第217話:カーラルド王国へ向けて

〜藤嶋浩也 視点〜


・・・・・・え? 今、クシュルはなんと言った?


「さすがだな。その通りだ。セリスとムランのことは・・・」

「セリス殿は、バンドン伯爵家の長女、ムラン殿はジルガン伯爵家の三男でしたかね」

「ああ」


セリスとムランも貴族!?

何がどうなってるんだ・・・


「それで、デストン殿、いえデラザー・ボリャーボラン様。ヒロヤ殿が説明を求めていますよ?」

「そうだな・・・。その前に、俺たちは今まで通りの名前で呼んでくれ。この名前・・・、貴族の名前は捨てた身だ。名乗りたくもない」

「そうでしょうね。承知しました。では、デストン殿、セリス殿、ムラン殿、と」

「ああ。・・・それで、ヒロヤ。まずは、騙して悪かったな」


そう言ってデストンが語ってくれたのは、彼らのこれまでの話だった。

クシュルの言うとおり、3人はダーバルド帝国の貴族家の出身だそうだ。3人は、年が近く、貴族のパーティーなどで顔を合わせていた。年を重ねて、ダーバルド帝国のやっていることについて知るにつれ、疑問を抱くようになった。自分らの親や家族も、ダーバルド帝国の貴族としてそれに加担している。彼らもゆくゆくは、それに関わることになる。


そのことに対する疑問や不満が高まる中、ダーバルド帝国内に、現在のダーバルド帝国のやり方に疑問を抱く一団がいることを知った。そしてそれを率いているのが、かなり身分が高い存在であることも。それから、その一団に接触し、仲間を集めた。それからいろいろあったらしいが、3人はダーバルド帝国を脱出し、ダーバルド帝国の周辺の国々で、自由に活動できる冒険者としての身分を生かして、情報収集や工作活動の手助けをしてきたらしい。


今回の俺の脱出もその1つ。ロメイルは、俺がダーバルド帝国の戦力として使われることを避けたく、俺が逃げることについて俺と利益が一致すると言っていた。デストンの言う一団の目的は知らんが、国家の転覆でも企てているのであれば、納得できる。


「なるほど・・・。デストンたちがダーバルド帝国の生まれだってのは驚いたが・・・」

「ヒロヤがダーバルド帝国に対して抱いているイメージや、怒りの感情を理解できるとは言わん。言えるはずもない。だが、これだけは言わせてくれ。国に代わって、心から謝罪する。申し訳ない」


そう言うと、デストンたち3人が、深々と頭を下げた。


思うところはある。できるかはともかく、ダーバルド帝国が滅んだらいいとすら思うし、あの施設にいた人たちのことは殺してやりたいくらいには憎んでいる。

だが、デストンたちに恨みがあるかといえば・・・、分からない。


「えっと、とりあえず頭を上げてくれ。召喚されて、あんな目に遭わされて・・・、正直、心底腹が立つ。けど、それはあんたらにってわけじゃない。貴族のこととか分かんねぇけど、とりあえず、カーラルド王国に連れて行ってもらって、妹たちを探す手助けをしてもらえれば・・・」

「それは約束する。できる限りのことはさせてもらう」


そう言って強く頷くデストンを見て、俺は信じようと思った。デストンと出会ってまだ数時間だが、この世界に来て出会った中で、最も信頼できると思う。



すると、俺たちの話を聞いていたクシュルが、珍しく動揺した様子で、


「ひ、ヒロヤ殿。1つお伺いしたいのですが・・・」

「ん?」

「今、『召喚された』と言いましたか?」

「ああ。そうだよ。俺は召喚されたんだ。妹とその友だちと一緒にな」


それから俺は、今に至るまでの話を詳しく話した。自分のことや、ノイマンの町での出来事も包み隠さず全てだ。


それを聞いたクシュルは、


「なるほど・・・・・・。驚きで理解が追いついていない部分もありますが、大体は理解しました。そしてヒロヤ殿は、カーラルド王国に向かっていると思われる、妹さんとそのお友だちを探したい、と」

