第212話:2人を探すために

〜藤嶋浩也 視点〜


「分かった聞こう。話してくれ」

「ありがとうございます。時間が無いので手短に。先ほどの爆発音は、私の仲間による陽動です。別働隊に仕掛けました。目的は藤嶋浩也様と話をする時間を設けることです」

「俺と?」

「はい。最初は、7人と話をする予定でした。ですが、直前で兵士の配置換えが行われ、私の他に皆さまに近づける人員がいませんでした。個別に話をする必要がありましたので、やむなく藤嶋浩也様にのみお話ししております」

「・・・分かった。後、丁寧なのは構わんが『様』は止めてくれ。名前も藤嶋でいい」

「承知しました。では、藤嶋殿、と。それで本題ですが・・・、あなたには逃げていただきたいのです」

「・・・・・・は?」


こいつがあのクソ貴族とは立場というか意見が違うのはなんとなく分かっていたが、逃げろだと? これまでアイツらから聞いていた話によれば、俺たちは兵器として扱われている。それを逃がすってことは、反乱でも起こそうってのか?


「戸惑うのは最もです。詳しくお話ししている時間はありませんが、我々は今の国のやり方に疑問を持っています。故に、その最たるものである皆さまには、ダーバルド帝国から脱出していただきたいのです」

「それはまた、ずいぶんと勝手な」

「申し訳ありません。一方的にこちらが召喚し、非道な仕打ちを行っているのは事実です。そのことについて謝罪の言葉もありません。ですが、今の私にできるのは、せめてこれ以上辛い思いをしないよう、逃がすことのみでして・・・」

「なるほどな。逃がしてもらえるのは、俺にとってはありがたいし、あんたらにとっても利益があると」

「左様です」

「それで、2人は? 俺の妹とその親友の女の子は?」


それから聞いた話によれば、2人にはクソ貴族たちが求めていた能力が無く、他の人たちと同様に処分、要するに殺されるところだったらしい。それを、こいつらが連れ出して、逃がしたと。

2人を含めて4人の同郷者が、森を抜けてカーラルド王国という国を目指しているのだとか。


「つまり、俺にもそのカーラルド王国に向かえと?」

「はい。ですが、彼女たちを逃がしたのはカーラルド王国の近くでした。ここはカーラルド王国からは離れておりまして・・・」


俺たちが向かっていたのは、ジャームル王国のノイマンという町。地図なんか見たことないのでイメージだが、ダーバルド帝国とカーラルド王国を隔てる山脈を迂回するように、ジャームル王国がある。そのジャームル王国を抜けて、カーラルド王国を目指すことになりそうだな。


「それじゃあ、今逃げ出して後ろに向かってもダメなわけか」

「はい。タイミングとしては、ノイマンの町への攻撃が開始してからがよいかと。その・・・、藤嶋殿は最前線に配置されるはずです。ある程度自由に動き回れるはずですから、ノイマンの北側へ向かい、町から脱出するのが最適かと」

「分かった。だが、あの呪文をどうにかしないと・・・」

「それは大丈夫です。隠されていることですが、あれは対象者が見える範囲でしか効果がありません。魔法使いの視界から外れ、逃げれば問題ありません」

「そうなのか・・・。分かった。それで、町から出た後は?」

「そのまま街道を北へ進んでください。歩いて2日ほどの距離に、マカラという町があります。その入り口付近にデストンという冒険者の男が待っています。左目に眼帯をして、大きな剣を背負った男性です。おそらく向こうから近づいてくると思います。彼に、『赤い空と黄色い森』と告げ、『ロメイルに聞いた』と言ってください。それが合図になります」

「わ、分かった・・・。にしても変な合言葉だな」

「覚えやすいですから。時間のようです。魔法使いが戻ってきます。馬車に戻ってください」


そう言うとロメイルと名乗った男は、俺を馬車へと押し戻した。それから少しして魔法使いたちが戻ってきた。

馬が逃げたため、俺たちは別の馬車へと移された。そして再び、馬車は移動を開始した。



 ♢ ♢ ♢



本陣らしき場所に到着すると、俺たちは馬車から降ろされ、1つの大きなテントの中に連れてこられた。中には魔法使いがたくさんと、クソ貴族、やつの腰巾着に、兵士が何人か。ロメイルと名乗った男がこの中にいるのかは分からない。ロメイルはヘルムを被っていたからな。


