第215話:目立つ格好
〜藤嶋浩也 視点〜
「ヒロヤ殿、ヒロヤ殿」
・・・・・・ん?
そんな声で目を覚ます。目の前に居たのは・・・・・・・・・、おじさん、か。正直嬉しくないが、まあ、それはいい。というか、乗せてもらった恩がある相手に対して、失礼だったな。
「ああ、クシュルさん。すまん、寝てたみたいだ・・・」
「気にせんでよいぞぉー。マカラの門前に到着したでな。さすがに馬車に乗ったままでは通れんのでなぁー。すまんが馬車から降りとくれ」
「分かった、ありがとうな。俺は町には入らず、町の入り口近くにいるはずの人を探すよ」
「ん? 町の外に、か? ・・・・・・そうかそうか。それはすまんかったなぁ。もう少し早く起こせば良かったかのぉ」
「いやいや、そんなことはないさ。ここまで乗せてくれて助かった。礼を言う」
「構わんよ。機会があればマカラの町にある儂の店に寄ってくれなぁ。そのままクシュル商会というでな。儂がおるかは分からんが、店の者には伝えておくでな」
「ああ、分かったよ。ありがとう」
俺は他の人たちにも礼を言って馬車を降りた。
そこはマカラに入るための門の前で、馬車の前方には10人くらいが並んでいた。
その列から外れ、町とは反対の方向に進む。
ロメイルの話では、デストンという名前の冒険者が俺を見つけて近寄ってくるだろうとのこと。馬車に乗っていたのでは気づかなかっただろうし、俺はデストンという男を知らない。左目に眼帯をして、大きな剣を背負っているとの情報しか与えられていないので、こちらから探すのは無理な話だ。
そんなわけで馬車から離れて30分ほど、ぶらぶら歩いていたところ、
こちらに向かって歩いてくる人たちが見えた。近づいてくるのは3人。先頭を歩くのは、左目に眼帯をして何かを背負った大男だ。その後ろには露出の多い格好の女性と、クシュルの馬車の近くで見た護衛の様な格好をしている細身の男が続く。
「失礼。俺はデストンというのだが・・・、貴殿の名前を聞いてもいいだろうか?」
話しかけられて焦ったが、デストンさんで間違いなさそうだ。
そう思い、名乗りつつあの合い言葉を伝える。
「えっと・・・、ヒロヤです。確か・・・、『赤い空と黄色い森』。ロメイルさんからです」
「・・・ふむ。承知した。同行願えるかな? ここでは少し目立つ」
♢ ♢ ♢
デストンさんたち一行に連れられて、街道から逸れた森の中に移動した。
どんどん人けが無くなっていくので怖くなってきたが、ここまで来たらロメイルの話を信じるしかない、よな・・・
「よし、着いたぞ」
そう言って到着したのは、テントが2つ張られた少し開けた場所。3人はそこに荷物を置いて、
「さて、改めてヒロヤ殿。俺はデストン。こっちがセリスで、こいつがムラン」
「ああ、よろしく。それで、デストンさんが俺を逃がしてくれるって・・・」
「ははっ。呼び捨てで構わんさ。むしろ、呼び捨てのが居心地がいい。それはともかく、これからのためにも、呼び捨てにしてくれ。セリスとムランもだ」
そう言うと2人が後ろで頷く。
にしてもセリスさんの格好、かなり目のやり場に困るな。ビキニアーマーっていうだっけか? 胸元や腰回りには金属っぽい鎧が取り付けられているが、それ以外の場所はかなりの面積が肌色だ。肘先や膝先には、グローブやブーツを身に付け、肩から全身を覆うようにマントを羽織っているが、それでも動く度にマントの中が見える。
「ほーん、ヒロヤ殿は、セリスの格好が気になるのか?」
「へっ!? い、いや、その・・・。俺のいた世界では、あまり見ない格好だったから・・・」
「なるほどな。だが、慣れておいた方がいいぞ。ここまでなのは珍しいが、似たような格好をしている女性は多い。セリスの様に素早さに重きを置いたタイプは、動きを重視してこんな格好をしている者も多い。まあ、腹は隠せばいいとは思うんだけどな・・・」
「あのねぇ、お腹守るために金属の鎧なんか取り付けたら重すぎて動きにくいのよ! 皮の鎧をお腹に着けても、防御面ではあんまり意味ないし、だったらこの方がマシなのよ」
