第223話:騒がしい貴族たち
初っ端から、ハールさんのフランクな声かけに私の謁見とは思えない受け答えのダブルパンチで、集まった貴族はパニック寸前だった。
一度はハールさんの言葉によって頭を垂れ、静けさを取り戻した貴族たちであったが、私たちの様子を見て違和感を感じたのか、疑問を口に出し、近くの貴族と何かを言い合っている。
そんな貴族連中を鎮めたのは、ハールさん・・・、ではなくアーマスさんだった。
「静まれぇぃ! 謁見中であるぞ」
そう重々しく発するアーマスさん。その瞬間、その場が水を打ったように静まり返る。
貴族たちは、自分らの行いに思い至ったのか、みんな顔色が悪い。
それを好機と捉えたのか、顔色の悪い貴族を無視して、ハールさんがとりあえず最初の話題を終わらせにきた。
私を真っ直ぐに見つめて、
「コトハ殿。今後も、クルセイル大公領の領主として、カーラルド王国発展に携わってくれ」
と伝えてくる。
私も、
「もちろん。これからもよろしくね」
と返し、最初のやり取りは終了する。
だが、これだけで多くの聡い貴族には、私とハールさんの関係がきちんと示される。最初の目的は達成されたのだ。
それを確認し今度は私の番。
「そういえばハールさん。今日は、友好の証としてお土産があるんだよね」
と告げて、事前に聞いていた通りに、サイドに待機している近衛騎士に合図を送る。
私の合図を受けて、2人の近衛騎士がハールさんたちに近づいてく。片方は豪華な装飾の施された木箱を大切そうに抱えている。
玉座がある段差の手前で立ち止まり、ハールさんの方を見る2人の近衛騎士。ハールさんが頷くと、段差の上に上がり玉座へ近づく。そういえば、許可無くこの段差の上に上がると、問答無用で近衛騎士に斬られるらしい。ハールさんたちの安全面と玉座の威厳を保つためなんだとか・・・
許可を得て上に上がった2人の近衛騎士は、玉座の側まで行って停止する。木箱を開け、手ぶらだった騎士が、その中からお土産の短剣を取り出す。そして、ハールさんに向かって頭を垂れながら恭しく手渡す。
短剣を受け取ったハールさんは、
「コトハ殿、これは?」
と聞いてくる。当然だが、ハールさんはこの短剣について把握している。これは、後ろの貴族向けだ。
「これは、うちの領で作った短剣だよ。魔鋼、という魔素を豊富に含んだ金属製で、魔法武具になるんだけど・・・」
と言いながら、この短剣の性能、特殊効果の内容、そしてうちの領でそれを生産・販売しているという宣伝文句を並べていく。
当然のようにざわめく後ろ側。魔法武具を売っていること自体は知っている者が多いようだが、その性能までは知らなかったのだろう。当然、ここまでの性能のものは売ってないし、見せてもいないしね。
今回はそれを狙っているけど、謁見としてそれでいいのか?と思ってしまうほどには騒がしかった。もちろん、一瞬ざわめいた後、直ぐに落ち着くのだが、本来はそれすらも許されないんだと思うし、不思議なものだ。
受け取った短剣をじっくり眺め、それをリアムさんに見せた後は後ろにいた王子3人にも渡す。特に興味を示していたのは当然ダンさんで、食い入るように短剣を見つめてから、何かを兄2人と話している。
王子たちの鑑賞タイムが終わり、混乱が落ち着いてから、
「コトハ殿。素晴らしい贈り物、感謝する。国宝級の魔法武具への礼、には少し足りぬが今後の領の発展に役立ててほしい」
ハールさんがそう言うと、近衛騎士ではない人が2人、文官っぽい人が台車のようなものを押してきた。
そこに積まれているのは金貨・・・、ではなく白光りする金貨より少し大きめな円形の板。確か、金貨の上の貨幣、白金貨というやつか。いくつかの貴重な金属を混ぜたものだと聞いた覚えがあり、見せてもらったこともあるが、かなり綺麗な代物だ。
それが50枚。数だけ聞くとしょぼく感じるが、後ろの反応を見る限りそれは誤りだろう。
「あれほどの白金貨が・・・」
「いや、先ほどの性能が本当なら、それでも安いのではないか?」
「やはり王家は力がある」
「我々もどうにか魔法武具を手に入れなくては・・・」
等々・・・
「魔法武具が欲しかったら、砦まで来てくれたら売るよー」と心の中で返事しながら、
「ありがたくいただくね」
と礼を言う。
私の返事を受けて、文官っぽい人が再び台車を押して、白金貨が下げられる。
