第228話:謁見を終えて

謁見を終えた日の夜、ハールさんに呼ばれた。


近衛騎士の案内に従って部屋を訪れると、


「待っていましたよ、コトハ殿」


とダンさんが出迎えてくれた。

部屋の中を見ると、国王ハールさんと宰相アーマスさん、ハールさんの長男ベイルさんに次男のガインさんが座っていた。その後ろには文官風な人が数名と、近衛騎士の騎士団長であるグランフラクト伯爵の姿もあった。


「コトハ殿。ゴーレムについてなのですが・・・」

「待たんか、ダン。その話は後だ」


早速とばかりに騎士ゴーレムの話を始めたダンさんを制するハールさん。


「あ、失礼しました」


少し顔を赤くしながらソファーへ腰掛けるダンさん。彼の兄2人は呆れ顔だ。


ハールさんが仕切り直す。


「さて、コトハ殿。まずは、お疲れ様だな」

「ハールさんもね」

「ははっ。これまでの謁見の中では一番楽しかったがな」

「そうなの?」

「当然だ。口調もラフだし、下らん陳情も無い。それに最後の戦いは、武に疎い私の目にも素晴らしいものであった」


と感想を話すハールさん。

次にベイルさんが、


「それに、コトハ殿の対応、ああ、ゾンダルに対してです。その対応も良かったと思います。毅然とした対応に加えて、ご自身の力の一端も見せたこと。見ていた貴族には、かなりの衝撃だったと思います」


とのこと。

そういえば、ライゼルさんを受け止めたっけ。確かに、かなりの勢いで飛ばされた大男を生身で受け止めたんだから、驚かれるか。


「まあ、あれはね。そういや、ゾンダル子爵はどうなるの?」


と、気になったことを聞いておく。

答えたのはアーマスさんだ。


「そのことなんだがな・・・。少し迷っておる」

「迷う?」

「ああ。ゾンダル子爵家を取り潰すのは確定なのだが、その運び方だな」


わぉ。思ったよりあっさりと切られるんだね。

確かに私はもちろん、ハールさんのこともかなり舐めていたように思う。だから、それなりに重い処分が下るとは思っていたのだが、この短時間で取り潰しが決まるとは・・・


「運び方って?」


私の質問に答えたのは、今度はベイルさんだ。


「ゾンダル子爵本人を処刑するかどうか。するにしてもどのタイミングで行うかどうか。それを大々的に公表するか。今回の謁見が、建国前の非公式な謁見だった、という事情も相まって、前例もなく調整が難しいのですよ」

「・・・・・・なる、ほど? というか、処刑するんだ」

「選択肢の1つ、といっても9割方そうなると思います。あまりの不敬行為に加えて、重要な国防政策であるダーバルド帝国対策に、合理的な理由もなく難癖を付けたわけですからね。それに、そもそもが目立った能力も無く、権力欲だけは強い愚物でしたから。理由も無く潰せなかっただけで、その理由ができたのですからね」


とのこと。

そりゃあ、そうか。

貴族の処刑と聞くと、それなりに大ごとに思えるけど、そうなっても仕方のないことをしでかしたわけだ。そもそもの評価がかなり低かったみたいだが。

というか、彼には勝算があったのだろうか。

確かに、ライゼルさんがうちの騎士ゴーレムを倒す可能性はある。少なくとも、倒せると考えても不思議ではない。騎士ゴーレムの強さを余所でお披露目したことはない。サイル伯爵を助ける際には投入したが、あの時は目立った行動はしていない。私とポーラ、ホムラが目立ちまくってたし。うちの砦では、騎士ゴーレムはほとんど立ったままだし。

けれど、仮にライゼルさんが騎士ゴーレムに勝利したとして、ゾンダル子爵は許されたんだろうか。


気になったので聞いてみた。


「ねぇ。仮にさ、うちの騎士ゴーレムがライゼルさんに負けてたら、ゾンダル子爵はお咎め無しだったの?」


それに対する回答は、


「おそらく、そうではないだろうな。そもそも、1対1で勝利したからといって、コトハ殿がダーバルド帝国の対策を担う力がないとの証明にはならん。それに、そんな話は横に置いて、謁見の場で、国王と謁見の主役である大公との話を遮り、文句を付けたわけだ。たかが子爵風情がな」


と、アーマスさんの冷たい、キレ気味なものだった。

ちなみに、アーマスさんが怒っているのは、ようやく整えたカーラルド王国の貴族図を再構築する必要に迫られたかららしい。

しかし、


「だが、正直に言って、叙爵前にゾンダル子爵を排除できたのは僥倖だった」

「それは?」

「まず、やつの領地は元々カーラ侯爵家のものだった。だが・・・」


と口ごもるアーマスさん。

するとハールさんが、


「何も隠すことはない。私が、王家と少し揉めてな。その後、些細な失敗を大きく捉えられ、領地を一部返上させられたのだ。そして、ゾンダル子爵に与えられたわけだな」


と教えてくれた。

この「揉めた」というのは、ハールさんの長女で、今はラムスさんの奥さんであるミシェルさん。彼女を王子の側室にと考えた国王がそれを提案したところ、ハールさんが拒否したらしい。

