第225話:性能の証明

私の提案にハールさんが応じるが、表情を変えないゾンダル子爵。

というか、今更だが私のこの主張は強引だな。相手は「騎士ゴーレムの能力が分からないから賛成できない」と主張しているのに、それを試した結果問題なければその主張を罰するというのであるから。

ただ、国王と大公の意見だし、そもそもどういうわけかゾンダル子爵は自信たっぷりだ。

さて、どうなるかな?



よほどの自信があるのか、何か別の事情があるのか、騎士ゴーレムに求められている性能が備わっていないと確信を抱いているように見えるゾンダル子爵の難癖によって、騎士ゴーレムの性能を試すことになった。


「して、どのように試す? 双方、意見はあるか?」


もはや楽しげに聞いてくるハールさん。

一般的に言えば、仮に私が負け、つまり騎士ゴーレムの性能が高くないことが示されてしまえば、私はもちろん、騎士ゴーレムの性能を信じて私を登用しようとしたハールさんやダンさんにとっても大きな失敗になる。見る目が無かったと恥をさらすのだ。


にも関わらず、そんな懸念を見せる様子が無いハールさんやダンさん。ベイルさんやガインさんは、そこまでの自信は無いのか、少し不安げだ。

そんな2人の王子の様子が、彼の自信を後押ししているのかもしれない。自信たっぷりなゾンダル子爵は、


「よろしいですか、陛下」


と提案を始める。


「ああ、申してみよ」

「はっ。この場にいる大公殿下のゴーレム。そのゴーレムと我が子爵領の騎士団最強の男による一騎打ちを提案いたします」

「ふむ、一騎打ちか。どうだ、コトハ殿?」

「いいよ、受ける。その騎士を、始末させればいいの?」


とりあえず煽っておく。

こんだけ煽って負けたら恥ずかしいどころの話ではないが、自信はある。それに、カイトの本気の攻撃に耐えたというのは本当だ。カイトの本気の攻撃を上回る攻撃を、その「最強の男」とやらができるとは思えない。というか、仮にできるのならば、是非ダーバルド帝国への対処をお願いしたいものだ。


もちろん、騎士と騎士ゴーレムの明確な違いである、経験や思考では「最強の男」に劣る可能性が高い。だが、それでも圧倒的な身体能力と装甲を上回ることは困難だと思う。これが複数同士での戦いなら危険かもしれなが、サシでの勝負なら、まあ、大丈夫だろう。騎士ゴーレムの思考回路部分についても、日々更新しているしね。


「ふふふっ。クルセイル大公殿下は、ご自身のゴーレムに相当な自信をお持ちのようですね」


と、まあ、当然乗ってくる。


「相分かった。では、準備をせよ」


ハールさんがそう言うと、貴族たちが後ろに下がり始めた。近衛騎士がそれを先導する。一方で、ハールさんたちの前にも、大きな盾を持った近衛騎士が並び始めた。ハールさんたちと貴族連中の間で模擬戦を行うため、それぞれ間違って攻撃が飛ぶのを防ぐためだろう。


ゾンダル子爵は一度部屋から出て行く。


その間にハールさんと少し話す。


「あの人、命知らずだよね」

「ゾンダル子爵か? そうだな。別にどうでもいいが、この場でコトハ殿の嘘を暴いた功績と差し引きで考えれば、許されるとの判断だろうな」

「あーなるほど」

「それどころか、処罰覚悟で国のために意見したことで貴族からの評価も上がり、私の評価は下がる。まあ、それが狙いだろう」

「でもさ、それって騎士ゴーレムに勝てることが前提だよね?」

「無論だ。そして、それは無理であろう?」

「まあ、多分。けど、絶対は無いからね」

「分かっておる。ただ、任せるだけよ。それと、できるなら殺さずに頼む」

「了解」



少しして、ゾンダル子爵が戻ってきた。装備を身に付けた、色黒の大男を連れている。


私たちの前まで来て、


「陛下、大公殿下。紹介いたします。我が領騎士団の騎士団長であり、元プラチナランク冒険者のライゼルです」


紹介されたライゼルさんは、その場に跪いてハールさんや私に向かって頭を垂れる。

プラチナランクって、確か最高ランクだったよね。冒険者ギルドのランクアップの自体は、それなりに長いこと冒険者を続けて依頼をこなしていけば、到達し得るらしい。しかし、見たところライゼルさんはまだ若い。おそらくマーカスよりも若いだろう。その年齢で、プラチナランクに到達しているということは、よほどの功績をあげたか、数をこなしたか・・・。いずれにせよ、かなり腕が立つのは間違いないだろう。


