第216話:情報収集

〜藤嶋浩也 視点〜


デストンたちと歩くこと小一時間、先ほどクシュルと分かれたマカラの町の門の前に到着した。

先ほどよりも列は短くなっており、直ぐに俺たちの番になった。


「よし、次だ・・・って、デストンか。どこへ行ってたんだ?」


門番の男がそんな風にデストンに声を掛けた。


「よぉ、トリーグ。ちょっと野暮用でな。それで、こいつの事なんだが」

「ん? セリスにムランはいつも通りだが・・・、そいつは誰だ? 新しいメンバーか?」

「ああ、そうなる。だが、今は身分証が無い。俺が税を立て替えるから、一緒に入っても構わないだろ?」

「ああ、そうだな・・・。・・・いや、悪い。少し待ってくれ」

「ん? なんだ?」

「悪いな。ここんところ、ダーバルド帝国といろいろあるだろ? そのせいで上が疑心暗鬼になっててなぁ。少し話を聞かにゃならんのよ」


そう言って俺は、門番の男、トリーグさんに連れて行かれそうになったのだが・・・


「待たれよ、トリーグ殿」


待ったが掛かった。


「ん? ・・・って、クシュルの旦那!?」

「ああ。そこの彼は心配ないぞい。儂も助けられたでな。儂が保証するのでな、入れてやってくれ」

「あ、ああ。あんたがそう言うのなら、まあ・・・、いいか。君、直ぐに身分証を作るんだぞ」

「は、はい」


そう言うと、俺たちは呆気なく門の中に入ることができた。



「それで・・・、なんでヒロヤとクシュル商会の商会長が知り合いなんだ?」


門から離れて最初に口を開いたのはデストンだ。

俺が何と答えようか迷っていたところ・・・


「はは。デストン殿、でいいかな? 儂は君らの事情は知っとるでな」

「なっ!?」

「ははっ。気にせずとも良いぞ。詳しくは言えぬが、彼がカーラルド王国に行くことは、儂らにとっても利のあることゆえな。何なら、儂らの商隊の護衛として向かうかのぉ? いいカモフラージュになるぞい?」

「・・・・・・あんたが、ただの商会長じゃないってことは分かったさ。・・・そうだな、ありがたく世話になろうと思う。先にヒロヤの冒険者登録を済ませてくるから、その後であんたの商会に行くが、構わないか?」

「おお、よいぞ。では儂は先に行って待っておこう」

「ああ」



 ♢ ♢ ♢

〜クシュル視点〜


ふむ・・・。何かありそうだと思い監視させていましたが、まさかデストン殿と合流するとは。それも、偶然ではなく示し合わせてあった様子。

状況から考えてヒロヤ殿がダーバルド帝国からの脱走兵であることは疑いようがないですが、他にも何かあるのでしょう。



先ほど帰ってきたベードとウォルシュの報告と照らし合わせて考えてみますか・・・


「ファリオン。どうですか?」

「ん? そうだなぁ・・・。ノイマンの町が陥落したことは確実だな。今も数百人規模のダーバルド帝国軍が町には残っている。それと、町を落とすのに要した時間は精々が半日だな」

「半日、ですか? ノイマンはかなり大きな壁に囲まれていたはずですが・・・・・・。裏切りでも起きたのでしょうか・・・」

「いや、違うな。圧倒的な威力の魔法で壁が破壊された、というのが一番信用性の高い情報だ」

「魔法ですと!? んんっ、失礼。・・・・・・にしても、あの壁を破壊できるような高威力の魔法を使える者が、ダーバルド帝国にはいるというのですか?」

「ああ。ベードたちが聞いたところによれば、もの凄い勢いの炎の渦が壁を破壊したそうだ。その渦は、壁を貫いてそのまま後ろの建物まで潰したそうだぞ?」

「そんな、馬鹿な・・・」

「ああ、俺もそう思う。うちの魔法師団でもそんなことできるやつはいないだろう」

「・・・やはり、ヒロヤ殿にもっと詳しく話を聞く必要がありますね。我々の身分を明かしてでも」

「ヒロヤって、昨日の青年か?」

「ええ。彼はデストン殿たちと合流していました。それも予め計画されていたようです」

「なるほどな・・・。デストンと・・・。・・・・・・うーん、やはりもう少し調べる必要があるか」

「はい。私は、ヒロヤ殿を加えた彼らの一行を護衛に雇って国に帰ることにします。その道中で、話を聞いてみるとしましょう。あなたは・・・」

「ああ。ノイマンに行ってみるさ」

「気を付けてくださいね」

「任せろって。それと、ようやくノイマンの事態がジャームル王国にも伝わりだしてるみたいだ。ノイマンにいた兵士で脱出できた者はいないようで、町を管理している役人の1人がなんとか脱出して、マカラで報告したらしい」

