第222話:謁見へ

待機室に移動し、そこで出されたお茶とお菓子を楽しむこと少し、ここまで案内してくれた近衛騎士の騎士団長グランフラクト伯爵が部屋に入ってきた。準備ができたそうだ。

そういえば、騎士団長で、しかも伯爵位をもつ人に案内なんかさせていいのかと思ったが、ハールさんから「最も大事な相手である」と言われて、直接対応するように指示されたとのこと。グランフラクト伯爵自身も、ハールさんの重要な客の案内をすることは名誉なことだと思っているらしく、気にするどころか光栄だと言われてしまった。


待機室から出て、角を曲がると目の前には大きな両開きの扉が現れた。その大きさは、5、6メートルはある。ここまでの道はやたらと天井が高いと思っていたが、その理由はこれにあったようだ。おそらく大きな作りになっている謁見の間とその扉、それに続く道として、天井も高くなっているのであろう。


扉の左右には近衛騎士が4人ずつ直立している。その内の1人に、グランフラクト伯爵が合図を出すと、大きな扉の横にある通用口のような小さな扉を開けて、中に何かを伝える。


「これから名前が呼ばれます。そして扉が開きますので、中へお入りください。私はここまでです」

「分かった、ありがと」


そう言うと綺麗な礼をして、少し離れるグランフラクト伯爵。

マーカスの指示で、騎士ゴーレム2体が先頭へ移動し、私がその後ろに、ちょうど2体の間の位置に移動する。カイトとポーラがその後ろに、更に後ろにマーカスとジョナスが並び、最後に残りの2体の騎士ゴーレムが並ぶ。


並び終えると、


「クルセイル大公領、領主。コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイル大公殿下のお成りでございます!」


との紹介が、大音声で響き渡った。

そして、ゆっくりと、重たい音を立てながら両開きの扉が開く。

扉の両サイドにいた近衛騎士が半身でこちらに向き、敬礼する。


それを確認してから、ゆっくりと歩き始めた。



 ♢ ♢ ♢



重厚な扉をくぐり抜けると、煌びやかで大きな部屋に出た。

入り口から真っ直ぐに赤い絨毯が敷かれており、その行き着く先には少し高い位置に設置された2つの椅子。そこには昨夜会った2人が座っている。当然ながら国王のハールさんと、その妻の王妃リアムさんだ。

そして、2人の座る場所、玉座へ至る赤い絨毯の両サイドには、近衛騎士が等間隔で並んでいる。その外側には、それぞれ派手な衣装を着たおじさんが多数。・・・少しだけ女性もいるか。まあ、この国の他の貴族だろう。


謁見にはいくつかスタイルがあるらしい。

その違いは、どれだけの貴族が参加するか、できるかというのがメインだが。今回のように国中のほとんどの貴族が参加して行われるもの、重要かつ機密性の高い内容のため一部の高位貴族など限られた者のみが参加できるもの、国王とその最側近や護衛以外の貴族が参加できないもの、というのが大きな区別だ。最後のやつは、執務室などで行われることが一般的だが。

その上で、参加する貴族に発言権が与えられているか、与えられているとしてどの範囲に認められているか、貴族に認められる同行者の数等々・・・。厳密に分ければキリがないが、まあ、それはどうでもいい。

大事なのは、今回は国中のほとんどの貴族が参加しているという事実だ。


まあ、この謁見の目的を考えればそれも当然か。私やカイトたちの顔見せ、私とハールさんの親密さのアピール、うちの戦力の公表。これらが今回の目的なわけだが、どれも多くの貴族を参加させるほど目的が達成される。


「あれが・・・」

「まだ、子どもではないのか?」

「ほぉ、美しい」

「やはり孫を婿に」

「あれは何だ」

「本当にゴーレムか?」

「綺麗な装備だ」

「恐ろしい・・・」

「大したことはなさそうだな」

「身の程を弁えてもらいたいものだ」


事前に確認した速度でゆっくりと進んでいくと、そんな声が聞こえてくる。

様々な視線に晒されることは分かっていた。好意的なものもあれば、否定的・敵対的なものもある。こちらを侮るものもあれば、恐怖するものも。そして一部、この場で消してやりたいような声も聞こえてくる。

だがここは、強いスルースキルで無視していく。


というか、どれも想定内だ。昨日、ハールさんたちからも聞いていたし、レーノからもいろいろ聞いている。全てがその予測の範囲内であったので、特に表情を変えることもなく進むことができた。カイトとポーラにも、その予測を伝え、全て無視して気にしないようにと伝えてある。カイトは分かっていれば対処可能だし、ポーラは「魔獣の鳴き声みたいなものだと思っとく!」と言っていたので、まあ大丈夫だろう。