まあ、この場で渡されても困るし、後で受け取ろう。
台車が下がると、直ぐに近衛騎士数名が台車を囲んで、白金貨を箱の中に入れ、それを運びだそうとしていた。その厳重な様子から、やはりかなりの価値があるのだと認識できた。
確か白金貨1枚で1000万円くらいだったと思うから、50枚で5億円か・・・。厳密には、金額に換算できないような取引に使われることや、国家や領の取引といった高額な取引の際にやり取りされることが多く、貨幣というよりは証券のような扱いがされているようだけどね。まあ、現金が必要なら白金貨を金貨と交換してもらえばいいのだし、今後他の領と取引する機会が増えてくれば使う機会もあるだろう。
幸いうちはお金に困ってないし、今回のやり取りは後ろの貴族に向けたパフォーマンスでもあるのだろうから、細かく考える必要はないだろう。
私のお土産に始まった混乱も落ち着き、ハールさんが最後の話に移る。昨夜のアレだ。
「ところで、コトハ殿。先ほどの素晴らしい短剣だけでなく、コトハ殿の後ろの騎士が身に付けている武具も魔法武具なのであろう?」
「うん。うちで作った魔法武具の鎧だよ。置いてきたけど、もちろん剣もね」
「ふむ。クルセイル大公領の騎士団は、魔法武具を装備しているわけか?」
「そうだねー・・・。少し前に、全員分の魔法武具が用意できたんだよね。今は、実際に使ってみた感想を参考にしながら、改良しているところかな」
と、分かりやすくうちの騎士団の装備について説明する私たち。
さらに、
「そうか。そして、コトハ殿らを守っているその、ゴーレムは?」
「ん? 私が作ったゴーレムだけど・・・」
「作った、か。良ければ、その性能を教えてはくれぬか?」
「性能、か。そうだね・・・。ここに連れてきてるのは防御特化かな。持ってる大盾も魔法武具だし、装甲もそれなりの強度があるよ。言って伝わるか分かんないけど、普通の騎士の攻撃よりは遥かに威力の高い攻撃ができるカイトの攻撃を、それも本気の攻撃を複数回、正面から受け止めることができるよ」
と、騎士ゴーレムの紹介まで。
もちろんこの説明だけで性能の詳細が伝わるとは思えないが、こちらとしては説明したという事実があれば十分だ。そして、ハールさんにとってはその事実があれば、次の話に繋げることができる。それに、おそらくハールさんはカイトの戦闘能力について、ある程度の情報は持っているのだろう。アーマスさんやラムスさんが、カイトやポーラのことを報告していないはずがないからね。
私の説明を理解したのかしていないのか、それ以前に「私が作った」というところが引っかかっているのか分からないが、貴族のざわめきは収まらない。
しかし、ハールさんが話そうとする気配を察すると直ぐに静まりかえるあたり、さすがは貴族といったところなんだろうか。ハールさんやアーマスさんも、こうなることは想定していたのか、少し顔を顰めるだけに留めている。まあ、私には関係ないしどうでもいい。
貴族が静かになったのを確認してから、
「コトハ殿。頼みがある」
とハールさんが口を開いた。
もちろん内容は知っているが、返事は当然、
「頼み?」
と、その説明を促すものになる。
「ああ。そもそも、我々とコトハ殿との関係は特殊だ。コトハ殿に対し何ら命ずる権限は無い」
「そういう約束だったよね」
「それを違える気など到底無い。だが、これだけの戦力を保有するコトハ殿を無視して国防を考えることなどできない。そこで、コトハ殿には我が国の南方の守護を担ってもらいたいのだ」
私とハールさんとの関係や取り決めについては、事前にある程度の説明があったらしく、それほど大きな反応は無かった。いや、内心何思ってるかは分かんないけど。
ハールさんの提案に対する貴族の反応は、2つに割れた。
1つ目は、好意的な反応。うちの戦力を理解したからなのか、面倒ごとを押しつけることができると考えたのかは分からないが、私が国の南方を守ることを喜ばしいことだと考えているようだ。
2つ目は当然、否定的な反応。先ほどの注意もあってか、反対意見を声高に叫ぶ馬鹿はいないが、漏れる声や視線に敵意を感じるものがいくつかある。というか、いくら反対でも国王の提案を横から別の貴族が反対するなど普通はできないよね・・・
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