「そうですか・・・。その前にヒロヤ殿が町に入れたのは運が良かったですね」

「だろうな」

「ダーバルド帝国は、ノイマンに数回仕掛け無様に逃げ帰っていました。そして、今は西にあるアーカンに狙いを定めていると思われていましたからねぇ・・・。近くに大規模な陣を敷いていましたし、国境沿いを守護するザカラス辺境伯も、アーカン周辺に軍を集めていました。完全な不意打ちですね」

「ああ。だが、これまでの情報では、アーカン近くに配置されているダーバルド帝国の本隊を動かさずに、ノイマンを攻めるのは不可能だと思われていた。それが、この有様だ」

「結局、そこなんですよね・・・。とりあえず、国への火急の報告と、現時点での詳しい報告はお任せください。実際に調査した者としてベードも連れていきます。願わくばヒロヤ殿にも証言してほしいですが、それは成り行きに任せましょう」

「そうだな。俺はウォルシュと一緒に探ってみる」

「了解です。お任せします」



 ♢ ♢ ♢



『フェイヤー』と呼ばれる小型の鳥型の魔獣。情報の伝達には最適な魔獣です。

そんな『フェイヤー』を従魔にしている部下に指示して、国に情報を送りました。

『フェイヤー』の飛行速度なら、2週間程度で王都キャバンに到着するでしょう。ここからキャバンまでは、馬車で向かって大体1か月。私たちが王都へ到着したら、更に詳しい報告をするとして、ダーバルド帝国がノイマンを落としたことはできるだけ早く伝える必要がありますからね。



数時間後、無事にヒロヤ殿の冒険者登録を完了した様子のデストン一行が商会を訪ねてきました。部下に指示を出して応接室へと案内します。


「ようこそ、デストン殿、セリス殿、ムラン殿、そしてヒロヤ殿」


応接室のソファーに座るように促します。

おそらく私の口調が普段と違うことに戸惑っている様子の4人は、ぎこちなくソファーに座りました。


「く、クシュル・・・殿? で、いいんだよな?」

「ええ、デストン殿。間違いなく、私がクシュルです。普段の口調は、私の見た目と合わせて、クシュル商会の商会長としてのイメージ作りですのでお気になさらず。あなた方の粗暴な口調と同じですよ」


そう言って微笑みかけます。私の言葉の意味を理解している3人は、少し顔を引きつらせています。ヒロヤ殿だけは、事情が把握できていないようで、呆けていますがね。


「は、はぁ・・・・・・。そうかよ・・・。よし、あんたと化かし合いするつもりは無いし、面倒なことを考えるのは止めるか。単刀直入に聞くが、あんたはカーラルド王国の間諜だな?」

「ええ、その通りです」


さすがはデストン殿。確信を得たのはたった今かも知れませんが、前々から探っている様子がありましたし、私もまだまだですね。


「え? クシュルさん・・・?」


戸惑っている様子なのはヒロヤ殿のみですね。お三方の間では情報が共有されていたのでしょう。


「申し訳ありません、ヒロヤ殿。デストン殿の仰る様に、私はカーラルド王国に属しています。クシュル商会の商会長であるのも事実ですがね。昨日ヒロヤ殿にノイマンの町での出来事を伺ったのは調査の一環でした。騙したことをお詫びいたします」

「い、いや、それはいいんだけど・・・。クシュルさんは、スパイってことか?」

「ええ、そうですね。といっても、その対象はジャームル王国ではなく、ダーバルド帝国がメインですがね」

「そ、そうか・・・」

「それで、クシュル殿。俺たちのことも知ってるんだよな?」

「ええ。ダーバルド帝国3大貴族家が1つ、ボリャーボラン公爵家の次男である、デラザー・ボリャーボラン様?」


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