「そうかよ。まあ、本人がいいなら文句はねぇがな。・・・それで、だ。ヒロヤ殿・・・、俺もヒロヤでいいか?」
「ああ、もちろん」
「感謝するぜ。これからヒロヤをカーラルド王国に連れて行くわけだ。・・・で、いいんだよな?」
「ああ。その国に俺と一緒に召喚されて、先に逃げた妹とその友だちが逃げているって聞いた。俺は2人を探さなきゃなんねぇ」
「よし、分かった。そしたら、4人でカーラルド王国へ向かう。お前さんは、うちの冒険者パーティの新メンバーってことになる。これからマカラに入って、冒険者ギルドで冒険者登録をする。そして、冒険者として活動しながら北へ向かい、ジャームル王国を抜けて、カーラルド王国に向かうことになる」
「・・・・・・冒険者登録ってのをするのか? それに活動しながらって、時間が掛かりそうだが・・・」
「ああ。詳しくは道中で説明するが、現在ジャームル王国内は厳戒態勢でな。特に王都のグーベックより西側はピリついてる。穏便に通り抜けるには、冒険者として適度に活動していくのがいいのさ」
「そ、そうか。分かった、従うよ」
「助かる。それと先に言っておこう。俺たちに恩義を感じる必要は無いし、感謝する必要も無い。俺たちには、お前さんをカーラルド王国に連れて行く義務があるからな」
「・・・義務?」
「ああ。詳しくは話せんが、ダーバルド帝国がお前さんにやったことの償いだとでも思ってくれ。償いきれないのは重々承知しているが、命に代えてもお前さんを連れて行く。その後も、できる限り協力するつもりだ」
「・・・・・・ロメイルさんといい、あんたらといい、分かんねぇな・・・。とりあえず、よろしく頼むよ」
「おう。それから、道中でお前さんの力の使い方も教えてやろう」
「力?」
「ああ。魔法使いに手をかざされると、身体能力が増すんだろ?」
「なんで知って・・・」
「それは追々な。それを、自分で発動できるようにってことさ。しかも、そのコントロールも上手くなる。少なくともしばらくは、この世界で生きて行かざるを得ない。申し訳ないがそれは事実だ。そうすると、自分の力は使いこなせる方がいい。カーラルド王国まで、順調にいっても1か月は掛かるから、その道中で教えてやるさ」
「・・・分かった。頼む」
確かにこの世界では、戦うことが多そうだ。戦争はともかく、歩いているほとんどの人が武装しているか、護衛が付いている。服装や建物から、中世ヨーロッパくらいな気がするが、そうすると治安もすこぶる悪いんだろう。それに、ノイマンで出会ったあんな化け物みたいなのは知らんが、魔法のある世界だし、魔物とかがいても不思議じゃないからな。
カーラルド王国まではもちろん、その後も2人を探し、見つけられても下手したらこの世界で生きていかなきゃならない。そのためには、2人を守るだけの力を身に付けないと・・・
「よし、それじゃあまずは、着替えろ」
「え?」
「今のお前の格好は目立つ。そんなボロボロで、しかも見たことのない服だ。一般的な冒険者に見える格好をするんだ。テントの中に用意してあるから、着替えてくれ」
「分かった」
そう言われてテントの中に入る。
ただ、「一般的な冒険者に見える格好」って言うけど、デストンはめちゃくちゃデカいし目立ちそうだ。それにセリスはあの格好だ。デストンも、セリスの格好を珍しいって言ってたし、本当に大丈夫なのか・・・?
道中で見かけた格好に似ているのはムランだけに思えたが、まあいい。俺に与えられたのも、ムランに似た格好だった。
「これでいいか?」
着替えてそう聞く。
「ああ。そっちの服は、この中にしまっておけ」
なんとなく、捨てるのを躊躇われたのを見破られたようで、布製のリュックのような袋を渡された。そこに制服をしまった。
「よし、それじゃあ、まずはマカラに行って、冒険者登録だな」
そう言って、4人でマカラを目指して歩き出した。
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