ポーラには、魔獣の鳴き声が聞こえたならば気にしてほしいのだけどね・・・



そうして進んでいくと、近衛騎士が絨毯の両サイドに並ぶのではなく、横に広がって並んでいる場所までたどり着いた。貴族は近衛騎士に囲まれた区画の中にいるので、さながら近衛騎士がレッドカーペットを歩く有名人を守る柵のようになっていた。


そこまで行き着くと、先頭を歩く騎士ゴーレムが横に広がって止まる。そして、私たちを囲う四つ角に仁王立ちになって、それぞれが真ん中にいる私たちに背を向けるように身体の向きを変え、大盾を地面に突き刺すように下ろす。胸下から身体を覆う様に大盾を構えた感じだ。


騎士ゴーレムが左右に捌けて開けた前方には、向かって左側にある玉座に座るハールさんとその横で同じく椅子に座るリアムさん、そしてハールさんの後方には3人の王子が控えている。


事前に決めてあった動きに従い、私たちは立ち止まる。普通ならここで跪くのだが、私たちはそうしない。その場で頭を下げるだけだ。カイトとポーラは、私よりも深く頭を下げるが、同じく跪くことはしない。当然だが後ろの貴族がざわめくが、そんなもんは無視だ無視。礼をする相手にそれでいいと言われてるんだから、後ろでごちゃごちゃ言われても知らん。


次に、通常なら国王の側近が話し始める。その内容は場合によるが、何か功績を称えられる場合にはその内容を、報告のために来た場合にはその概略が発表される。読み上げを専門の職とする人もいるというのだから驚きだ。

しかし今回は違う。今回話し始めたのは、


「よく来たな、クルセイル大公。いや、いつも通りコトハ殿、と呼ばせてもらおう」


国王であるハールさん本人だった。当然ざわつく貴族たち。だがハールさんは、そんなのお構いなしで話を続ける。


「それにカイト殿とポーラ殿も。歓迎しよう」


普通はあり得ない、謁見する本人以外に対する声かけまで行われる始末。後ろの貴族はパニック寸前だった。

カイトとポーラは再び頭を下げることで返すが、後ろの貴族の目には入っていないのだろう。

もちろん、そうではない貴族もいる。向かって左奥に控えているアーマスさんはもちろん、既に挨拶済みの6人の高位貴族たちだ。逆に、それ以外の貴族は理解が追いついていないようだけどね。


ハールさんから話しかけられたのだから、私は答えなければならない。それは、普通に会話するのと同じなのだが、ここが一番難しいポイントだった。いや、難しいというよりは、後ろに与える衝撃が大きい、かな・・・


「こんにちは、ハールさん。今日はお招きありがとう。カイトとポーラ共々、お招きに感謝するわ」


と返す。

そして予想通りざわめく後ろ。

中には、「無礼な!」と叫ぶ勇気のある、いや、ある意味当然の反応を示す者もいた。

しかし、それはやってはいけないんだよ・・・。今回は、あなたたちに発言権は無いのだから・・・


その発言に対し、


「貴殿らには事前に、発言は認めないと通達しておったと記憶しておるが?」


そう、重々しく話すハールさん。

それにより、ざわついた室内が一気に静けさを取り戻し、冷たい空気が流れた。私が習った知識によれば、そもそも国王自ら咎める様な発言をすることが異常なわけだ。そして、その内容は叫んだ貴族を糾弾するもの。

当然、叫んだ貴族を見れば顔面蒼白。周りの貴族が巻き込まれるのを警戒して距離を取ったので、1人浮いた形になっている。


おそらく、叫んだ貴族にとっては永遠とも思えるのであろう、実際は数十秒の間を開けて、


「だが、貴殿らの驚きも理解できよう。今回に限り、その行いに目を瞑るとしよう。コトハ殿もそれでよいか?」


と、私に話を振ってくるハールさん。「巻き込むなよ!」と叫びたくなったが、これも計画通りなんだろうと諦め、


「私は別に。任せるよ」


と、再度投げ返す。

これも予想通りだったようで、


「そうか。では、ドムソン伯爵の行いには、今回に限って目を瞑ることとしよう。そして、貴殿らに伝えよう。見ての通り、余と余の家族は、コトハ殿とその家族ととても友好的な関係にある。貴殿らには、それを理解するように期待する」


と宣言した。

その宣言に対し、内心でどう思っているかはさておき、一斉に頭を垂れる貴族一同。

こうして、謁見がスタートしたのだった。


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