第232話:ギルドからの命令
〜ミィーナ視点〜
私たちは、冒険者ギルドが所有している馬車に乗って王都まで移動した。ギルド所有の馬車は、大規模な遠征などの場合に多くの冒険者を乗せることが想定されているので、かなり大きい。特にオーバンの町は、南はクライスの大森林に、西はクラリオル山に面しており、頻繁に強力な魔獣・魔物が出現したり、群れが現れたりする。そのため、複数の冒険者を同時に送り出すことも多々あるので、その際に使う馬車は、大きいものが用意してあるわけだ。
その大きさの反面、乗り心地はあまり良くないのだが、今回は人数も少なく広々使えるため、思い思いに背もたれなどを調整し、どうにか耐え抜いた。
王都に近づくと、同じく王都に向かっているのであろう馬車や冒険者の姿が多く見えてきた。王都へ入る門の前には長蛇の列ができており、並ぶだけでもかなりの時間がかかりそうだった。
それだけで少しゲンナリしてしまったのだが、
「今回は強権発動だな」
そう呟くと、ギルマスが御者をしているギルド職員に指示を出す。私たちの乗った馬車は、空いている貴族用の入り口へと向かうのだった。
入り口に到着すると、
「止まれー! ここは、貴族の方など限られた方々用の入り口だ。それ以外の者は・・・」
と、明らかに貴族の馬車ではないギルドの馬車が止められる。
しかし門番がそこまで言ったところで、
「ああ、分かってる。オーバンの冒険者ギルド、ギルドマスターのダインだ。職務に関する火急の報告がある。これが身分証だ。馬車の中にいるのは、護衛だ。確認を」
そう言って、ギルマスが遮った。
ギルマスの言葉を聞いて、門番も事情を把握したのか、
「失礼しました。お待ちを・・・・・・、確認しました。ダイン殿。入都を許可します。先導は必要ですか?」
「いや、不要だ。ありがとう」
♢ ♢ ♢
王都の中は人でごった返していた。数日後には建国式典が執り行われる予定で、それに合わせて国中から貴族や商人、その護衛として雇われた冒険者、関係なく遊びに来た人など、多くの人が王都に集まっている。その人たちを目当てに、屋台なども多く立ち並んでおり、大混雑だ。
ここ数年は、国単位での行事があまり無かったのもあって、みんな久しぶりのお祭り気分を楽しんでいる。
そんな人混みを避けるように馬車は、王都の冒険者ギルドへ向かった。
元々キャバンは、カーラ侯爵領の領都だった。経済都市であり、周辺にも多くの町があることから、キャバンの冒険者ギルドの魔獣・魔物の討伐依頼が出されることは少なかった。しかし、商人が多い関係で、護衛依頼や盗賊の討伐依頼はそれなりにあり、冒険者ギルドの建物も結構大きいものだった。
カーラルド王国の王都となったキャバンにおいても、冒険者の需要に大きな変化は見られないことから、区画整備がされている中でも冒険者ギルドは、同じ場所で同じ建物を使っているとのことだった。
馬車をギルドの裏手にある馬車の保管場所近くに止め、裏口からギルドに入る。時間は昼過ぎだが、王都がこの人混みでは、ギルドの中は人で溢れていることだろう。そんな中に入るのも面倒なので、ギルマスが裏へと馬車を回させたのだ。
裏口を通ると、出迎えた職人に案内させ、そのままここのギルドマスターの部屋に向かう。
ノックもそこそこに、扉を開けて中に入るギルマス。
「ララシャ。邪魔するぞ」
そう言ってズカズカと中に入っていく。
私たちは、少し申し訳なく思いながらも、後に続く。
「ダイン! いきなり何なの!? このクソ忙しいときに!」
そう言いながら、積まれた書類の山の間からギルマスを睨む、王都の冒険者ギルドのギルドマスター、ララシャさん。
「お久しぶりです、ララシャさん」
私がそう声を掛けると、
「ミィーナ? それにコニーたちも。元気そうね・・・。それから・・・・・・」
うちのメンバーが挨拶を返したのを確認してから、
「ララシャさん。お忙しいところすいません。彼女たちのことで、相談があるんです」
♢ ♢ ♢
「なるほどねー・・・・・・」
