とりあえず自己紹介をしつつ、名前を聞いてみる。
「あ、はい。私は長峰結葉です。こっちが藤嶋佳織。それと、田中碧さんに、安藤美緒さんです」
と名乗ってくれた。くれたんだけど・・・
名字!? それも全員!?
「し、失礼しました! 貴族様だとは知らず」
慌てて頭を下げたのだが、
「あ、頭を上げてください。貴族なんかじゃないです! すいません、私たちの住んでいたところでは、名字もあるのが当たり前だったんです」
「そ、そうなんですか?」
「はい」
話している感じ、この長峰結葉さんという女性が、4人のリーダーみたいだった。それぞれ、ユイハさん、カオリさん、アオイさん、ミオさんと呼ぶことになった。どうやら本当に名字に特別な意味があるわけではないようで、こちらに合わせて名前だけで呼ばせてもらうことになった。
それからユイハさんたちの事情を聞いたのだが・・・・・・・・・、にわかには信じ難いものだった。「ダーバルド帝国によって異世界から召喚され、逃げてきた」、要約すればこんな感じなんだけど・・・
「えっと、そしたら、ダーバルド帝国から逃げてきて・・・、クライスの大森林を抜けたってこと・・・ですか?」
「はい、そうです」
「それで、カーラルド王国に保護を求めたい・・・、と?」
「はい。ここはカーラルド王国、なんですよね?」
「そうです。カーラルド王国の王家直轄領の端っこです」
「そ、そうですか。よかったぁー・・・」
そう言ってヘナヘナと触り込むユイハさん。他の3人も安堵の表情を浮かべている。
ダーバルド帝国から脱出し、クライスの大森林の中を3週間近く彷徨った。そして、クラリオル山からクライスの大森林に流れる川に沿って北上し、どうにか森から抜け出した。それに安堵し、人や町を探していたところで、森の出入口付近を縄張りにしている『ブラッドウルフ』に見つかり、どうにかここまで逃げてきた、ということらしい。
納得、というか正直理解が追いついていないが、とりあえず事情は確認できた。
「それで、ユイハさん。これからどうしますか?」
「それは・・・・・・。私たちは、カーラルド王国に逃げて、そこで兵士さんとか役人さんに事情を話して保護してもらおうと考えていたんですけど・・・」
「・・・うーん。今の話をどこまで信用してもらえるか微妙だと思います。正直に言えば、私も完全に信じることができていないので・・・。証拠とかって無いですよね?」
「はい・・・。このまま逃げてきましたから。食料とかは使い切ってしまって・・・。森を抜けるための道具を貰ったんですけど、それも壊れてしまって」
「そうですか・・・」
「あの。ここから一番近い町は、どこになるんですか?」
「山の方に行けば、砦があるんですけど、冒険者でもないと入ることはできないですね・・・。町となると、徒歩で1日くらいの距離にオーバンという町があります。それほど大きい町ではないですけど。オーバンから馬車で1日くらいで、王都に行くことができます」
「そうですか。そのオーバンという町で、事情を説明できそうな人は・・・」
「うーん、どうだろう・・・。冒険者ギルドのギルドマスターであれば、話は聞いてくれると思いますけど、そこから国の方に話が上がるかどうかって言われると・・・」
「・・・」
どうすればいいんだろう・・・。ユイハさんの話をギルマスに伝えたとして、彼がコネを使って知り合いの貴族に伝えてくれるかは分からない。彼は優秀な人だし、こっちの話をきちんと聞いてくれる人ではある。貴族の子息と一緒に旅をしていたこともあるらしく、貴族への人脈もある。けれど、彼といえどもここまで突飛な話を、貴族に伝えようとしてくれるかは・・・
「ユイハさん。とりあえず、オーバンに行きませんか? ギルマスが話を信じてくれるか、貴族に話してくれるかは分からないですけど、希望はあります。それに、とりあえず町に行って衣服を揃えて、今後のことを考えた方が・・・」
「そう、ですね。そうします。町に行ってから考えてみます」
どのみち私たちも、オーバンへ帰る予定だった。歩みは少し遅くなるが、彼女たちの案内兼護衛として、オーバンまで連れて行くことにした。
♢ ♢ ♢
通常の1.5倍ほどの時間を掛けて、オーバンに帰ってきた。
いつもなら、顔馴染みの門番に冒険者のカードを見せて簡単に中に入るのだが、今日は少し違う。ユイハさんたちを中に入れる必要があるが、当然彼女たちはカードを持っていない。カードを持っていない人、例えば初めて村から出てきた人なんかは、税を払えば町に入ることができる。しかし、見るからに事情がありそうなユイハさんたちを、簡単に町に入れてくれるとは思えない。
「こんにちは、デント」
私が代表して門番の男に声を掛けた。
それに対して門番のデントが、
「おお、赤き英雄じゃねぇか。予定よりも帰りが遅かったな」
「ええ。少しね。そのことで相談があるのよ。ボンダンさんはいる?」
「隊長か? ちょっと待ってろ」
そう言うと、デントは奥へと入っていく。もちろんユイハさんたちのことは認識していたが、私の話というのが彼女たちについてであると悟り、何も言わずに奥に向かった。
少ししてデントと、年配の男性が奥から出てくる。ここの入り口を守る兵をまとめるボンダンさんだ。
「ミィーナが用があるっていうから来たが・・・、後ろの嬢ちゃんたちについてか?」
「はい。相談がありまして・・・」
「・・・いいだろう。付いてこい」
そう言って詰め所の奥にある部屋に通される。
ここは怪しい訪問者が来たときに、話を聞くための部屋だ。何を隠そう、最初にこの町に来たときにも私たちはここに通された。結論から言えば誤解だったのだが、当時暗躍していた盗賊に風貌が似ていたらしく、その聴取だったわけだ。その際は、同じラヴァの村出身の騎士が、私たちの身元を保証してくれたので事なきを得たし、件の盗賊はそれから直ぐに討伐された。
「よし。ミィーナ。説明を」
「はい」
それから私は、ユイハさんたちの事情を説明した。「召喚された」という部分を除いて。
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