第229話:救助
〜ミィーナ視点〜
赤き英雄。それは少し前に発生した魔獣・魔物の大量発生・大進撃を食い止めた、とある冒険者パーティに送られた二つ名だ。
二つ名を送られた、なんて大層なことに聞こえるが、実際は目立ってしまった私たちが、英雄に祭り上げられただけだったりする。
冒険者の多くは、自分の功績を誇示することが多い。冒険者にとって功績は、自分の力を証明し、新たな依頼を引きつけ、金を稼ぐ糧となる。だからこそ、強い魔獣・魔物を仕留めればそれをアピールするし、有名な盗賊を討伐すれば自慢する。
しかし、中には変な冒険者もいる。ひっそり暮らしたいとか、身分ある者がお忍びで冒険者をやっているだとか・・・。基本的にはそれは問題とならないが、問題となる場合もある。そういった目立つのを嫌う冒険者が、大きなトラブルを解決した場合だ。特に一般の市民にまで知られているトラブルであればなおさらだ。
私たち5人は、そんなトラブルと目立つのを嫌う冒険者の生け贄になった被害者だ。もちろんそれによって恩恵は受けているし、ゴールドランクという冒険者ランクに見合った実力は身に付けている。しかし、数百体以上の魔獣・魔物の襲撃を撃退し、都市を守った英雄として祀られるのは、少々・・・、いやかなり居心地が悪かった。確かに現場にはいたし、それなりの数の敵を倒した。しかし、一番功績を挙げたのは、あの時最前線で一人大きな剣を振り回し、強力な魔法を操っていた、あの色黒の大男である。
しかしどういうわけか、町へ戻ると彼の話は全く聞こえず、私たちが敵の大多数を倒したことになっていた。ギルドマスターには何度も本当のことを訴えたが、ランク審査に関係無ければ、人の功績を語っても違法ではないし、私たちが功績を挙げたことは事実なので諦めろと言われてしまった。
そうして付いた二つ名が“赤き英雄”だ。私たちの冒険者パーティの名前は“ラヴァの娘”だ。いや、もはや、だった、かな。最近では“赤き英雄”としか呼ばれない。私たち5人は、ラヴァという名の村で生まれた年の近い5人組で、そんなパーティ名を付けて、できたら村の宣伝でもと思ってたのに残念だった。
「ミィーナぁー・・・。そろそろ休もうよぉー」
そんな弱音を吐いてくるのは、最年“長”のカナラだ。村で数十年ぶりに産まれたという魔法が使える女の子。成長するに従い、その能力はどんどん向上した。ゆくゆくは王宮魔法師団に入れるかも、と村のみんなが期待していたのに、気づけば私たちと一緒に冒険者をしていた。曰く、ルールの多い魔法師団はお断り、とのこと。気持ちは分かるけど、魔法師団に入れば、高いお給料に加えて下位貴族の三男くらいとなら結婚できたかもしれない。
ただ、彼女のおっとりした性格を考えると、魔法師団は向いていなかったような気がする。
「カナラー。もう少しだから頑張ろうねー」
カナラを宥めるのは、いつも通りにメイルだ。メイルは最年少の元気な女の子。自分の身長よりも大きな槍を操り、敵を寄せ付けない。メイルはカナラのおっとりした雰囲気が合うのか、仕事外でもよく一緒にいる。
「みんな警戒して。何かいる」
先頭を歩き、索敵をしていたフーラが警戒を促した。フーラは生き物の魔力の細かな動きを感じる能力が高い。それを活かして、私たちの移動の際には先頭に立って、魔獣・魔物や盗賊の不意打ちに備えてくれている。
フーラの警告を聞いて、
「ミィーナとカナラは左。フーラとメイルは右に」
と、いつも通りの戦闘準備の指示を出すのはコニーだ。一応パーティのリーダーは私だが、戦闘時の指揮はコニーがとる。これは、私が剣士で、前に出て戦うのに対して、コニーは弓をメインに、カナラほどではないが魔法も使うので、後方から指示を出しやすいというのも理由だ。後は、私に戦闘の指揮をする能力が皆無なことも。依頼主との交渉やギルドでの交渉は得意なのだが、戦闘時に指示を出すのはどうにも苦手なのだ。
今日はゴブリンの巣があるということで、その討伐に来た。それ自体は簡単に終わり、楽な気持ちで帰路に就いていた私たちだったが、その帰り道で思わぬ敵の接近に警戒することになった。