「よし。グラリオスのせいで、進軍の計画が遅れたが、なんとか間に合ったな。よく聞け。明朝、栄光あるダーバルド帝国の新たな一歩、ジャームル王国討伐の第一歩として、ノイマンというちんけな町を攻め滅ぼす! 1番から4番、貴様らは魔法使いに従い、町を守る壁を破壊しろ。その後は、兵士を殺せ。良いな?」

「「「は、はい」」」


3人が震えながら返事をしている。

一方で板倉が、


「市民は殺さねーのか?」


と聞き返した。

クソ貴族はいつも通り不快そうにするが、


「ふんっ。多少は殺して構わん。だが、住民は捕らえて奴隷とする。制圧後に殺すことは許さん。貴様らの功績は、兵士を殺した数を計算する」

「わかったぜ」


ニヤニヤと笑う板倉。

あいつ、何考えてやがる? 戦わざるを得ないのは仕方がないとして、積極的に殺す必要が? というか、こいつは殺すことに、何か思うことはないのか? 倫理観は地球に置いてきた・・・、元々持ってねぇのか。


今度は俺たちの方を見て、


「次に5番から7番。貴様らは壁が破壊される前に町の中に入り、壁を守る兵士を始末しろ。その後は、1番から4番と同じく、順に敵を始末していけ」

「「「分かりました」」」


俺たちは静かに応じる。

逃げるのは壁が壊れる前か? 魔法使いが付いてこないのならいけるかもな。


「よし。それでは、自分のテントに戻り明日に備えろ」


そう言うや否や、俺たちは兵士に追い立てられ、テントを後にした。



俺たちに与えられたテントに戻る途中、板倉が、


「お前ら! 俺の足を引っ張るんじゃねーぞ!? 俺は英雄になるんだからな。お前らみたいな雑魚とは立場が違うんだよ!」


と大声で言ってきた。

・・・・・・こいつは、何を言ってるんだ? 英雄、だと? というか、どういう生活をおくれば、そんな思考回路になるんだ?


ただ、俺にはこいつの相手をしている余裕はない。

何度も何度もシミュレーションを行い、逃げるタイミングを考える。魔法使いが近くにいるパターンにいないパターン、壁が壊れる前に逃げることができるパターンに無理だったパターン等々・・・



翌朝、珍しくきちんと与えられた朝食もそこそこに、移動を開始した。

少し歩くと、遠目に大きな壁が見えてきた。その前では兵士らしき鎧に身を包んだ人たちが動き回っていた。

そしてこちら側。番号で呼ばれる俺たち7人に、それを監視する魔法使いたち。兵士が300人くらいいる。そして、何やら不気味な集団がいた。その醸し出す雰囲気が異常なのはもちろん、その見た目が恐ろしい。とても人とは思えない身長の者もいれば、見間違いでなければ腕が3本以上ある者、羽根が生えている者・・・


「あれは、味方なのか?」


誰かがそう呟いた。

それに対する応答は、


「あれは我が国の戦力ではある。しかし、貴様らよりも化け物に近い者共よ。必ず

アイツらよりも成果を上げるのだ」


とのことだった。

答えたのはべズルという腰巾着だ。つーか、「貴様らよりも」って、俺たちも化け物扱いなのかよ・・・。本当に身勝手な連中だよな。



5番から7番と呼ばれる俺たちは魔法使いの指示に従い、壁に向かって進む。板倉を含め1番から4番は、別のところへ集められている。


待機を命じられて少し、板倉たちが配置されていた場所から、火炎の渦が壁に向かって放たれた。続けて水流の渦が、巨大な岩石が、壁に向かって放たれる。

反対側を見れば、先ほど見た異形の姿をした者たちが、それぞれの特徴を活用して、壁に向かって攻撃を始めていた。腕が多いものは1人で複数の兵士を倒し、羽が生えている者は壁の上に飛び上がり、壁の上から魔法や弓を放っていた敵を倒している。


そんな中、俺たちを管理していた魔法使いが、


「お前たち! 突撃だ」


と叫んだ。

他の2人は躊躇っていたが、この町の北側から逃げることを決めている俺にとっては願ってもない命令だった。

魔法使いが首筋に手をかざした。少しすると身体中から力が漲ってくる。これまで何度も試された、俺の能力というやつだ。


幸いにも魔法使いが付いてこないことを確認し、俺はノイマンに向かって走り出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る