「あれは・・・」

「ライゼル殿か」

「いつの間にゾンダル子爵に仕えていたのだ」


ライゼルさんはそれなりに有名だったようで、彼を見た貴族がヒソヒソと話をしている。


「面を上げよ」


そう言われ、ゆっくり頭を上げるライゼルさん。


「それでは、準備を」



私たちは、左右に分かれる。


ライゼルさんの得物は大きな剣だ。マーカスたちが装備しているロングソードよりも、刃の幅は広く、長さも長い。とても片手で持つことはできそうにもない大きさだが、背負ったそれを片手で軽々と抜剣し、構えているのだから驚きだ。


こちらは連れてきた騎士ゴーレムの1体を出している。昨日改造した1体だが、連れてきた騎士ゴーレムの中では最新型になる。命令式は日々アップグレードされており、これには最新のものが使われている。


「双方準備は良いな?」


ハールさんが確認し、


「では、始めよ」


ハールさんの宣言と同時、あんな大きな剣を持っている人の動きとは思えない速さで、ライゼルさんが動き出した。軽く数歩踏み込んだ後、力強く踏み込んで跳躍する。45度の角度で跳び上がったライゼルさんは、上にいくにつれて剣を振り上げる。そして、落下し始めるのと同時に、身体の魔力が動いたのが確認できた。風がライゼルさんの背中を押し、落下の速度を上げる。


次の瞬間、「ゴギィィィン!!」という鈍い音が響き渡った。もちろん、ライゼルさんの剣を騎士ゴーレムが大盾で受け止めた音だ。

騎士ゴーレムは、一歩も後退ることなくライゼルさんの剣を受け止めた。しかし、その足下は、床板がバリバリに砕け、床に足が少しめり込んでいる。また、儀礼用の大盾だったので、カベアさんによって盾の表に施された装飾の一部が壊れてしまった。


攻撃を正面から受け止められたことに気づいたライゼルさんは、素早く後ろに跳躍し、距離を取る。

それに対して、今度は騎士ゴーレムが距離を詰めようとしたところで、再び魔力が素早く動くのが確認できた。

次の瞬間、ライゼルさんが『風刃』のような魔法を放った。下がるライゼルさんを追おうとしていた騎士ゴーレムはとっさに盾を構え直し、『風刃』を軽く受け止める。しかし、その間にできた隙を逃さず、ライゼルさんが騎士ゴーレムの後ろに回り込んだ。


騎士ゴーレムは、ライゼルさんの動きに気づいたようだが、丁寧に『風刃』を受け止めていたせいで、初動が遅れた。振り返りながら盾を構えようとし騎士ゴーレムの横っ腹に、ライゼルさんの剣が一直線に入る。


ライゼルさんの攻撃は、騎士ゴーレムの左の脇腹付近に取り付けてあった装甲部分の一部を破壊した。


「さすがに硬いか」


小さく呟いたライゼルさんは、再び距離を取る。

騎士ゴーレムは、装甲部分を破壊されたことは気にせず、接近を開始する。

ライゼルさんは先ほどと同様に魔力を高めて魔法を放とうとする。

しかし騎士ゴーレムは、同じ轍は踏まなかった。その場で盾を構えるのではなく、ライゼルさんが魔法を放つ前に接近し、大盾を正面から叩き付けた。シールドバッシュと呼ばれるような大盾特有の攻撃で、冒険者出身で大盾を使っていた経験がある騎士が教えてくれて、それを覚えさせたものだ。


騎士ゴーレムの動きが変わり、接近してきたことを認識したライゼルさんは魔法の発動を中止して空中に逃れようとする。しかし、ジャンプした際に残った右脚に騎士ゴーレムの大盾が直撃した。

勢い自体は跳び上がろうとしたライゼルさんの方が勝ったようで、どうにか空中に逃れることができたが、横方向の力が加わり、右脚にかなりの衝撃を受けた結果、空中で体勢を崩し、上半身から床に落下した。


その場で動きを封じようと再度接近する騎士ゴーレムに対し、跳び上がって背後に逃れるライゼルさん。しかし、右脚のダメージと落下の衝撃によって、剣を回収するまでには至らなかった。


ライゼルさんの行動を確認した騎士ゴーレムは、無難にライゼルさんの剣を遠くへ蹴り飛ばした。町中で暴れた者を取り押さえることなどを想定した場合、武装解除させるのは最優先かつ最も簡単な方法だ。そんなわけで仕込んでいるのだが、それを正しく実行した形になる。


「くっ」


騎士ゴーレムが剣を蹴り飛ばす前に剣を回収しようと一歩踏み出していたライゼルさんは、踏み込んだ右脚を引っ込めて歯を食いしばりながら呻き声を漏らす。


騎士ゴーレムは容赦せず、三度ライゼルさんに接近する。

ライゼルさんは騎士ゴーレムの大盾を警戒し、左右及び後方へ逃げる準備をしている。しかし騎士ゴーレムは、大盾を前面に押し出して接近した後、その大盾を引っ込め、空いている右手でライゼルさんの鳩尾を殴りつけた。


完全に不意を突かれたライゼルさんは、身体を綺麗な「く」の字に曲げ、後ろにはじけ飛んだ。


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