この辺りは魔獣・魔物が多くないし、少なくともフーラが警戒を促すレベルの敵がいることは滅多にない。
そう思い慎重に進んでいくと、『ウルフ』の群れが見えた。
・・・・・・いや、違う。あれは単なる『ウルフ』では無くて、『ブラッドウルフ』だ。獲物を噛み千切り、返り血で真っ赤に染まることが名前の由来だと聞くが、その強さは確かなもの。それが10体近い群れを成している。
よく見ると、その中央には人がいる。おそらく女性が4人。種族は分からないが、見たことの無い服を着ている。しかし、その服はボロボロ。いや、彼女たち自身もボロボロだった。
「ミィーナ、どうする?」
コニーが小声で聞いてくる。私たちはまだ、『ブラッドウルフ』に気づかれてはいない。いや、気づかれていても連中の意識の外にいる。だから今ならば逃げられる。ゴールドランクの冒険者ではあるが、『ブラッドウルフ』の群れを相手にすれば、怪我をするリスクはそれなりにある。現時点では、逃げても私たちに何の責任も無いわけで・・・
「助けよう」
考えるよりも先に声に出ていた。4人も異論は無いようなので、できる限り『ブラッドウルフ』に気づかれないように近づいて行く。
責任がないとはいえ、助けるチャンスがあるのに、それを諦めるというのはどうも性に合わない。もちろん、それで仲間が傷つく可能性はあるが、それでも私たちは誇りを胸に活動したい。“赤き英雄”などという、不釣り合いな二つ名が付いてしまったときに、改めて5人で誓ったのだ。
ちなみに、“赤き英雄”の「赤き」とは、私たちの格好にある。活動を始めて、ある程度資金が準備できたところで、5人おそろいで装備を用意した。そのテーマカラーが赤ってわけだ。
『ブラッドウルフ』に囲まれた4人の女性に近づく私たち。後20メートルといったところで、『ブラッドウルフ』たちが私たちに威嚇をし始めた。
長い牙や爪を見せつけ、身体を震わせながら「近づくな」と警告してくる。
それを警戒しつつも無視しながら、
「あなたたち、大丈夫!?」
と声を掛ける。
すると4人中の1人、不思議な紺色の服を着た女性が返答した。
「大丈夫です! けど、このオオカミがしつこくて・・・」
見たところ、小さな傷はあるし、服もボロボロ。それにかなり汚れているようだけど、大きな怪我はしていないみたいだ。けれど、4人とも疲労困憊といった様子。少なくとも、『ブラッドウルフ』を倒せるとは思えない。
「合図したら、私たちの方に走って! カナラ! 私たちで『ブラッドウルフ』の足止めをするよ。3人は、彼女たちに迫ってくるのがいたら応戦して」
「「「「了解!」」」」
やることが決まれば、具体的な指示はコニーの仕事だ。そして、4人の女性たちも、こちらの指示を承諾した。
「今よ、走って!」
コニーが叫び、4人が私たちの方へと走り出す。
私、フーラ、メイルの3人が入れ替わりに『ブラッドウルフ』へと近づく。
走り出した彼女たちに、反射的に2体の『ブラッドウルフ』が飛び出した。1体はカナラの魔法で串刺しになって、直ちに瀕死状態になる。
もう1体が飛びかかり、一番後ろの女性に迫ったところを、私が剣で受け止める。
「ギィィン!」と鈍い音を立てて、剣と牙が交差し、『ブラッドウルフ』は身体を捻って後方へと戻る。しかしそこにはフーラが待ち構えていた。メイルが他の『ブラッドウルフ』が襲ってこないように牽制している間に、無理な姿勢から後ろへ跳んだため、着地の体勢が崩れた『ブラッドウルフ』の喉元を、2本の短剣で交互に切りつけ、その場に沈めた。
あっという間に2体が倒されたことで少し怯み、動揺している『ブラッドウルフ』の前に、カナラとコニーによる『火魔法』の『ファイヤーウォール』が現れる。高さ3メートルほどで、逃げ道は後ろのみ、そして上部は中心に向かって収束する形で、中にいる『ブラッドウルフ』にとっては火が迫ってくるように見えるであろう壁。
それが、私たちの最後の攻撃だった。
『ファイヤーウォール』ができるのと同時に、残りの『ブラッドウルフ』たちは、一目散に逃げ出したのだった。
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