これ以上は聞かなかったが、やはり貴族の結婚はドロドロし過ぎている。


結局、ゾンダル子爵家は取り潰し、厳密には新国家であるカーラルド王国ではゾンダル家に子爵位が与えられることはなくなった。ゾンダル子爵本人は現在絶賛拘束中だが、建国式典までの日程を考慮して、後に処刑されることとなった。そして彼の家族についても、一度身柄を拘束した後、国外追放とする予定だそうだ。

というのも、やはりハールさんたちも、なぜゾンダル子爵があそこまでの暴挙に出たのか気になるらしく、本人やその家族を取り調べる予定とのこと。


この処分に異論は無いので、私は任せることにした。



ゾンダル子爵の話題が終わり、騎士ゴーレムとライゼルさんの戦闘の話になった。ダンさんを中心に、「詳しい者が話を」というハールさんの言葉でグランフラクト伯爵も加わり、大盛り上がりだった。


話の中心はうちの騎士ゴーレムの強さについてだったが、私が、


「そういえばさ、ライゼルさんがなんでゾンダルに仕えてるか知ってる人いる?」


と聞くと、不思議な視線を向けられた。


「彼に興味があるのか? まさか・・・」


何やら目をぱちくりさせて驚くアーマスさんとハールさん。

その横では3人の王子が、何か焦っているけど、なに?


「どうしたの? 彼って優秀な冒険者なわけだし、あんな変なのに仕える理由が分かんなくて。可能なら、うちで雇いたいくらいだし」


と、疑問を話してみた。

すると、


「な、なるほど。そういう興味か・・・」


と、安堵するハールさんたち。

意味が分からん。・・・・・・まさかと思うけど、私がライゼルさんに気があるとか、そういう捉え方でもしたの?


「んんっ」


わざとらしく咳払いをして、仕切り直すアーマスさん。


「コトハ殿の言うように、疑問だな。優秀な男が、ゾンダル如きに使い潰されるのも癪だ。もちろん、ライゼル本人が心から望んでいるのならともかく、理由があれば・・・」

「アーマスおじさんの言うとおりですね。彼の戦闘能力は、近衛騎士上位かそれ以上。国として、あんな俗物の下にいさせるのは損失でしょう」


とダンさんも続く。

にしても、「アーマスおじさん」って・・・。

だが、言いたいことは分かる。一騎当千の戦力を有する者は一握りしかいない。そんな貴重な戦力を、あんな変な奴に使われていれば、国の損失になる。

まあ、ゾンダル子爵家が取り潰しになるのだから、ある意味彼は失業するのだけど。


「一応、マーカスになんであんなのに仕えているのか調べさせてるけど・・・」

「ふむ。上手くいけば、雇うつもりか?」

「ん? そうだよ。無理強いする気は無いけど、できるなら雇いたいかな。うちの騎士ゴーレムをあそこまで破壊してくれたのは、彼が初めてだし」

「なるほどな。残念だが、彼を勧誘するのはコトハ殿に譲るとしよう」

「ふふっ。国王に勧誘された方が嬉しいと思うけど?」

「かもな。だが、魔獣・魔物を多く相手にしてきた元冒険者なんであろう。であるなら、魔獣・魔物との戦闘が多いコトハ殿の下で働く方が魅力的なのではないか?」

「さぁ? 本人次第かな」

「そうよな」


ライゼルさんのいない場で、彼の勧誘に関する話は一段落した。

私たちは、ゾンダル子爵の下にいる理由がまともな理由ではないと決めつけているが、実際はどうか分からない。マーカスの調査によるが、まずは事情を確認しなくては。



 ♢ ♢ ♢



「そうだコトハ殿。先ほど渡した白金貨についてなのだが」


と、アーマスさんが話を変えた。


「白金貨? ああ、短剣の・・・。別にお礼とかよかったのに」

「いや、そういうわけにもいかん。あれほどの代物を送られておきながら、返礼もしないというのは、王家の威信に関わるからな。だが、金額が少ないのは容赦してほしい」


と、申し訳なさそうにするハールさん。

私としては、5億円も貰って驚いていたのだが、どうやら違うようだ。


「あの短剣の価値がいかほどかは正直、分からん。だが、国宝級の魔法武具の価値が、たかだか白金貨50枚というのはあり得ないだろう」

「そうなんだ・・・」

「ああ。だが、ランダル元公爵の反乱から始まった一連の騒乱、カーラルド王国の建国、建国に伴う王都整備や騎士団の整備などで、費用が嵩んでな。旧ラシアール王国の財政状況も酷く、引き継げた富も少ない。故に・・・」

「だから、気にしないでいいって。今後も仲良くしてくれたらそれでいいよ」

「そ、そうか。感謝する。今後の関係については、こちらからも是非そう願いたい」

「うん。これからもよろしく」


これは本心だ。

別にお金に困ってないし、そもそもあれはプレゼントだ。貴族的にどうかはともかく、お礼を期待してプレゼントを送るような現金な人にはなりたくない。

貴族連中の目からは、私が甘い、というかハールさんがケチに映るのかもしれないが、それはハールさんたちが考えることだ。それを承知で渡したんだろうし、私が気にする類いの話ではないのだ。


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