「ああ、そうだ。とりあえず2人と合流してから今後のことを考えようと思ってる」

「・・・そうですか。・・・・・・分かりました。・・・ふむ。でしたら、ヒロヤ殿、私と取引をしませんか?」

「取引?」

「はい。先ほども申しましたように、私はカーラルド王国に所属していますし、ある程度は顔も利きます。お二人の捜索に協力できるでしょう」

「ほ、本当か!? ・・・・・・・・・けど、その対価は?」

「簡単な話です。ダーバルド帝国に召喚され、ノイマンの町の襲撃の場にいた証人として、証言していただきたいのです」

「証言? それって、誰にだ?」

「少なくとも私の上司に。場合によっては我が国の宰相や軍務卿などに」

「・・・・・・それって、貴族、だよな・・・?」

「左様です。ですが、それはお気になさらず。事情を考慮し、証人としての地位を保証いたしますので」


・・・・・・どうするかな。協力はしてほしい。カーラルド王国がどれほど広いのかは知らんが、俺が1人で探すのが難しいのは間違いない。それはデストンたちの手を借りても同じだ。

クシュルの地位や立場を詳しくは知らないが、この申し出が嘘だとは思えない。


じゃあ、俺がすることは? 証言するのは構わない。最初は、ダーバルド帝国の関係者として拘束されたり、殺されたりしないかと思って隠していたが、今はもう関係ない。それに、聞いた感じでは、カーラルド王国とダーバルド帝国は敵対・・・、少なくとも仲が良いわけではない。



「わ、分かった。信じていいんだな?」

「ええ。ダーバルド帝国はカーラルド王国にとっては、敵国です。まだ直接の戦闘こそありませんが、戦争間近の状態です。そんなダーバルド帝国から来た、貴重な情報源を無下に扱うことはいたしません。失礼な物言いをお詫びしますが、これが本心です。あなたのお連れのお二人についても、あなたのためでなくとも、捜索対象です。同じく召喚されたのであれば、少なくとも放置はできません」

「・・・・・・それって」

「ああ、ご心配なく。情報をきちんと提供していただければ、あなた方3人の安全も身分も保証いたします」


・・・・・・怖いな。正直な話、2人を人質に取られて、何かを強要されるかもしれない。けれど、2人を見つける方法として、クシュルの申出を受けるのが一番早いのは間違いない。

それに、既に2人のことを教えてしまった。2人を探す、というのが本当なら、俺が情報を提供することで、纏めて保護してもらうのが一番だと思う。もちろん騙されて・・・、というのは考えられるが、現状ではどうしようもない、か・・・


「分かった。あんたを信じる。俺が見たこと、体験したことは全て話す。だから、カーラルド王国に連れて行ってくれ。それで、2人を探してくれ」

「承知しました。まあ、そう気を張らずに。ダーバルド帝国でどのような目に遭ったのか、想像でしかありませんが、その様なことにはなりません。我が国は、様々な種族が暮らす国ですし、基本的に奴隷制度もありません。私利私欲にまみれた貴族は少し前に概ね消え失せましたので」

「そ、そうか・・・」


そうして、俺たち4人はクシュルの商会の馬車の護衛として、カーラルド王国を目指すことになった。

それに先立ち、


「先に、国の方に現在の状況を報告します。その中に、ヒロヤ殿の情報を入れてもいいでしょうか? お二人の捜索も依頼しておきます」

「ああ、頼む」

「ありがとうございます。それでは、お二人の見た目などを教えていただけますか?」


それから俺は、2人の特徴をできる限り多く伝えた。

ここからカーラルド王国までは目的地である王都まで大体1か月くらい。情報を報告するというのは、『フェイヤー』という魔獣を飛ばして2週間くらいらしい。

いきなり魔獣とか言われて驚いたが、任せることにした。

不安が多いが、俺にできることをやるだけだ。とにかく、カーラルド王国の王都を目指す。そして道中で、デストンの手を借りて、自分の能力とやらを身に付ける。

できることをやっていれば、自ずと道は見えてくるはずだから・・・


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