一通りの話を終えると、ララシャさんは椅子の背もたれにぐったりともたれかかりながらため息をつく。
「あの、ララシャさん?」
不安になって声を掛ける。
「ああ、ごめんなさいね。ユイハさんでしたっけ? それにカオリさん、アオイさん、ミオさん。話を聞いただけなら、到底信じられる話では無かったでしょうね」
「・・・・・・」
「けど、貴方たちを見たらねぇー・・・」
「どういうことだ?」
ララシャさんの反応が気になり、ギルマスが聞き返す。
「ん? ああ、そうか。私は半分『エルフ』の血が混じってるでしょ? そのおかげで、魔力の流れや特徴が見えるのよ。ユイハさんたち4人の魔力は、私の知ってるどの種族の魔力とも異なるわ。異世界から来たと言われれば、『なるほどね』って思うくらいには違うわよ」
なんと・・・
私たちのパーティには魔力が見える者はいない。ギルマスもそういうのは見えないはずだ。だから、ここまで気づかなかったが、魔力が異なっていたのか・・・
「ララシャ。それじゃあ、取り次いでくれるか?」
「ええ。けど、マイナムは子爵よ? こんな大事を扱えるのかしら・・・」
「それは分からん。だが、いくらギルマスといっても、いきなり高位貴族に押しかけて話を聞いてもらうなんて、自分とこの領主でもなきゃ無理だ。そうなると、俺たちの相手は国王ってことになるが、それこそ無謀もいいとこだ。どうにかマイナムから、上の貴族に話を通してもらうしかないだろ」
「そうねー・・・。幸いマイナムは、軍部系の仕事を担うことになりそうだって話だったし、可能性はあるわね」
「ああ。それでも無理なら・・・・・・、奥の手だな」
「ギルドとしての国との交渉要求? あんなもの出したら、本当に大事よね・・・」
「だが、俺はそれに値する事態だと思ってる」
「それは、そうね。ダーバルド帝国が召喚によって戦力の増強を図っているのだとすれば、こちらの予想外のスピードで戦力が増強され、攻めてくる可能性があるわ」
「そうだな」
そんな話をしながら、頷き合う2人。さすがは元々同じパーティで、一時は夫婦だったコンビだ。仕事の都合で別れたらしいが、息はピッタリだ。
「ミィーナ。くだらないこと考えてんじゃないわよ」
そう、お小言を言われてから、表情を引き締め、
「ユイハさん、カオリさん、アオイさん、ミオさん。あなた方4人を、正式に王都冒険者ギルドの保護下に置きます。ミィーナ。貴方たち冒険者パーティ、“ラヴァの娘”は彼女たちの護衛に付きなさい。話を聞く限りでは、その可能性は低いと思うけど、ダーバルド帝国が口封じに刺客を送ってくる可能性もあるわ。一緒に行動して、彼女たちを守るのよ。仮に襲撃者がいた場合は、襲撃者を殺しても構わないわ」
と命じられた。
「分かりました」
私たちは一斉に深く頷く。
これは厳密に言えば依頼ではない。冒険者には基本的に、どの依頼を受けるかを選ぶ自由がある。条件が悪い依頼なら、断るのも権利の1つだ。強制依頼というのもあるが、これは別枠。今回、私たちに課されたのは、緊急時に冒険者ギルド及びギルドマスターから、特定の冒険者に対して出される「命令」だ。この命令を拒むことは、怪我等やむを得ない事由を除き、許されない。それをすれば、直ちに除名される。
とはいえ、この「命令」が出されるケースは稀で、ギルドやその関係者に緊急の事態があって、特定の冒険者の関与が必要不可欠な場合に限られる。今回で言えば、それだけララシャさんが、この事態を重く受け止めていることの証左だろう。まあ、言われなくても守るつもりだった。
そして、
「ギルド3階の客室を4部屋貸し出すから自由に使って。ダイン。私たちは、マイナムの所へ行くわよ。直接頼んだ方が簡単だわ」
「そうだな。ミィーナ、お前ら。任せるぞ」
ギルマスにそう言われて、再度深く頷く。
それを見て、2人は慌ただしく部屋から出て行った。
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